66.ニワトリを自力で捕まえることができると、いつから勘違いしていた?

 よく考えなくても山の見回りは欠かせない。夕方に着くように向かえばいいから多少時間はある。まずタマを捕まえることにした。


「ユマ、今夜はタマも一緒に行くから探してきてくれないか?」


 ユマは頷くように首を動かすと、タタタッと駆けて行った。

 真昼間である。朝早い時間ならタマも家にいたかもしれないが、この時間家の中にいるはずがなかった。とりあえず家の窓という窓を開け放って換気をし、家の周りや畑の見回りをした。

 うん、今日も雑草が元気に繁茂している。

 だからお前らはいつ成長してるんだっての。

 畑の周りの雑草を引き抜いていると、ユマがタマを連れて戻ってきた。ユマさまさまである。


「タマ、ただいま~」

「オカエリ~」


 ああなんだろうこの多幸感。つい顔がにやけて崩れてしまう。

 と、タマが一歩後ずさった。何コイツ、みたいな目で見られている。いいかげん泣くぞ。

 気を取り直してこれからのことについて話をすることにした。


「ユマに聞いたか? 昨日ポチとユマが猟師さんの土地でイノシシを狩ったんだ。で、今夜それを猟師さんちに食べに行くことになってる。相川さんも来るけど……って待て! 話は最後まで聞け! ユマ、タマを止めてくれ!」


 相川さんと聞いた途端タマは踵を返した。だからどんだけリンさんとテンさんが苦手なんだよ。ユマにどうにか前に回ってもらい阻止してもらった。

 あれ? これって、やっぱポチかユマに来てもらわなかったらどうにもならなかったってことか。当たり前のように助手席に納まってくれたユマに感謝である。


「タマ、今日はリンさんもテンさんもこないから! 今夜も泊りになるから絶対にこない! 保証する!」


 リンさんを連れて行って一晩中車の中に置いておくことはできないし、テンさんは車自体があまり好きではないらしい。先日うちに来たのはアメリカザリガニ食べたさである。イノシシの肉は相川さんが一部持って帰るということで話がついているからテンさんだけ来るとは考えづらい。そして夜飲酒運転するなんて恐ろしいことは絶対にできない。村の中はともかく、この辺りの山は街灯なんてしゃれたものはないのだ。死んでしまう。

 それでも疑わしそうな顔をしているので相川さんに電話をかけた。


「佐野さん、どうしました?」


 タマにも聞こえるようにスピーカーにした。


「すいません、陸奥さんちにはリンさんとテンさんは連れていかないんですよね?」

「ええもちろん。リンは車から下りませんし、テンは……さすがに視界の暴力ですよね。あんなのが田畑にいたら通報されちゃいますよ」

「ははは……ありがとうございます。すいませんでした。ではまた後で~」

「また」


 視界の暴力かー。確かにあんな開けたところに大蛇がいたら怖いよなー。身体の弱い人なら心臓麻痺とか起こしそうだ。救急車だけでなく自衛隊まで派遣されそうである。

 電話を切ってタマを見る。


「な、俺の言った通りだったろ? 一緒に行こう」

「イコー」

「……イコー」


 しぶしぶではあったがやっと同意してくれた。本当に気難しいニワトリである。ま、タマはそれでいいんだけどさ。

 今日は家に鍵かけていいんだよな? 指さし確認をする。

 ユマは助手席、タマを荷台に乗せて山を下りた。もちろん麓の金網にも鍵をかける。道はだいたいわかったので陸奥さん宅には各自で行くことになっている。途中雑貨屋に寄ると、もう下校時刻を過ぎたせいか子どもたちの姿を見た。


「あー! ニワトリだー! でっかーい!」

「にーちゃん触っていいか?」

「ニーワートーリー!」

「ニワトリたちにちゃんと断ってから、優しく触れよ。羽抜いたりしたら蹴られるからなー」


 蹴られたら重症になりそう。そろそろうちの山にも猛獣注意の看板を設置した方がいいだろうか。


「はーい」


 子どもたちはなかなかに素直だ。手土産にビールを箱買いして、すぐに雑貨屋を出た。


「えー、もう終わりー?」

「はやーい!」

「また今度なー」


 子どもたちのブーイングを背に、タマとユマを軽トラに乗せる。二羽もためらわなかったからそれでいいのだろう。

 例え話だが、大型犬は訓練されているからおとなしいが、猛獣である。散歩をしているとおとなしいからと断りもなく触ろうとする人もいる。だが犬だってびっくりすれば何をするかわからない。いくら訓練されていてもとっさに噛みついてしまうことがないとはいえない。勝手に触る人が悪いのに噛みついたら犬が悪いことになる。最悪処分されることだってある。だから動物に触れたいと思っても、勝手に触らないようにしてほしい。そして飼主の許可を得たとしても、触る時は優しく触ってあげてほしい。

 うちのニワトリたちは子どもの手を嫌がらないからいいが、それでも我慢はしているはずだから。


「ポチが待ってるぞー」


 そう言ってエンジンをかける。

 ポチは田畑を駆け回っているだろうか。また蛇を捕まえたりしているだろうか。陸奥さんの土地は広いから、さぞかし走りがいがあるだろう。ポチがツッタカターと走っている姿を思い浮かべてにまにましてしまう。

 俺って本当に自分ちのニワトリが好きなのだなとしみじみ思った。



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「ハエトリグモより有能?」

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短編・ラブコメです。ハエトリグモが好きな女子が合コンに引っ張り出されて?

よろしくでーす。

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