34.ペットを自然に還すの、ダメ、絶対!

 あれから、またポチはどこからかヤマカガシを捕まえてきた。おっちゃんがあまりにも喜んで褒めるものだから、更に出かけていこうとしたのをどうにか抱き着いて捕まえた。当然ながらまた盛大につつかれた。ポチの嘴生臭い、やだなーと言ったらなおのことつつかれた。ひどい。


「今夜集まりがあるから、そん時にこれ見せて対応決めとくわ。ポチ、ありがとうなー」


 おっちゃんはヤマカガシを持って上機嫌だ。あんまり褒めるとまた調子に乗って駆けていってしまうからやめてほしい。


「ポチ、今日はもう帰るぞ!」


 ビシッ! と厳命して軽トラに乗せようとしたが汚い。外の水道でポチをざっと洗い、バスタオルでがしがし拭いてから軽トラに乗せた。

 全然しまらない話である。


「……ポチ、やっぱ嘴生臭い……」


 口も漱がせればよかったと後悔した。さすがに運転中はつついてこなかったが、家について降りたらつつかれた。なんでだ。

 雨のおかげでどこもかしこも湿っぽい。その日は家の中を点検して回った。

 翌朝の遅い時間におっちゃんから電話がきた。


「明日からニワトリを二羽貸してくれ。で、悪いんだが詳細を話したいからこれから来てもらっていいか」

「わかりました、伺います」


 どうせこの時期は何もできないし。


「ユマ、ポチとタマを連れて来てくれ。これからまたおっちゃんちに行く」


 ユマは心得たというようにそれほど時間も置かず二羽を連れて戻ってきた。

 明日からは二羽が村に出張になること。これからおっちゃんちに行って詳しい話を聞くということを伝えたら、みんな着いてくることになった。なかなかに頼もしい話である。とはいえ助手席に三羽は乗れないので荷台にブルーシートを被せ、その中に一羽は入ってもらうことになった。ら、ポチとタマが荷台に乗ってくれた。


「どっちか助手席じゃなくていいのか?」


 と聞いたらタマにつつかれた。なんでだ。

 今日は手土産にみすず飴を持って行った。ちょっと変化がほしかったのだ。


「おー、全員で来てくれたのか、ありがとうなー。まぁ上がれ。ポチ、今日は狩りに行かなくていいぞ。明日から頼むな」


 今にも駆けだそうと足元の石を掻いていたポチだったが、おっちゃんに言われて動きを止めた。


「庭で待ってる?」


 と聞いたらポチにつつかれた。だからなーんーでーだー。

 いいかげん作業着に穴が空きそうである。


「昇平は一言多いんだ」


 おっちゃんが笑って言う。そうなのかもしれない。でもそれでつつかれるのは納得がいかない。


「昨日ポチが捕ってきたヤマカガシを村の連中に見せた」

「はい」


 おっちゃんが説明を始める。俺は居住まいを正した。土間でニワトリも座り、神妙に聞いている。なんとも珍しい図だった。


「昨日の短時間で二匹も捕ってきたから、おそらく相当数いる可能性がある」

「……そんなに飼ってたんですか?」

「いや、放り始めたのが昨年の春頃からだっつー話でな。夏は産卵の時期だ。おそらく俺らの知らないところで繁殖しちまったんだろう」

「それは……怖いですね」

「ただなぁ……ヤマカガシは普通冬眠前に交尾して夏に産むんだ。もちろん冬眠明けに交尾する場合もあるがな」

「ってことはまたそろそろ産卵の時期ですかね」

「ああ……ある程度はいてもいいが増えすぎるのは厄介だ。ってことで二羽、とりあえず一か月ほど村に貸してくれ。もちろん金は払わせる」


 おっちゃんに頭を下げられて驚いた。


「ええ? いや、お金なんて……」

「だめだ」

「え?」

「そういうことはなあなあにしちゃいけねえ。昇平んとこのニワトリは山で随分活躍してるはずだ。それがいきなり二羽いなくなってみろ。間違いなく弊害が起こる。その迷惑料も兼ねてんだからしっかり受け取れ」

「……はい」


 確かに一か月も二羽いなくなるのはきつい。交替で出てもらう形になるだろうが、毎日送迎はできないからおっちゃんちで預かってもらい、何日かに一度連れ帰るようになるんだろうな。


「そしたら、おっちゃんちにもお金入れないとですよね」

「それは気にするな。畑の虫捕りをしてくれるだけですごく助かるんだ。むしろこっちが金を払わなきゃいけないぐらいだ」

「そんな……」


 そんなにうちのニワトリが買われていると知り、俺は頭を掻いた。


「土日は休んでくれていい。悪いが明日から頼むな」


 コッ! とポチが勢いよく鳴く。交渉成立のようだ。さすがに夕飯時までいるわけにはいかないのでお茶とお茶菓子をいただいてから帰ることにした。ちなみに昨日相川さんが持ってきたのは有名な洋菓子店のお菓子だったらしい。モテる男は違うよなと思った。(別にひがみではない

 おばさんには夕飯にと、おかずをタッパーに入れて持たされた。ありがたいことである。

 一か月間の二羽の貸し賃はけっこうな額を提示された。さすがに多いのでは……と言ったがしっかり受け取るようおっちゃんに諭された。二度とこんなことはないだろうが、もしまた似たようなことがあった時の目安になる。多い額から減額はできるが、少ない額から増額は難しい。確かにそうかもしれないと納得した。


「昇平、お前だけの問題じゃないんだ。受け取ってくれ」

「はい、わかりました」


 それを言われてしまったら何も言えなくなった。

 そんなわけで臨時収入を得られることになったので、ニワトリたちの予防接種を真面目に考えることにした。

 明日はポチとタマが出動してくれるようである。

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