22.西の山を見学に。大蛇の加護はあるか否か

「土砂崩れの対策ですか? うちはネットとか、後はフェンスとかで対応しています。自分でやるならプラスチック製のフェンスを買ってやるぐらいですかね」


 相川さんはさすがに対応しているらしい。


「すいません、全然考えてもいなくて……いろいろ教えていただいてもいいですか?」

「ええ、かまいませんよ」


 山暮らしの先輩がいるの、すごく助かる。

 そういえば相川さんの山を訪ねた時、山道の周りが整っているなと感じたことを思い出した。すごく丁寧に山を管理している印象があった。改めて直接見るのが一番と、ポチとユマを連れて相川さんの山を訪ねた。タマは絶対に行かないらしい。蛇が苦手ってわけじゃないよな。マムシ食ってるし、この間アオダイショウみたいなのも村で捕まえてた気がする。(アオダイショウはリリースさせた。特に害ないし)

 舗装された山道で軽トラを走らせながら山の状態を確認する。確かに下草もけっこう刈り込まれているし、なんとなく崩れそうなところにはネットが張られている。相川さんはかなり几帳面な性格のようだ。なんか木の柵のようなものが見えた。あれはなんだろう。金属系のフェンスはふもとの辺りの金網だけで、あとはできるだけ人工物が見えないようにしているようだった。


「リンさん、テンさんこんにちはー」


 相川さんの軽トラの横に軽トラを止める。出迎えてくれたのは上半身が女性の大蛇(上半身には半袖のシャツを着ていた)と普通の大蛇だった。普通の大蛇ってなんだろう。大蛇って時点で普通じゃない気がする。軽トラから降りようとしたら、俺が降りる前にポチとユマが降りて俺の前に出た。別に警戒する必要はないと思うんだけど、リンさんたちのパーソナルスペースはあってないようなものなので近づかれすぎると怖いのも確かだった。

 テンさんがゆうるりと家に向かい、呼び鈴を押す。口で呼び鈴を押す大蛇。SNSに上げてみたい。(上げない)


「はーい」


 相川さんの声がしてガラガラと擦りガラスの引き戸が開いた。


「こんにちは、佐野さん」

「こんにちは、相川さん。お世話になります」

「いえいえ、頼っていただけて嬉しいですよ」


 こういう言葉がさらりと出るのもイケメンだよなと思う。こういうところがモテてストーカーも引き寄せてしまったのだろう。デリケートな話だから絶対に本人には言えないけど。

 この山を買って、手続きだの山の手入れをしたりして、たまに村や町に買い出しに行ったりして。ふと寂しくなってリンさんとテンさんをお祭りで買った他はあまり村に関わっていないと言っていた。(狩猟関係の人々は除く)金網の外側は村の人に開放しており、動植物は好きに取ってくださいと言ってあるらしい。村の人たちも相川さんは山の手入れをしっかりしているようだと言っていた。

 さっそく山道を見に行くのかと思ったらお茶を振舞われた。絹さやを茹でてかつおぶしであえた物が出てきた。醤油がかかっているだけなのにうまい。


「おいしいです」

「それはよかった。今日はグリーンピースごはんを作るので食べていってください」


 どれだけマメなのか。こういうところがモテて(以下略


「土砂崩れの対策でしたっけ。うちはネットとか、あとはプラスチックフェンスで対応しているんですけど」

「はい」


 そのプラスチック製のフェンスを見せてもらった。こげ茶色に着色してあるのと木目加工をされていることで違和感がない。樹脂杭を深く突き刺すことで柵が安定する。見た目も手入れも簡単そうだった。


「こういうのを大量に買ってあります。自分で設置できるので便利ですよ」

「ふむふむ。これなら確かに土砂はある程度食い止められますね」

「普段から山の手入れをしておく必要はありますけどね」


 相川さんが苦笑した。それは耳に痛い話だ。


「でも佐野さんの山も放置されていたわけではありませんから、ちょっと手をかけるだけで安心できると思いますよ」

「そうですね」

「それに……」


 相川さんが少し難しい顔をする。なんだろう。


「まぁ運がいいだけなんでしょうけど、リンとテンを飼い始めてからあまりこれといった被害はないんですよね……」

「どういうことですか?」

「いえ、昨年は台風とか豪雨被害もけっこうあったでしょう。この辺りの山もそれでけっこう倒木があったなんて話を聞いたんですけど、うちはあまりひどい雨には当たらなかったんです」

「それは幸運でしたね」

「でも町とか村で話を聞いたら土砂崩れがあったとか、雨がひどくて避難したとか言われて。山は大丈夫だったのかとかえって心配されてしまったんですけど、うちの山はなんともなかったんです」

「はあ」

「それが一、二回ならマグレだと思うのですが、昨年この辺りは頻繁に避難指示も出ていたんです」

「そうなんですか」


 じゃあうちの山もかなりしっかり手入れしないとまずいじゃないか。でもこの辺りで避難指示が出たからってどこへ行けばいいんだろう。つーか、避難指示が出るようならもう道が分断されていてもおかしくないのでは?


「楽観視はできませんが、もしかしたらリンとテンのおかげであまり被害がなかったのかなと思ってます」

「そうだといいですよね」


 そこらへんはなんともいえない。確かに上半身が人間の女性に変わるような大蛇なら天候を操れてもおかしくはないのかもしれない。でもそれはあくまで希望的観測だ。相川さんはけっこう迷信深いと思う。リンさんを見ていたら納得だけど。

 俺は側にいるユマを見やった。コキャッと首を傾げる仕草がかわいい。さすがにニワトリには天候は操れないだろう。やはり地道に梅雨対策をする必要がありそうだった。

 それから相川さんの山の舗装された道路の周囲を見て回り、必要そうな物を書き出した。あとはこれを買いに行ったり注文したりする必要がある。梅雨も近いしできるだけ急いでやらなければならないだろう。そういえば桂木さんのところはどうしているのだろうとふと思った。

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