第3話 異変
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ヨウちゃん(と獅子堂)と共に、あれから何度かダンジョンダイブをして、色々と確認した。ストア機能どころか、〝クエスト〟の発生すらもね。
ま、あくまで今の段階で発生を確認できたのは〝探索型クエスト〟だけだけど。
一応、〝討伐型クエスト〟については、ヨウちゃんが意識すれば倒した魔物の数が何となく思い浮かぶらしい。本格的にダンジョンダイブを進めていくのであれば、討伐数に応じてのクエスト報酬を受け取ることになるんだろう。今回、ホブゴブリンの討伐百体の報酬である〝ゴブリンの誇り〟については、ヨウちゃんは既に所持している状態だった。
ただ、僕やレオのようなステータス画面からの確認と違って、ヨウちゃんは意識しても報酬となるアイテムは事前に分からなかったし、〝ゴブリンの誇り〟を所持していながら、別にゴブリン達の言葉なんて分からなかったらしい。認識してから効果が発動するとか? この辺りの判定も謎だ。
名前は同じだけど……もしかすると、ダンジョンシステムが用意してる
「……ま、まさか……一階層にこんな場所があるなんて……というか、べ、別の世界……?」
「……まさに……ダンジョンは異界……か……」
驚嘆するヨウちゃんと獅子堂。
とりあえず、例のルフさんがいる異世界探訪。条件型クエストの〝王国へ続く道〟だ。ここへ来れたのは、
長谷川教官は秘密の抜け道を認識すらできなかった。彼から見れば、僕等はダンジョンの壁をすり抜けて消えた扱いになると思う。もちろん、事前に事情は説明してあるけどね。
※探索型クエスト
クエスト :王国へ続く道
発生条件 :「ゴブリンの誇り」所持
内容 :君が見る世界は君の進む道
クリア条件:???
クリア報酬:???
ちなみに、同じく
一方、ヨウちゃん(と獅子堂)については、僕は同盟すら組めなかった。そもそも選択肢が出てこない。今だって、ヨウちゃん達は厳密には井ノ崎パーティのメンバーじゃない。
今回の〝クエスト〟はヨウちゃんのモノとして発生したんだけど、パーティメンバーである獅子堂は当然としても、クエストへの参加自体は非同盟の僕等も可能だった。長谷川教官は弾かれたのに……。この辺りの判定も微妙な所だ。
ステータス画面を確認できないから、あくまでヨウちゃんからは口頭になるけど……クエスト内容も、微妙に僕のヤツと違ったりもする。
確か、僕のクエスト内容は……
『君は
……という
無駄と分かっていても、つい考えてしまう。
〝僕〟はヨウちゃんを導く役割が割り振られている?
クリア条件があるということは、この『王国へ続く道』のクエストを何とかするのはヨウちゃんの役目なのか?
それとも、パーティメンバーである獅子堂の方が本命だったり?
「……イノ君。ルフさんはお留守みたいだけど……どうする?」
「え? あ、そ、そうですか……流石に集落にお邪魔する訳にもいかないし、今日は引き上げましょうか。ヨウちゃんのクエストは確認できましたし……」
若干トリップしてたら、メイちゃんに声を掛けられた。……たぶん、メイちゃんは敢えてだ。最近は色々とトリップする機会が多いから、何となく読まれている気がする。注意力散漫ですまぬ。
「……その……ルフさんというのが、対話のできるゴブリン……なの?」
「うん、そうだよ。ちなみに、あの川の付近に見えるのがゴ氏族の集落。たぶん、ルフさんは用事で集落の方に行ってるんだと思うけど……僕らのことは他のゴブリン達にも内緒にしているらしいから、集落には近寄らない方が無難だと思う」
「……社会を構築しているゴブリン……か。ダンジョンで出くわす連中とは別物だな」
「そうそう。ちなみに、イノはこの世界のゴブリンを知った後も、ダンジョンゴブリンを平気でぶっ殺してるけどね☆」
レオが獅子堂に余計なことを言う。おいおい。そんな事を言い出したら、ほぼ同じ立場のレオやメイちゃんも同罪なんだけど? まぁ……後が怖いから口にはしないけどさ。はいはい。僕はサイコパスですよ。自覚があるだけ余計に酷いのも分かっちゃいるさ。
「で、でもさ、イノ。私はダンジョンでゴブリンの言葉なんて分からなかったよ? そのルフさんっていうゴブリンとも、本当に言葉が通じるかは分からないんじゃないの? 〝ゴブリンの誇り〟っていうアイテムも、何か実態のない良く分からないモノだし……」
「確かにね。だからこそ、今日はその辺りを確認しておきたかったんだけど……ルフさんが不在なら仕方ないよ。ま、ダンジョンでの戦闘が解禁されたら、ヨウちゃんがゴブリンの言葉が分かるかどうかはすぐに確認できるだろうし……慌てる必要もないかな? それに、ダンジョンもそうだけど、この場所については特に分からないことだらけだから、頻繁に出入りするのもどうかと思うしさ」
「……う、うん。分かったよ」
どうやらヨウちゃんは実際にルフさんに会いたかったみたい。それはヨウちゃん個人の好奇心なのか、
そういう僕自身だって、このルフさん達がいる世界に対しては、純粋な好奇心とは別に、通常のダンジョンダイブよりもさらに強く〝取り返しが付かない〟という危機感のようなモノを抱いていたりもする。この世界では慎重にならざるを得ない。
「……イノ君。レオも。少し今の風景を……ルフさんの小屋、集落の様子も含めて覚えておいて欲しい。後で確認したいことがあるから……」
「え? メイ様? 何か気になるの?」
「……うん。あくまで何となくの違和感なんだけど……一度戻った後で、改めてイノ君の〝クエスト〟でここへ来たい……かも」
「ええと……? メイちゃん?」
ぼんやりと視線を漂わせながら、独白のように呟くメイちゃん。この場面だけを切り取れば、電波系の不思議さんではあるんだけど……違う。
「……ッ……!?」
思わず声を上げそうになる。メイちゃんの視線の先を確認して僕も気付いた。見落としに。間違いを見つけた瞬間、僕の中で違和感が急激に仕事をし始める。
言われるまで気付かなかった。ここは異世界(暫定)ではあるけど、ダンジョンの中に違いはない。危機感も抱いて臨んでいたはずなのに……好戦的な魔物がいないからって、どこかで油断してたんだと思う。気を抜いてた。くそ。ヨウちゃん達に気を取られてたっていうのも言い訳に過ぎない。
「……うーん……まぁメイちゃんが気になるなら、日を改めるなりして、僕のクエストで来てみましょうか? レオもそれで良い?」
「あ…………ッ! う、うん。私も別に構わないよ」
ちょっと白々しい気もするけど、一応は平静を装う。どうやらレオも勘付いたようだ。ま、ヨウちゃんや獅子堂は異世界探訪の衝撃もあってか、僕らの様子の変化に気付くことはなかったけど……後々、ヨウちゃんには協力を願わないといけないかも知れない。
はは。違和感については、もう確信がある。
ここは……確かに僕の〝クエスト〟じゃないみたいだけど、僕の〝クエスト〟も動き出してるみたいだ。
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さて。久しぶりの自由な時間(一応の監視付きだけど)。
結局、ヨウちゃんと獅子堂の諸々のシステムチェックは四日ほど連続で続いた。
四日目には一階層だけという条件付きだけど、ヨウちゃんと獅子堂のダンジョン内戦闘も許可された。もちろん、長谷川教官の監視下で。
呪物と同等であるストア製アイテムでのデビュー戦となったわけだけど、ヨウちゃんも獅子堂も、呪物を扱っていた際の〝浸食される〟ような感覚を覚えることもなかったし、今の所は気になるようなペナルティも確認されていない。
ただ、既にヨウちゃん達だって、一階層のゴブリンなら半分寝てても素手でぶっ殺せるレベル帯だ。
一階層でのお試し程度では、まだまだストア製アイテムの真価を実戦で測れたわけでもない。ま、今後の課題だね。
武器のお試しはともかくとして、〝ゴブリンの誇り〟については、僕の持つ物とヨウちゃんのでは効果が別物らしいというのが判明した。少なくとも、ヨウちゃんは一階層のゴブリン達の言葉を理解できなかった。僕にはいつも通り、『殺す!』だの『くたばりやがれ!』という罵声がしっかり聞こえていたのにだ。ちなみに、僕のパーティメンバーであるメイちゃんと、同盟を組んでいるレオにも、ゴブリン達の言葉の意味が理解できている。
結局、ルフさんとの意思疎通の試しもできなかったし……この辺りについては、ヨウちゃんが特別なのか、僕の方が異常なのか……微妙に謎が残る。
いや、そもそもダンジョンと
今みたいにね。
「メイ様の違和感って……やっぱりアレことだよね?」
レオが分かり易い差異である、とある木を指さして言う。
元祖・特殊実験室。メイちゃんとレオと僕。
まぁ厳密にはレオは第二期メンバーって感じなんだけど、それを言うと『除け者にするな!』って本気で怒るから言わない。レオって、人のことはイジるくせに、自分がイジられるとブチ切れるからね……まったく。ま、今はどうでも良いことだけどさ。
「……うん。川神さんのクエストの時、何となくの空気感? ……みたいなのが前回の時と違っていたから……それで気になってた。一度認識しちゃうと、連鎖的に周り全てに違和感がある」
「……こうして見ると、どうしてすぐに気付かなかったんだろ? ってレベルだよねぇ」
再び『王国へ続く道』のクエスト。ただし、今度は〝僕〟のね。
実のところ、ここへのダイブは学園側に止められてる。ヨウちゃん達を連れて行ったのも、あくまでクエスト機能のチェックとしてだけ。ここでの活動は自重しろとキツく厳命されている。
何しろ、
だけど、今回は〝ダンジョンからのオーダーっぽい動きがありそう〟ってことで、黒い大人たちには引き下がってもらった。その分、色々とモニタリング系の機器を持たされたけどさ。
そんなこんなで、ダンジョンゲートを……ルフさん曰くの異界の門を超えてすぐの所に僕らはいる。
異界の門自体は小高い丘の上に設置されていて、割と視界も広い。
ルフさんの……門の見張り役の小屋は少し窪んだ所にあり、門を出た直後では視界に入りにくい位置にある。
ヨウちゃんと獅子堂も指摘するまでは気付かなかったしね。
木造だけど、かなりしっかりとした構造物で、それなりの大きさもあるけど、色々と考えられている。
ルフさんに聞いたところ、門から見えにくくしているのはわざとであり、異界の門から敵対者が現れた際を想定しているんだとか。
……改めて思うと、僕とメイちゃんが初めてここへ来た時は割と際どかったのかも知れない。
実のところ、ルフさんはかなりの武闘派だ。ごく自然に隠してはいたけど、マナの制御が〝プレイヤーモード〟のレオ以上にスムーズだったりする。もちろん、僕の〝プレイヤーモード〟も、彼と敵対するなと煩いくらいに警鐘を鳴らしていた。
だからこそ、初対面の際には刃を交えるよりも先に対話を求めたっていうのもある。
それに、ルフさんはゴブリンではあるけど、ダンジョンで出くわす連中や試練の間のゴブリンジェネラルとはまるで違ってた。対話にも忌避感はなかったし。……メイちゃんは若干引いてたけど。
「……さて、いつまでも惚けてもいられない。ヨウちゃん達と行ったあの場所が、こことどう繋がっているのかを確認しないと……」
「はは……今さら? イノ、もう分かってるでしょ?」
「それでも、一応確認はしとかないとね。ルフさんも出てきてくれたみたいだし……挨拶もしておかないと」
メイちゃんが察知し、僕とレオも遅れて気付いた……違和感。
初見だったヨウちゃんと獅子堂が気が付くはずもない変化。
「……ねぇイノ君。川神さんのクエストでここへ来た時、ルフさんが居なかったのは……やっぱり偶然じゃない……?」
「……でしょうね。あそこはこことは似て非なる場所だったのか……それとも……」
もう分かってる。メイちゃんも、レオも、もちろん僕もだ。
だって、ほら。異界の門から出てきた僕らを迎えようと、姿を現してくれたルフさんが……目に見えて小さくなってるんだから。以前には無かった杖をつき、腰も少し曲がってる。
僕らには魔物の正確な年齢なんて分からないし、その寿命も、生理現象の仕組みも、加齢による変化も詳しくは知らない。
元々ルフさんは、ゴブリン集落の中ではそれなりに高齢だったみたいだけど、初めて出会った頃に比べて、明らかに今のルフさんは〝老い〟によると思われる影響がある。その見た目も、身に宿るマナも。
丘から周囲を見下ろす形で視線を遠くに向けると、集落を潤す大河の流れは変わらないし、優しく吹き抜けていく風の感触も以前と同じには思える。周囲の地形にそれ程の変化はないけど……それでも、やっぱり違う。
レオが指さした先。以前は遠慮がちだった若木が、堂々たる大樹になって存在を主張していたりする。
微妙にゴブリン集落が大きくなってるし、草原の中に、以前には無かったはずの踏み固められた道があったりして、何らかの往来の気配も感じさせる。
ちゃんと目を凝らせば、ある程度以上の〝時の流れ〟による変化がそこかしこにあったんだ。
「……ダンジョンの中と外では、時の流れすらも違うっていうのは、皇さん(模擬)から聞いてたけど……こうして目の当たりにするとちょっとビビるね。マジもんの異世界の次は、タイムトラベル系か……」
まさにダンジョンは謎だらけ。
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