24.隣山に呼ばれたので行ってみた
うちのニワトリたちは別にユマだけが優しいわけじゃない。それぞれ性格が違い、彼らなりの役割分担があるようだった。
桂木さんの山を訪ねる日、タマとユマが軽トラに乗り込んだ。
「ポチは?」
と聞くと胸を張ったかんじで仁王立ちした。(首を上げるといつもそんなかんじではある)留守番をしてくれるようだった。
「じゃあポチ、留守番よろしくなー」
と頼んで車を出そうとしたらLINEが入った。相川さんからだった。
「いい酒が手に入ったので飲みませんか。是非泊っていってください」
相川さんも寂しいのだろう。ここで相川さんの事情を知っているのは俺だけだろうし。ちょっと迷ったが、
「今日は用事があるので明日でいいですか」
と送った。「OK」とすぐに返事があった。桂木さんの山からは明るいうちに帰ってくるつもりだが何が起こらないとも限らない。いくらLINEで連絡が取れるからと言っても余裕を持った方がいいだろう。山の手入れはどうせ毎日しなければいけないから。
金網のところの鍵が開いていたのでそのまま入り、鍵を閉める。こういうのも遠隔操作とかでなんとかならないだろうかと思うけど、周りの確認もした方がいいからこれはこれでいいのだろう。
桂木さんの軽トラの隣に止めると、車の音で気づいたらしく彼女がひょこっと出てきた。作業着姿にタオルを挟んだ麦わら帽子、首にタオル、軍手となかなかの重装備である。山の上はまだ涼しいからいいがこれから暑くなってきたらつらいだろうなと思った。
「こんにちは」
「佐野さん、こんにちはー」
収穫したものを入れた籠を運ぼうとしていたので手伝った。トマトや小松菜、えんどう豆などけっこうな量が採れている。こんなに一人で食べきれるのだろうかと考えてしまう。トマトって夏のイメージがあるけどもう採れるのかと感心してしまった。
「ありがとうございます。なんか思ったよりよくできてしまって……」
桂木さんが嬉しそうに言った。
「よろしければ野菜も持って帰ってください」
「それはありがたいです。いただいていきます」
前回とは違って外にいるのが気持ちのいい気候だ。村まで行くと暑いと思うけど、山の上は快適である。……虫さえいなければ。
「あ、そうだ。タツキさんはどちらに?」
「家の……影にいると思います」
「挨拶してきますね」
タマとユマを連れてドラゴンさんを探しに行く。思ったより近くにいてびっくりした。畑の側の木の下でドラゴンさんは寝そべっていた。写真に撮ってSNSに上げたくなるぐらい絵になる光景である。(上げないよ!)きっと桂木さんが心配でできるだけ近くにいるようにしているのだろう。
「こんにちはタツキさん、お邪魔しています。うちのニワトリが虫とか食べていってもいいですか?」
ドラゴンさんは薄っすらと目を開け、軽く頷いてくれた。
「ありがとうございます。タマ、ユマ、いいってさ」
そう言うと何故かタマはドラゴンさんに近づき、その身体をつつき始めた。俺は慌てた。
「タ、タマぁっ!?」
「わぁ……すごい。虫を取ってくれているんですかね。アカハシウシツツキみたい……あ、でもワニと共生関係にあるのはナイルチドリだったかしら」
桂木さん、ドラゴンさんをワニって言った。ドラゴンさんは気持ちよさそうにされるがままなのでいいのかもしれない。さすがに肝を冷やした。
ちなみにアカハシウシツツキというのはアフリカにいる鳥で、いろんな動物についているダニや寄生虫を食べているらしい。完全な共生関係とはいえないようだが、動物たちも追い払ったりはしないようだからメリットはあるのだろう。そしてナイルチドリ、こちらはワニチドリとも呼ばれワニの背中に乗っている姿が目撃されている。ナイルワニと共生関係にあると言われているが本当にそうなのかはわかっていない。
俺は野菜の入った籠を桂木さんの家の前に置いた。
「今お茶をお出ししますね」
「おかまいなく」
そう言って縁側に腰掛けた。妙齢の女性の家に入る気は全くない。そうでなくても桂木さんの家はそれほど広くないのだ。桂木さんは内側からお茶と煎餅を出してくれた。
縁側からの景色はそんなに悪くない。足元の草はまばらだが草むしりはそれなりにしているようだ。家の周りには木の柵があって、その向こうに木々が生えているのが見えた。
「ごはんの用意をしますので少し待っていてください」
「はーい」
のどかだなと思う。タツキさんが畑の側からゆっくりと家に移動してくるのが見えた。タマはそこらへんで何やらつついている。ユマは相変わらず俺の側にいて、時折虫などをつつくこともあるが基本は寄り添ってくれている。ユマの優しさが嬉しかった。
「ユマ、遊んできてもいいんだぞ。俺は大丈夫だから」
ユマがスリッと俺に擦り寄る。かわいい。うちのニワトリは本当にすごくかわいい。
「お待たせしました~」
お盆に、日本昔ばなしかと思うようなてんこ盛りのグリーンピースごはんと味噌汁、そしてきゅうりのたたきが載っていた。
「……すごいですね」
「また調子に乗って作りすぎてしまって……」
桂木さんが困ったように言う。グリーンピースの分量もすごい。米と1:1かと思うほど贅沢な豆ごはんだった。
もちろんとてもおいしかったです。
山の手入れなどについて聞くと、
「うちは管理費を払って村の人に手入れをしてもらってます」
と返ってきた。確かに女一人で山の手入れは難しいだろう。
「そっか、管理費を払うって手もあるんですね」
「それか草刈りとかだけ一時的にお金を払って村の人に頼んでもいいと思いますよ」
確かにそれもいいかもしれない。どうしても俺一人では手に余る。そう考えると相川さんはよくやっているなと思った。
する必要もないだろうが、飼っている動物の予防接種についても聞いてみた。
「……大きいトカゲの予防接種って聞いたことないですね」
「ですよね。犬とか猫は聞きますけど」
「ないんじゃないかなって思いますけど、ずっと一緒にいたいから調べてみようかな」
実際爬虫類に予防接種って聞いたことがない。知っている人がいたら教えてほしい。
「最近はどうですか?」
「変わりありません。GW以降は聞かないので、ちょっとほっとしてます。その節はご迷惑をおかけしました」
「いえ、困った時はお互い様ですから」
頭を下げる桂木さんになんてことはないと返した。実際なにかが起こったわけではないし。つか、何か起こったら終わりな気がする。
「あの……」
桂木さんが目を伏せる。
「図々しいとは思うんですけど、これからも時々こうして見に来てくれると助かります」
これはいったいどういう意味なのだろうか。
「……呼んでくれれば……何もなければ来ます」
「ありがとうございます」
桂木さんとの距離は1m以上空けている。俺と桂木さんの間にはユマがいて、なんだか俺を守ってくれているようだった。
相川さんもそうだけど、桂木さんも寂しいんだろうな。
それ以上は考えない。他意はきっとないはずだ。
また大きいタッパーにグリーンピースごはんを大量に詰めてもらい、野菜もいただいて帰った。調子に乗ったにしても作りすぎだと思う。おいしいからいいけど。
明日は相川さんちにお泊りである。嬉しはずかし……には絶対にならない、はずだと思いたい。(そんなことを考えた俺自身を殴りたい)
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BLにはなりません!(きっぱり
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