49.子どもたちに大人気!

「なーなー、にーちゃん」


 みんなが落ち着いた頃、子どもに腕を引かれた。


「ん? なんだ?」

「ニワトリちゃんたちと遊んでもいーい?」


 俺はニワトリたちを見た。三羽とも頭を下げるような動きをした。かまわないらしい。


「見回りが終わってるならいいけど……」


 おっちゃんを窺うと、「ま、今日はもういいんじゃねーか」とニカッと笑った。


「わーい!」


 子どもたちが歓声を上げ、ポチとの鬼ごっこが始まる。タマとユマは女の子たちに抱き着かれていた。なんか、俺が知らないうちにかなり懐かれてしまったようである。


「俺もいれろよー!」


 服を着替えてきたマコト君がポチの方に突撃していく。あれはよく怪我をして帰ってくるタイプだなと頼もしく思った。母親からしたら気が気じゃないだろうけど。

 夫婦は家の中に一旦戻って行った。おっちゃんと子どもたちを見守る。ここは若い世代が固まっているらしく子どもが七人いる。今のところ一軒につき一人という状況のようだが、これからきっと増えていくのだろう。


「……子どもがいるっていいですよね」

「ああ。子どもは国の宝だ。大事に育ててやんなきゃなんねえ」


 ユマとタマは女の子たちに連れられて雑草のあるところにいる。女の子たちが草で何やら作っているのを興味深そうに見ていた。


「……うちのニワトリたちが、こんなに子どもたちに好かれてるなんて知りませんでした」

「昇平は山の上にいるからな。最初は怖がっててもな、見た目でっかいニワトリだろ? 翌日にはもう仲良くなっちまってるんだ。アイツらもなんだかんだいって面倒見がよくてよ。あんなニワトリどこで買えるんだって毎日聞かれてうるせえぐらいだ」

「そうだったんですね……」


 全然知らなかった。うちに帰ってくれば変わらず山のパトロールをしてくれていたから。


「だからよ、出張が終わってからも週一ぐらいで田畑を回ってやってくれ。子どもたちも喜ぶ」

「そうですね」


 ニワトリたちも子どもが好きみたいだし、たまにならいいかな。さすがに週一は厳しいけど。


「きゃーー!」


 おっちゃんと話していると女の子たちの方から悲鳴が聞こえてきた。何事かとそちらを見やればユマが蛇を口に咥えている。俺たちは慌ててユマの側へ駆けて行った。


「なんだ、アオダイショウじゃねえか。田んぼに放っちまえ」


 おっちゃんに言われて、ユマがぽーいとアオダイショウを放った。


「びっくりしたー」

「ユマちゃんありがとー」


 女の子たちがはあはあと驚きで胸を喘がせながらいっていた。


「アオダイショウぐらいでびびってるんじゃねえよ」

「蛇ってだけで怖いじゃん!」

「足ないんだよ! 気持ち悪いでしょ!」


 おっちゃんの物言いに女の子たちが抗議する。おっちゃんはたじたじになった。女の子にはかなわない。俺は苦笑した。


「お兄ちゃんもそう思うでしょ!?」


 こっちに矛先がきた。


「うん、そうだね。俺もニワトリたちにマムシとってもらったりしてるしな」

「えー、山ってやっぱマムシいるのー?」

「いるよ。けっこういる」

「こわーい」


 うん、怖い。虫の多さはそれほど変わらないかもしれないけどいろんな生き物がいる。


「なんでにーちゃん山に住んでんの? 下りてくればいいのに」


 マコト君だった。


「……大人にはいろいろあるんだよ」

「大人の事情ってやつ?」


 意味もわからないで使ってるなと思う。なんとも都合のいい言葉だ。


「うん、そんなかんじ」

「あー、ポチちゃんたちいたー!」


 なんか子どもが増えた。おっちゃんを見やる。


「子どもたちに大人気でな。ここにいるってーと探してやってくるんだ」


 すごく情操教育によさそうである。


「そのうち小学校から呼ばれたりしてな」

「ポチ先生とタマ先生かー」


 意外と似合いそうだと思ってしまった。

 でも飼主としてのわがままを言わせてもらうなら、やっぱりうちの山の中で駆けずり回っていてほしいと思うのだ。

 日が長くなってきたが、もう少ししたら太陽が帰っていくだろう。思ったより話し込んでしまった。


「おーい、ポチータマーユマー帰るぞー」

「えー、もう?」

「帰っちゃやだー」


 子どもたちに抗議されたが暗くなると運転するのが怖い。日が落ちる前に山の上に戻っておかないといけないのだ。


「また明日もここでしたっけ?」

「ああ、この辺りだな」


 おっちゃんに確認をとる。


「明日も来るからー!」

「わかったー」

「ポチちゃんまた遊ぼー」

「タマちゃんまた明日ねー」

「ユマちゃんかわいーい」


 なんか違うのが混ざっている気がしたが、俺はそのままニワトリたちを乗せて山に戻った。うちのニワトリたちの違った一面が見れて新鮮だった。


「……なぁ、これからもずっと村に出張したいと思うか?」


 夜になって落ち着いてから聞いてみる。

 ニワトリたちはコキャッと首を傾げた。


「今週が終われば村への出張は終わるんだ」


 ニワトリたちが頭を下げるように動かす。わかっていると言っているみたいだった。


「来週以降も、出張するか? それともしない?」


 おっちゃんに、他の集落からも来てほしいという話があると言われた。そうしたら出張は延長になる。でもさすがに来週以降の謝礼は微々たる額しか出せないと言われた。だから断っていいとも。

 お金の問題ではない。もしニワトリたちがまだ村で活動してもいいと思うならと聞いてみたら、


「……シナイー」

「イカナイー」

「ヤダー」


 意外にも断られた。


「……え? なんで?」


 あんなに楽しそうに子どもたちと遊んでいたのに。


「ヤマー」

「ヤマー」

「サノー」


 前半はポチとタマだ。ユマは俺と一緒にいてくれるらしい。なんかうちのニワトリたちらしいなと、俺は笑ってしまった。



ーーーーー

フォロー、★などいただけると励みになります。どうぞよろしくお願いします。


宣伝です。

3/16「異世界から出戻って焼き鳥を食べてる」短編・異世界ファンタジー?を上げました。

https://kakuyomu.jp/works/16816927861652921029

さらりとどうぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る