68.やっぱりカラーひよこは売っていたらしい
ポチたちには、イノシシの内臓は日曜日にもらってくると言ってある。さすがに土曜日の夕方取りに行くというのは時間的に厳しいからだった。さすがに秋本さんの職場で夜明かしは避けたい。
ニワトリたちの分は専用のビニールシートの上に置いてもらえた。イノシシの肉と豚肉、そして野菜類である。陸奥さんたちの好意が身に染みた。本当に頭が上がらない。
シシ肉は先に煮込まれてからBBQになったものとシシ鍋になったものに分かれた。俺は特に好き嫌いはないのだが、それでもここに来てから沢山野菜を食べるようになったと思う。
シシ肉の他に鶏や豚肉も焼かれている。もちろん肉はおいしいが、ピーマンやナス、トマト、ネギなどがとてもおいしかった。
「なんでこんなに野菜がおいしいんだろうなぁ……」
うちの実家も小さい畑があったが、こんなに野菜がおいしかったという記憶はなかった。
「おいしいって言ってくれて嬉しいわ。あの人も喜ぶわね」
男性陣でビニールシートに座って食べているところに陸奥さんの奥さんが通りかかった。こういう時村では自然と男女はそれぞれに分かれる。女性たちがビールや料理の世話をしてくれることはあるが、男は基本動かない。飲み食いしているだけだ。俺は一応ニワトリたちの動向の確認をしているが、アイツらも何かあれば俺のところに来るからそれほど気にする必要はなかった。
「漬物もおいしいですよね。若い頃はしょっぱいしクセはあるしであんまり好きではなかったんですけど……」
相川さんが頭を掻いて言う。
「相川さんはまだまだ若いじゃない!」
「いえいえ、最近遅くまで起きているのがつらくなってきましたよ~」
陸奥さんの奥さんがコロコロ笑う。そうして奥さんは戻って行った。
ビールを二本空けたところで陸奥さんのお孫さんが他の子たちと一緒に近づいてきた。そのおそるおそるという体に?が浮かぶ。その子たちは俺の前にやってきた。
「あの~、佐野さん、ですよね?」
「うん、そうだけど?」
「これ、食べてください!」
皿に野菜やら肉やら盛られている。
「あ、うん。ありがとう?」
なんだろうと思いながら皿を受け取った。
「あのぅ……その、ニワトリ? なんですけど……」
「うん、うちのニワトリがどうかした?」
どうも中学生を筆頭にうちのニワトリたちが気になってしかたないらしい。四人の子どもがちらちらとニワトリたちを窺っている。ニワトリたちは我関せずで肉をつついていた。
「あんなでっかいニワトリどこで買ったんですか?」
「どこでって……村のお祭りの屋台だけど?」
「えええ!?」
「見た?」
「ううん、見てない……」
「えー……」
子どもたちがわちゃわちゃと言い合う。ちょっと騒がしい。
「えーと、ニワトリで売ってました?」
「いや? カラーひよこを買ったんだよ」
「あー!」
「そういえば青いひよことか売ってたー」
「ピンクの見たよー」
「あーそっかー」
どうやら心当たりはあったようだ。よかった、俺だけが見えてたわけじゃなかった。会う人会う人にそんな屋台あったっけなみたいな顔をされて、もしかして俺だけにしか見えてなかったのかとおかしな気持ちになっていたのだ。正直何かのお導きとかではなくてよかったとほっとした。
「生き物売ってる屋台って他に見たことある?」
「うん。ちっちゃい蛇とか? 売ってるの見たことある。気持ち悪くてすぐに逃げたけど」
相川さんちの大蛇だろうか。
「一昨年だっけ? トカゲとか売ってたよねー。誰が買うんだろー」
桂木さんちのドラゴンさんかな。
「亀も見た。そこらへんで捕れそうだったけど」
「ザリガニとかもわざわざ買わないよね」
ザリガニはともかく、亀って、なんかないか?
冷汗をかく。
「そうなんだ? じゃあ生き物を売ってる屋台って普通にあるんだね」
「にーちゃん何言ってんの? 金魚すくいは毎年あるだろ」
それもそうだった。金魚すくいは定番である。
「今年久しぶりにお祭りに行ったから、忘れてたよ」
すでに国外に出ているだろう彼女とは秋口にいいかんじになったのだ。二人でお祭りなど行くタイミングもなかった。年が明ける前には婚約して、それから……。
ふとこんな風に思い出しては切なくなったり腹が立ったりと忙しい。
「夏祭りにカラーひよこ売ってないかなー」
「うちのニワトリみたいに育つかどうかはわからないだろ?」
「あー、そっかー」
そう言いながら子どもたちはちらちらニワトリを見ている。ああなるかも? なんて思っているのだろうか。
「それに……うちのニワトリたちみたいに育ったらたいへんだぞ。うちは山だからいいがそうでなければ餌代だってばかにならないし、羽を整えたりとか健康状態も見てやらなきゃならない。それに運動量も多いから飼うにはそれなりの土地の広さが必要だ。狭いところだと運動不足になるから夜中に起きて鳴いたりもするんだ」
「そっかー……」
うちのニワトリたちはそりゃあかわいいが、安易に飼えばなんて言えない。飼うことのデメリットを話せば子どもたちも多少は理解したようだった。
「ニワトリ、触ってもいいですか?」
「今は食事中だからだめだよ。落ち着いたら呼んであげるから待ってて」
子どもたちは素直に頷いた。みんないい子だなと思いながら、持ってきてくれた食べ物を食べた。さすがにもう冷めていた。
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