第8話 パーティ結成 【side B:川神陽子のクエスト】
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塩原教官に言われた。
『私のように後悔しないで』と。
聞くところによると、〝
自身の持つ特異性をオープンにしてしまえば、どのような悪影響が出るかも分かっていた。学園や探索者協会、引いては国や権力者のオモチャにされてしまうと警戒していたみたい。……この辺りはイノも似たようなことを言ってたし、今となっては、その懸念は私にも理解できる。まさに今、私と獅子堂は学園の首輪付きで執行猶予的な扱いだし。
だからこそ、坂城さんと当時の塩原教官は秘密にしていた。チームを組んでいたメンバーであり、親友といえる野里教官にも〝
ただし、ずっと秘密にするつもりもなく、『〝
でも、それは間違いだったと……今の塩原教官は断じる。
「部外者の私がこんな風に言っていいか分かりませんけど……塩原教官が仰るのはあくまで結果論じゃ? 〝
「ふふ。川神さんはどこぞの《
特別な悲壮感はない。教官は坂城さんの死を受け入れているし、過去を乗り越えているとは思う。淡々と懐かしむ程度の感じで話をしてくれてるけど……でも、だからといって何も思わないはずもない。仲間が、恋人が殺されたんだから。
「川神さん。このまま何となく、特に備えもないままに〝クエスト〟が発生したら……当時の仁のようにあっさり死ぬわよ? 死んだ人間を、それも恋人だった人を悪くは言いたくないけど……彼は備えと覚悟が足りなかったから死んだのよ。そして、彼以上に覚悟のない甘ちゃんだった私がこうして生きているのは、単に運が良かっただけ」
「……」
塩原教官は言わない。私だって口に出したくはない。
坂城さんが死んだのも、塩原教官が生きているのも、ダンジョンシステムがそう望んだから……なんてことは。そんなのは絶対に認めたくはない。
うん。少しイノの気持ちが分かった気がする。
『疑い出したら、すべてがダンジョンシステムのお膳立て通りに思えて気持ち悪いし、腹も立ってくる』
そんな風に言ってた。
「……塩原教官。私はどうすれば良いと思いますか?」
「さっさと〝備える〟ことよ。学園側には私からも働きかけるから、川神さんはダンジョンで生き延びるために行動を起こしなさい。このまま、学園の指示に従うだけじゃ駄目。とりあえず、共にダンジョン探索をするかどうかは別にして、私をパーティ登録しなさい。その上で、各種の機能をチェックすればいい。要は私を実験台にして、有用だと思う部分を他の人に試すのよ」
私と塩原教官の関係性は薄い。ただの顔見知り程度。だけど、彼女は真剣だ。
彼女は坂城さんのことは吹っ切れてる。
でも、きっと悔しくて、許せない。そして、やり直したいんだ。
私という〝
何もできなかった過去の自分を許せない。今の自分なら……もっと上手くやれるはずだと納得したい。そんなやり直し。繰り返させないことを望んでる。
もちろん、私はそんなことを教官の前で絶対に口に出したりはしない。それらはあくまで私の勝手な想像。ファンタジーに過ぎないから。
「……〝
塩原教官に引っ張られる形ではあったけど、こうして私は、〝
:-:-:-:-:-:-:-:
「……待って。まったく理解が追いつかないんだけど?」
もう。ちょっと鈍感なとこがあるとは思ってたけど、頭の回転自体は速かったでしょ? どうして分からないかなぁ?
「はぁ……サワ、ちゃんと私の話聞いてた?」
「いやいや! なにその言い草! おかしいでしょ!?」
私と塩原教官、獅子堂で色々と機能チェックを行った結果、特に現時点でパーティ登録によるペナルティ的なものはなかった。
ただ、塩原教官曰く、ダンジョン内でクエストが発生した場合、パーティメンバーは強制的に〝
だけど、これは見方を変えれば何を今さらって話。そもそも、チームを組んでダンジョンへ挑む時点で、そのチームが運命共同体なのは当たり前。
それに、私と獅子堂は、イノのクエスト(私のクエストでもあったけど……)により、ダンジョンに閉じ込められるのは一度経験済み。問題を解決しないと先に進めないというのは、別に普段のダンジョンダイブと同じだ。……緊急避難ができないのは痛いけど。
で、学園の許可も出たことだし、次はサワにパーティ登録を持ち掛けたんだけど……。
「あのさぁ……いつもニコニコしてたけど、ヨウちゃんが周りに合わせて色々と我慢してたのは何となく分かってたよ。だから、ヨウちゃんが周りにあんまり気を遣わなくなったのは、個人的には良い事だと思う。……でも、いきなり〝サワ、パーティ登録よろしく〟って言われても何が何だか分かるわけないでしょ? この状況で俺を〝話が分からないやつ〟みたいに扱うのは酷くない? そもそもこっちは何も聞いてないんだけど?」
え? ……あれ? そういえば、サワには〝
:-:-:-:-:-:-:-:
「よ、獅子堂。何だか久しぶりな気がするな」
「……気がするだけじゃなく、こうして会うのは実際に久しぶりだぞ、澤成」
私の早とちりや説明不足はあったけど、結局サワをパーティ登録した。
特殊実験室とは無関係だったから、私や獅子堂と比べるとレベル的に差はあるけど……どうせ組むのなら、より信頼できる相手の方が良い。当たり前の話だ。
探索者としての実力は折り紙付きな野里教官なんかよりも、個人的にはサワの方が人として遥かに信用できる。
実のところ、この訳の分からない〝プレイヤーシステム〟にサワを巻き込むのは気が引けてたんだけど……そんな私の葛藤は塩原教官に一蹴された。
「私や仁もかつてそんな風に考えてたわ。こっちの身勝手に友人を巻き込むなんて……ってね。〝
塩原教官に指摘されて気付いた。私は自分で考えて自分で完結してた。相手のことを気遣ってる風なだけで、結局は自分のことだけ。
巻き込みたくないと考えはしたけど、サワの気持ちや意見を確認しようなんて思いもしなかった。
もしこれが逆の立場だったら……私は嫌だ。詳しい説明もなく勝手に決め付けられるなんて。ちゃんと話をして欲しいって思うはずだ。相手が友達ならなおさら。
で、気付いたらサワに『パーティ登録よろしく』と声を掛けてた。……うん。先走ってしまい、サワ的に意味不明だったのは認める。ごめんなさい。
「しかし、まぁ……なんだ。イノからボカしながらもちょっとは話を聞いてたけど、ヨウちゃんも獅子堂もすでにレベル【十五】にまで達してるとはな。現役の中堅探索者並みだろ? すごいな……」
「いや……これは色々と無茶をした結果でしかない。『呪物』という特殊な道具に頼っていただけだ。実戦においては、まだレベルに見合うほど
「へぇ……そんなもんなのか? ま、どっちにしろ、ようやくレベル【十】になったばかりの俺なんかじゃ、二人の足手まといなのは間違いなさそうだ。はは。この分だと、イノに追い付くのはまだまだ先だよなぁ」
サワは変わった。まぁ……変わったというなら私や獅子堂もだけど。
レベル【九】のまま、いわゆる〝二桁の壁〟を突破できずに卒業する生徒が多い中、高等部の一年でレベル【十】というのは、学園基準でかなり優秀な方だ。
そんなサワだからこそ、学園から〝
ただ、今の彼は特別に無理をしてる感じがない。イノに嫉妬して空回りしてた、中等部のあの時のような気負いはない。
口では〝自分じゃ足手まとい〟〝二人ともすごい〟なんて言ってるけど、私たちへの嫉妬とか羨望、劣等感なんかもない。誰かと自分を比べて一喜一憂してたガキっぽさがなくなった感じ。
なんというか……今のサワには余裕がある。たぶん、自分自身の〝芯〟となるナニかを、真っ当な学園生活の中で見つけたんだと思う。
それは、安易に邪道に走った私たちなんかよりも、ずっとすごいことだ。
「……さて、川神さん。まずは澤成君の装備を整えていきましょうか?」
「あ、は、はい」
今は塩原教官が私たちの引率みたいになってる。もちろん、長谷川教官もいるけど、あくまでも私たちの護衛だけに注力してて、必要以上にこっちに話し掛けてきたりもしない。
はじめは塩原教官に気を遣ってるのかと思ってたけど、違う。
長谷川教官は、意図的に〝
「へぇ。じゃあ、その〝ぷれいやー〟とやらの機能で強化した装備品ってのが、例の『呪物』の正体なのか?」
「……ああ。俺たちはリスクを背負って無理矢理『呪物』を扱っていたが……なんのことはない。〝
ざっくりとではあるみたいだけど、サワはイノから呪物騒動の顛末を聞いてたらしい。で、雑談混じりに獅子堂が、補完的にあれこれを説明してくれてる。
「で、〝ぷれいやー〟とシステムで繋がることによって『呪物』のリスクがなしになるって? ……なんか中途半端だよな。目の前に餌をぶら下げられてたら、リスクを承知で……みたいに思うやつは絶対に出てくるだろ?」
「……まぁな。まさに俺たちがそうだった。はじめから〝
一見とっつきにくいけど、実は面倒見のいい獅子堂と、誰に対してもフラットなサワ。何だかんだと言いながら相性は良いし、割と気も合うみたい。
「ねぇサワ。とりあえず今のところ危険はないみたいだから、サワの装備を私のシステムで強化するけど良いかな?」
「そりゃ良い装備が手に入るなら俺としては歓迎なんだけど……これって、単純に喜んでばかりもいられないんでしょ?」
「……うん。私たちが把握してるのは、あくまで〝今の時点〟の情報だから。後々、パーティ登録やストア製アイテムのとんでもないデメリットが発覚する可能性はあるよ」
そうだ。私たちは、このダンジョンシステムについて、ほぼ何も知らないのと同じ。もしかすると、途中でシステム自体がバージョンアップとかして、これまでと勝手の違うシステムになる可能性だって無きにしも非ずだ。
だけど、私たちは現時点の情報や機能を使って〝備える〟ことしかできない。
「ま、その時はその時だろうね。今から考えても仕方ない。それに、もうパーティ登録ってやつも済んでるしね。うん。その強化ってのをお願するよ、ヨウちゃん」
「色々あったし、これからどうなるかも分からないけど……改めて〝パーティ〟としてよろしくね、サワ」
学園の意向もあるし、今後も継続してこのメンバーでやっていけるかは分からない。
でも、こうして私たちは〝パーティ〟として動き出すことになったんだ。
「……いやいや、青い春な感じでやる気になってるのはいいんだけどさ。川神さん、学園から指定された候補者があと一人残ってるでしょ?」
塩原教官が余計な一言を挟んでくる。
「……やっぱり、あの人も入れないとダメですか?」
「そりゃね。悪いけど、私なんてブランクありまくりのヒーラーなんだから、直接的な戦闘面じゃ役立たずも良いところよ。もし、パーティ登録によって例のエラーコードスキルが帳消しになるなら……ね?」
「……」
学園からパーティ登録の許可が下りたのは四人。
澤成樹と佐渡姉妹……そして、野里澄。
療養中である浪速については、流石に学園も許可しなかった。
佐渡姉妹については、学園からの打診の時点で固辞してきた。二人とも浪速ほどじゃないけど、これまでの実験による影響で本調子に戻ってないらしい。
あと、どんなものであっても、もう学園主導の計画には参加しないという意思表示もしたみたい。
残りは野里澄。元教官。
寛解状態とはいえ、彼女も《
再びダンジョンに連れ出すなんてとんでもない! ……という感じで抵抗したんだけど……塩原教官には気付かれた。
「ふぅ。そう露骨に嫌な顔しないの。川神さん、あなたも割と子供っぽいところがあるわね。スゥのことが気に入らないのは分かるけど、パーティ登録で『呪物』関連のペナルティが帳消しになるなら、エラーコードスキルについても同じかも知れないでしょ? というか、あなたはすでに確信してるでしょ? パーティ登録でスゥの《バーサーカー》がチャラになるのを。お試しだけの登録ならここまで嫌がらないでしょうし……スゥとダンジョンダイブするのが嫌で駄々こねてるのが見え見えよ?」
「……」
うん。なんだか見透かされてるみたいで、塩原教官のこともちょっと苦手だ。
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