第7話 クエスト開始
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今日も今日とてダンジョンだ。
それもただの階層じゃない。
マジもんの異世界での活動ときた。
凄いね。まさか世界を跨いだ異文化交流の機会が訪れるなんてさ。夢にも思ってなかったよ。ははは……はぁ……。
とまぁ、ちょっとテンション上げようとしたけど……しんどい。いや、元々強制的に閉じ込められるってのを想定してたわけだし、状況は大して変わってないんだけど……心情的にちょっとね。
『プレイヤーが特定情報に触れたことを確認しました。クエスト〝続・王国へ続く道〟が開始となります。それでは良いダイブを!』
そんなテキストメッセージと共にゲートが閉じた。くそ。
「……ごめんなさい。まさか、私の……西園寺理事からの伝言にシステムが反応するなんて思ってなかったから……」
しょげるメイちゃん。ま、彼女が口にした《《伝言》》が引き金。
「ま、まぁ……メイ様が謝ることないよ……そんなこと言い出したら、わ、私なんて大叔母さんの身内なわけだし……」
で、メイちゃんを慰めるのはレオ。顔が若干引きつってるけどな。
〝大叔母さんはサンプルが無駄に不愉快になるような真似はしない(キリッ)〟
……って言った直後だったし。お笑い的なフリとオチとして見れば見事なものだ。
「西園寺理事は、ダンジョンシステムのことをそれなり以上に知ってるみたいだね……」
「…………たぶん。私も伝言を預かった時はあんまり意味が分からなかったけど……これはそういうことなんだと思う」
やってくれるよ。ホント。
西園寺理事は、最初から僕らをこの異世界(暫定)に閉じ込める……〝クエスト〟をクリアさせる気満々だったわけだ。
聞けば、メイちゃんは事前に家族……祖父母込みで、特殊実験室としてのダイブの危険性……不慮の事故で死亡することなんかも含めて、学園側と話し合いの場が持たれていたそうだ。もちろん、そこには部外秘の情報を秘匿する為の誓約、機密事項の守秘義務を負う契約なんかもあったそうだ。
ちなみに僕はそんな話を振られた記憶がない。とは言え、この分だと井ノ崎家にも学園側から報告は行ってるっぽいけど。
『複数のプレイヤーが関わるクエストは、裏条件を満たしていないとクエスト自体が始まらないらしいわ』
『誇り、欺瞞、怠惰、愛、憤怒、涙、形骸などは、ダンジョンでの翻訳アイテムだそうよ』
諸々の契約なり誓約なりの際に、西園寺理事が直々にメイちゃんに預けた伝言。
『ねぇ鷹尾さん。もしダンジョンで……〝異世界〟の中でゲートが普段と違う動きをしていたなら、このことを井ノ崎君とレオに伝えて頂戴。……約束ね?』
で、メイちゃんは今回のクリア報酬である「ヒト族の欺瞞」を見てピンときた。その上で、クエスト開始の際には閉じるゲートが起動状態のまま。でも、ゲートが起動状態というのはむしろ普段通りの動きなんだけど……と、悩みつつも伝言を披露。
するとあら不思議。ゲートさんが閉じちゃいました~ってさ。くそ! 学園側にいいようにコントールされてる感がイラッとするなぁッ!
……落ち着け。
気を取り直して……要は今回のクリア報酬である「ヒト族の欺瞞」は、この世界のヒト族と意思疎通を可能とするアイテムってことなんだろう。
それがシステムが反応する特定情報ってやつで、今回のクエスト開始の裏条件?
つまり、この特定情報とやらを知らなければ、任意と言いながらもクエストは開始されなかった? うーん。微妙に謎だ。その辺りも西園寺理事は知ってるってことか?
「はは……別に特別扱いしろとは言わないけどさ。目的の為なら、本当に身内の私すらあっさり巻き込むんだなぁ……大叔母さんは。ま、まぁ、たった一人でダンジョンに放り込まれるよりはマシだけど……」
「いやいや。その前に西園寺理事はどこまで知ってるんだ? クエストやクリア報酬まで把握してるなんてさ……」
「……私に聞かれても分かんないよ。第二ダンジョン学園じゃなくて、別の学園で事例があったとかじゃないの? ほら、第二を卒業して別のダンジョンに行った〝
「勝手に特別感を持ってたけど……実は〝
「……今となっては本当かは分からないけど、大叔母さんは、直接〝
なら、近年になってうじゃうじゃ〝
『今年は〝
季節性の海産物じゃあるまいに。……いや、そりゃ僕自身もポッと出の身ではあるけど。
「……ごめん。私がもっと気を付けていたら……でも、約束だったから……」
「あぁあぁぁあぁぁぁ……ッ! イノじゃないけど、私もちょっとイラっとしてきた。学園と大叔母さんに! 寄りにもよってメイ様に仕掛けるなんて!」
一転してレオ激おこ。どした? ナニかが振り切れた?
「メイ様! 違うんだよ! ……普段のメイ様だったら、学園側の書類上の誓約なんて気にしてない。すぐに私やイノに伝言のことを明かしている。恐らくだけど、ソレは大叔母さんの《スキル》だよ。ダンジョン症候群のね」
「……スキル?」
「そ。大叔母さんが発症したダンジョン症候群は《ヴァンピール》。周囲のマナを片っ端から吸い取るえげつないヤツ。しかも、マナを吸い取った対象が同族なら、その相手を支配下に置くっていう……名前の通りの吸血鬼みたいなヤバいスキル。大叔母さんはそのヤバいスキルを垂れ流して、発症後には探索者協会や学園に〝処分〟されそうになったほどだって聞いたよ」
《ヴァンピール》……吸血鬼か。
周囲に精神系のデバフ効果を及ぼす、波賀村理事の《テラー》。
名前の通りに自身を狂戦士と化す、野里教官の《バーサーカー》。
こちらも名前の通り、思考すら忘却させるという凶悪なデバフ効果を無差別にばら撒く、浪速って子の《オブリビオン》。
ダンジョン症候群のマイナススキルは、揃いも揃ってヤバめな設定になってる。当然、西園寺理事の《ヴァンピール》も同じくらいにヤバいってわけか。
「……かなり危なっかしいみたいだけど、大叔母さんは、今では効果範囲をすごく狭くすることに成功してる。つまり、制御してるんだ。ほら、イノがダンジョン症候群を治療できるってなった時、大叔母さんは断ったでしょ? 研究の為っていう理由もあるだろうけど、たぶん便利だからだよ。そもそもイノは大叔母さんにモニター越しでしか会ってないはず。それはたぶんイノを警戒してたんだ。無理矢理〝治療〟されたら困るから……」
ダンジョン症候群を制御してる……か。だから西園寺理事は治療を拒んだのか。
「……つまり、メイちゃんの行動をコントロールした? その《ヴァンピール》のスキルで?」
「そうだと思う。大叔母さんは効果範囲を抑えるだけしかできないなんて言ってたし、使えてもほんの少しだけ……ちょっとした思考の誘導くらいだと思うけどね」
いやいや。ちょっとした思考の誘導くらいて。普通に考えて十分過ぎるほどにヤバいでしょ?
しかも、ソレをスキルとして意図的に
「あのさぁレオ? もう言い訳のしようもなく、西園寺理事って悪い権力者側じゃね? あるいはマッドサイエンティスト的な?」
「……いや、でも、こんな風にスキルを使ってくるなんて思わなかったし……研究については厳しかったけど、普段は優しいし……モゴモゴ……」
ま、レオの身内フィルターの言い訳はどうでも良いとして……確かにコッチに来てから、メイちゃんは普段と少し違う感じがしてた。西園寺理事の仕込みとやらの影響だったのかも。
「どう? メイちゃんは自覚あります?」
「……分からない。スキルを受けた覚えはないけど……ただ、イノ君やレオに言おうとしても言えない、言いたいのに言えない……みたいなモヤモヤした感じはあった……かも?」
……はは。決まりだね。このクエストをクリアしたら、力づくでも西園寺理事を〝治療〟してやる。本当に、マジに、ガチに、絶対に、間違いなく。
「イラっとを通り越してる気もするけど……とりあえず学園側の思惑はちょっと置いといて、これからどうしよう? たぶん、クエストをクリアするだけなら〝リ=ズルガの客人〟か〝アークシュベルの旅人〟を選択すれば終わりだけど?」
「……私にはよく分からないけど……それって今までのクエストと比べて簡単過ぎない?」
そうなんだよね。選択するだけでクリア条件を満たす。で、報酬が『ヒト族の欺瞞』。翻訳アイテムが無ければ会話が成り立たないとなれば、先にゲットしておきたい気はする。
でも、あからさま過ぎないか? ゲーム的には、クリア難度が高い方が本筋だったり、トゥルーエンドルートだったりする気がするけど。
「ねぇイノ。私は前世でもそんなにゲームをしたりしなかったけどさ。これって何かの引っ掛け的な感じじゃない? 大叔母さんの伝言に反応するシステム……『ヒト族の欺瞞』を、翻訳アイテムを早く取らせようとしてる気がするしさ。そりゃ順当にいけば親切設計なのかも知れないけど……私達は現状ルフさんとバズさんしか……リ=ズルガ側しか知らない。この状態で次のクエストを選べって言われてもさ」
「……あと、こういうルート選択って、選ばなかった一方が後々敵対勢力になる……なんて展開もあり得そうだしなぁ……」
システムからも『慎重に選択しろ』という忠告まであるし。
うーん……ま、困ったときはコマンド総当たりだとか、片っ端から村人と会話するとかがベタかな。アドベンチャーゲームとかロールプレイイングゲームの常套手段だしね。
:-:-:-:-:-:-:-:
『ふむ? 集落へ行きたいじゃと?』
「ええ。前の時は断られましたけど、集落の方と話をするのはダメですか? 本当は、大陸文化が台頭してきているという王都にも行ってみたいんですけど」
今のところ、話ができるのはルフさんとバズさんだけ。はは。総当たりが呆気なく終わる。なら、選択肢を、活動エリアを増やすのみだ。
『まぁ今となっては別に集落は構わんが……王都と言われるとのぅ』
「あ、いえいえ。王都行きはただの願望です。別にどうしてもというわけでもありませんから……」
まぁそりゃそうだ。ここは二つの王国のどちらにとっても禁足地で流刑地なんだ。しかも、僕らは完全に余所者。いきなり王都行きが無理なのは承知の上だ。
『ん? では王都には行かんでも良いのか?』
「え?」
あれ? 行けるの?
『イノよ。ここは確かに流刑地ではあるが、禁足地としては慣習のみだ。別にジとミの者以外は出入りを禁じられているわけでもない。今や儂らゴ氏族についても移動の自由が許されておる』
「え? じゃあジとミの氏族じゃない僕らはここから出発して王都に入れるってことですか? ゴブリンじゃないのに?」
『うむ。別に文句を言われることもないだろうて。それに、大陸連中が来てからは他所から来る風変わりな者も多い。イノ達が殊更に目立つほどでもないはず』
い、行けるんだ……。じゃあさっきの思わせぶりなのは何? あと、僕ら普段通りの学園作業着で来てるんだけど、このままの恰好でも大丈夫ってこと? ……割とザックリした異世界だな……い、いや、まぁ別に良いんだけどさ。
「えっと……じゃあ王都にはどうやって行けば?」
『問題はそれなんだが……実は定期便が昨日出たところでな。次の定期便が五日後になってしまうからのぅ』
あ、普通に定期便あるんだ。……ってルフさんの心配はそっちだったわけね。
ルフさん曰く、反抗したジとミの氏族は追放されはしたけど、そもそも当時の戦士は全滅したそうだ。残されたのは、まだ幼い戦士未満の者ばかりで、数もそれほど多くなかったらしい。
ただ、アークシュベル王国の手前、リ=ズルガ王国はケジメとしてジとミの氏族を追放したってことみたい。それも、これまでゴ氏族が罰として担ってきた異界の門の守護見張りを交代するという形で。
今さらゴ氏族が集落を出て別の地に移住するはずもなく、実際のところは、ジとミの生き残りをゴ氏族に保護させたって感じなんだってさ。
「……ルフさん。お聞きしたいんですけど、アークシュベル王国が台頭している王都での
お、メイちゃんがナイス質問。っていうか僕が聞くのを忘れてたからか。すまぬ。
『ん? 別に王都でもそのままで通じると思うぞ? 多少のぎこちなさはあるが、イノ達の言葉は問題なく通じておる。それより、何故にヒト族の言葉が出てくる?』
「え? それは……あ、そっか。勘違いしていた。ルフさん、アークシュベル王国は多種族国家だって言ってましたけど……主にどの種族の勢力が大きいんですか?」
そうだ。いつの間にかアークシュベル王国のことを勝手にヒト族主体の国だと勘違いしてた。多種族国家なんて言うくらいだし、雑多な構成になってるだろうって予想できたはずなのに。
あと、ここはヒト族にゴブリンにオーク、エルフやドワーフも居ると聞いて何となく知った気になってたけど……よくよく考えたら、僕らはそういう種族の実態をまったく知らない。
この世界の構成的にも、ヒト族が極端な少数派ってことも十分に考えられる。
『ううむ……勢力と言うと難しいが、種族として一番数が多いのは……やはりゴブリンになるな』
ゴブリンなのかよ!
じゃあ『ゴブリンの誇り』で良いじゃん!
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