第4話 防御スキル
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「まず、左の扉はランダムで敵が選ばれて、敵を倒す度に続けるか終わるかを選択できる。真ん中の扉は一対一の決闘方式で一人しか参加できない。一度相手を倒すと強制的に部屋から出されて終了。右の扉は一度に出てくる敵がとにかく多い。部屋の中もダンジョンの階層並みの広さがある。……レベルがそれなりに上がってなければ、逆にやられてたかも知れない」
一応、各扉の前にもセーブポイントみたいな石板があり、マナを流すことで説明を受けることが出来るけど、足りないんだよな。真ん中の扉は敵を選べるし、右の扉はエリアを選べる事にもしばらく気付かなかった。
「メイ様やイノは主にどれを使ったの?」
「……左の扉。一通り試したけど、安全の為にも、やはり一緒の方が良いとなった。……イノ君が不用意に右の扉を開けて、ピンチになったのは良い思い出」
それ、絶対良い思い出じゃないよね? かなり根に持ってるよね? ……レベルが上がって慢心があったのは認めます。初見のゴブリンジェネラルには焦りました。はい。すみませんでした。
でも、もしかするとレオみたいな魔道士タイプは、右の扉で多数を相手取る方が効率は良いかも知れない。もう少しレベルを上げないと危ないけど。
「先に言っておくけど、この部屋のボス的な存在はゴブリンジェネラルだ。右の扉に必ず一体出てくるけど、他の扉では出てこない。レオはピンと来ないかも知れないけど、メイちゃんを“技”で打ち負かすことが出来る」
「は? 何それ? ゴブリンなのに?」
「……実は一度刀を折られた。ストア製の二回目強化でようやくまともに打ち合えたくらい。凄い技を持ってる」
そう。めちゃくちゃ強かった。見た目はちょっと大きめなゴブリンという感じなのに、強者のオーラが半端なかった。
メイちゃんは打刀を折られて凹んでたけど……おかげでその時に、ストアのDP消費で武器修復が出来ることにも気付いた。
学園に戻ってから、人に聞いたり、ダンジョンの攻略マニュアルも調べ直したけど、そもそもゴブリンジェネラルなんて魔物は、少なくとも二十階層までには出てこない。クエストだけの特殊な魔物かもね。他で言うところのネームドとかユニークモンスターってヤツ。
わざわざ『ゴブリンジェネラルを倒しました』なんてメッセージが流れたくらいだし。
「今の僕が全力で気配を消した不意打ちも、成功率は半々くらい。しかも一撃で仕留められないとシビアな反撃が来る。一度ソレで死にかけて、ストアのポーションをじゃぶじゃぶ使う羽目になったよ」
「……あの時は流石に駄目かと思った。後々に仇は討ったよ……イノ君……」
死んでないし。メイちゃんの仇を討つ云々は冗談なのか本気なのか未だに判らない。
だけど、この部屋に来て最初に開けたのが右の扉だったら、僕はメイちゃんを逃がす為にヤツと刺し違えて死んでいたのは間違いない。はぁ。コレがダンジョンの難易度。油断はできない。
「ま、まぁ、右の扉はお触り厳禁で。メインは左の扉ね。プレイヤーモードにも慣れないと……」
聞けばレオのプレイヤーモードは自分で考え、動く必要があるらしい。やるべきことが“視える”けど、実際の処理は自己判断。僕の半自動的な反応とは少し違う。いや、マナの制御の部分のみ自動化されているのかも。別人レベルで違ってたし。
「まだ時間もあるし、何度か戦ってみようか」
……
…………
ホブゴブリン六体にオーク四体。
いきなりオークを引いた。レオの訓練だから初見の相手じゃない方が良かったんだけど……なんて思ったこともありました。無用な心配だったよ。
いまのレオは広範囲に魔法をぶっ放すんじゃなくて、的を絞って当てるやり方で、ブリット系の魔法を好む。前衛としてはありがたい。
まず、部屋を潜った瞬間に《エア・ブリット》を複数、待機状態で展開。丁寧にマナを隠蔽してる。
マナ感知の出力を上げることで、一連の流れがようやく僕にも把握できた。
「一応聞くけど、ゴ氏族のゴ=ルフ殿は知ってる?」
『ゴラァァァァッッッ!!』
『ぶっ殺してやるッ!!』
念の為、この部屋でもゴブリンには聞いている。ハズレばっかりだけど。何となく右の扉の先、ゴブリンジェネラルには対話出来そうな雰囲気はあったけど……やはり無理だった。
あと、当たり前だけどオークには言葉が通じない。十階層から先ではオークも討伐系クエストに追加されると思う。ルフさんの世界では、オークやオーガもいるらしいし。それにしても、対話する為のアイテム得るために、対象種族を殺しまくるというクエストの設定。いい感じに狂ってるね。
「……ということでレオ先生! 後はお願いします!」
「うむ。いいだろう。一宿一飯の恩義。受けた恩の分くらいは働くさ」
「…………」
メイちゃん、ここはツッコミ入れるところだよ? 能面顔は止めて。
あとレオ。ハートが強いな。全く動じない。やりきる強さ。
「オークはよく分からないから、ホブゴブリンを先に叩くから。守りはヨロシク」
戦いにおいても、レオにさっきまでの過緊張はない。ちょっとビビっているけど概ね自然体だ。そして既に一陣目の準備は終わっている。
炸裂。
手前に位置していたホブゴブリン二体の頭部が吹き飛ぶ。……グロいのが苦手と言う割にエグいな。急所撃ちだから仕方ないのかも知れないけど。
『ガァッ!?』
『な、何だッ!?』
それにしてもこの不可視の《エア・ブリット》は卑怯だ。便利過ぎる。羨ましい。
ただ、レオのレベルの所為なのか、かなりマナを籠めてるけど、ほとんどがブーストスキルに使われてる。結果として、オーク相手に一撃必殺とはいかない。
「……イノ君、まわり込んで後ろにいるオークの足止めお願い。私はレオの守りに徹する」
メイちゃんが刀を抜き、臨戦態勢で本気の《威圧》を使う。足止めする必要もなく、ホブゴブリンもオークもこれでほぼ近付けないけどね。ついでに僕の首筋もチリチリしてる。あれ? メイちゃん、僕にも《威圧》使ってない? 早く行けって?
ま、まぁそれは良しとして、万が
この部屋は精々一般的な体育館程度の広さ。ダンジョン階層のような広さや遮蔽物、高低差もない。何より僕らのレベルが高い。魔物たちには悪いけど、ここではレオの経験値、レベルアップの糧でしかない。油断はしないけど、負ける気はしない。
……
…………
「うーん……オーク相手には《エア・ブリット》じゃ威力不足みたい。しかも順応して後半は防御も間に合ってたし……」
「……だとしても凄い。まだレベル七なのに、オークすら相手にならない」
圧巻だ。
確かに防御面はメイちゃんに依存してるけど、たぶん、同じレベル帯なら、僕やメイちゃんが前に出るよりレオに任せた方が安定して戦えると思うし、逆に敵になるなら怖い。
流石にオークを複数相手にするのは危ないため、三体を間引いて一対一の状況を作りはした。
そしてオーク相手では《エア・ブリット》だけじゃ一発の威力が全然足りない為、複数を重ねるというやり方。
しかし、敵もさる者。まぁ語源の猿じゃなくて猪とか豚だけど……後半はレオが隠蔽したマナを感知して、重ねた《エア・ブリット》にすら反応して耐えてみせた。
前世の漫画やアニメ、物語に出てくるような婦女子を性的に襲うオークと違い、このダンジョンのオークは武人気質だ。戦闘センスもあり手強い。下手な攻撃を繰り返すとすぐに対処される。
たまに熟練兵やある種の達人のような戦い方をする奴もいるし、もしかしたら記憶や経験を引き継いでる個体なのかも知れない。
「やっぱり、魔法スキルってマナを籠めてもそこまで威力が上がる訳じゃないの? なんか、マナを籠めれば籠めるほど高威力になりそうだけど?」
単純な疑問。武技系のスキルは初期のものでもマナの籠め具合や練度でかなり使える。僕の《纏い影》なんて、他の便利スキルが出てきても、これはこれで使い続ける自信はある。
「たぶん、それが『精霊の魔法』っていうことなんだよ。あくまで精霊にお願いしてるのであって、自身のマナだけで現象を引き起こしている訳じゃない。……とか? 詳しいことは解らないけどね。これ以上の威力を求めるなら、クラスチェンジして次の位階の魔法スキルを会得しないと駄目なんじゃない?」
なるほどね。限界が設けやすい設定だ。魔法スキルは初期のモノを使い続けるより、段階を踏んで強いモノへ切り替えていく必要があるわけか。
「しばらくは今の手札でやり繰りしていくしかないか」
「……イノ君。感覚がおかしくなってる。レオの魔法スキルは十二分に凄い。むしろ、今の内に敵に近付かれた際の立ち回りを訓練する方が良い」
「あ、私もメイ様に賛成。頭では《エア・ガード》で防げるのは分かってても、どうしても体が硬直したり目を瞑っちゃう。少し慣れておきたい」
それもそうか。攻撃のことばかり考えてたけど、まずは防御だ。いのちをだいじに。
僕やメイちゃんならマナを全開にしてスキルを発動すれば、ゴブリンジェネラルの渾身の一撃であっても命は守れる。……僕の場合はそれでも《纏い影》の上から片腕を持っていかれたし、メイちゃんも《甲冑》を砕かれて血反吐を吐く羽目になったけど。
「あれ? 黒魔道士の防御スキルも『精霊の魔法』の範疇なら、マナを全開にしたからといっても総合的な防御力は変わらない?」
「一応、《活性》や《鋼体》っぽいことは出来るけれど、肝心の《エア・ガード》自体の防御力はあまり変動しないみたいだよ?」
え? ダメじゃん。魔道士クラスって危ないじゃん。そりゃレベルも上がりにくいだろ。前衛クラスに比べると危険度が違い過ぎないか? 敵との距離は離れていても、命の危険が近すぎる。
「ええと……まず《エア・ガード》の実際の防御力を確認したいんだけど? 僕やメイちゃんの防御スキルと同じと思っていたら、大きな間違いを起こすよね? 少なくとも、僕はいまさらながら変な汗が出てきたんだけど……」
「……イノ君……もしかして、知らなかったの?」
あ、メイちゃんが能面顔。ご、ごめんなさい。コレは怒られても仕方ない。だって、防御系のスキルはマナ量や練度への依存だと思ってたんだよ。まさか魔道士クラスの防御スキルが能力固定式だとは……戦闘中、メイちゃんがレオの傍を離れなかったのはその為か……すまぬ。そしてありがとう。
「あーあ。イノって最低だね。まさか私の命をそこまで軽視していたとは……がっかりだ」
くッ! レオめ。お前は何となく僕が知らないことを知っていたんじゃないのか? ここぞとばかりにニヤニヤしやがって! い、いや。僕がツッコミ入れていい場面じゃないけど……
「……イノ君。レオの防御は、スキルありきだとしても、ゴブリンジェネラルの前では紙と同じ。それに、後衛の魔法アタッカーは必ず盾役と共に運用することが基本」
「……はい。すみません。軽く考えていました。マナ量がかなりあるし、防御スキルに振り分ければレオは囲まれても大丈夫かと……」
静かに、深~く怒っている。当たり前か。これには何も言えない。
下手をすれば『多数を相手にする方が効率が良い』とか言って、ゴブリンジェネラルの部屋にレオを連れて挑んでいたかも知れない。五分前までの無知な僕ならやりかねない。当然、メイちゃんが止めただろうけど。
「メイ様。良いよ。イノは知らなかっただけ。聞けば最初から違法ダイブだし、【クラス】や《スキル》に関しての授業もほとんど受けていないんでしょ? 自分の【クラス】以外の体系だった《スキル》の効果なんて知らなくて当然だよ」
「……レオ。私が居たから良かったものの、イノ君は自分の勘違いから、レオを死なせていたかも知れない。……これはそういうこと……」
「そうなってたら、イノは私を逃がすために何とかしたと思う。少なくとも私を盾にして逃げるようなことはしないでしょ?」
レオ……庇ってくれるのは嬉しいけど、これは僕の明らかなミスだ。しかもバカなヤツ。申し開きもない。
「……だからだよ……ッ!」
「ッ!?」
「!!」
メイちゃんのマナが静かに荒ぶっている。
「……イノ君は“そういう状況”になったとき、レオを逃がすために命を懸ける。たぶんレオを先には死なせない。それは分かる。あの時もそうだった。先々にはどうしようもない場合もあるかも知れない。でも、私は誰かに命を懸けさせたくない。ダンジョンの最深部を目指すんでしょ? 死んだら終わりなんだよ? イノ君は元々だけど、レオも。プレイヤーの性質なのかも知れないけど、自分が死ぬことを軽く考えてない?」
「「………………」」
ぐうの音も出ない。メイちゃんの言葉に思い当たりはある。
チラリと横を見ると、図星だったのかレオも気まずそうだ。
「……私は、自分を含めて誰かが欠けるなんて嫌。イノ君とレオ。二人と一緒に先へ行きたい。でも、二人はそうじゃないの? 特にイノ君は『守るために死ぬこと』に思い切りが良すぎ。私は“遺される側”にも“遺す側”にもなりたくない」
メイちゃんの真っ直ぐな瞳。
目を合わせられない……
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