プレイした覚えもないゲーム的な世界に迷い込んだら
なるのるな
‐1‐
プロローグ ダンジョンのある世界
:-:-:-:-:-:-:-:
プレイしていたゲームの世界に転生or転移する。
転生先が嫌われ者の悪役だった。
集団転移したらチート能力がしょぼくて追放される。
勇者パーティから役立たずとパーティから追い出される。
自分だけがこの世界の秘密を知っている。 ……等々。
異世界系の話はそれこそ世に溢れているし、もし自分がそうなったら……と、空想することだってあるだろう。
僕だって十代の頃はそんな感じだったと思う。
普通にゲームだってしたし、異世界系の小説だって読んだ。動画配信で一攫千金を夢見るとかだってあったさ。
でも、いざ自分が『そういう状況』に置かれると混乱するよね。
そもそも僕は誰なの?
記憶が不完全だ。
気付いたら
自分についての記憶は飛び飛びだけれど『普通の現代日本』で過ごしていたことは覚えている。
普通に生まれて、普通に成長して、普通に学校へ通って、普通に恋愛もして、普通に就職して、普通に結婚して、子供が生まれて……孫も? ……妻に先立たれた? ひ孫もいたのか?
具体的なエピソードは覚えているのに、年齢や時系列がバラバラな感じ。それに具体的な固有名詞……自分の名前に住んでいた地名、年代、通っていた学校や職場などが分からない。なのに、芸能人の名前なんかはチラホラ覚えているという中途半端さ。いや、むしろ徹底していると言うべき?
どうなんだろ? 僕は死んだのだのか? もしくはあれは
とにかく、目が覚めたというか意識が戻った時には、十二歳の小学六年生の井ノ崎真だった。ワケが分からないでしょ? もちろん僕もだ。
しかも、井ノ崎真がいる日本は、僕が過ごしていた現代日本じゃない。
西暦は二〇二〇年。元号は
違うのは元号だけじゃない。いや、元号の違いなんてどうでもいい。
井ノ崎のいる日本というか世界には、ダンジョンがある。そう、ダンジョン。ゲームとかではお馴染みのあのダンジョンだ。大事なことなので三回言った。
なんでも、こっちの世界じゃ世界大戦が起こっていない。第一次も第二次も。
ナチスによるユダヤ人の虐殺もなければ、広島と長崎への原爆投下もない。
でも、ダンジョンがある。
ダンジョンの中は魔物が普通に存在し、それらを倒すとアイテムをドロップするという、まさに僕でも知ってるゲーム的なシステムが反映されているらしい。
この世界で最初にダンジョンが確認されたのは、一九一四年のボスニアの首都サラエボ。この年代と場所は、第一次世界大戦の引き金となったサラエボ事件の舞台。
サラエボを視察に訪れていたオーストリアの皇太子夫妻が、ダンジョンの出現とそのダンジョンから大量に魔物が吐き出された……後にダンジョンブレイクと呼ばれるようになる……魔物の大暴走に巻き込まれて死亡している。これはそのままサラエボ事件をなぞっている感じだ。一国の首都全域が壊滅するという、事件の被害規模はかなり違うけど。
その後、サラエボは魔物の巣窟と化し、首都が陥落し、国家機能が麻痺したボスニアに対して、オーストリアを始めとした周辺国家が魔物の制圧を目的に武力侵攻したということになっている。
同時期、ロシア帝国やドイツにもダンジョンが出現し、世界規模で『ダンジョン(魔物)VS人類』という構図が出来上がっていったらしい。
そんな歴史がある世界。
現在、ダンジョンは国際社会のルールに従って、国家による管理がされており、現在活性化しているダンジョンはかなりの数に上るという。この世界の日本にも存在している。
ただ、出現当時から十数年の混乱期を乗り越えた後、ダンジョンの詳しい状況が知られるようになり、ただの危険地帯というだけではなく、資源という面でも活用されるようにもなった。
当時……というか現代においての科学技術をも余裕で上回る機構、科学とは相反する不思議アイテム、魔物という未知の存在にそれらのドロップ品、ダンジョン内に設置されている宝箱……等々。
それらのダンジョンの恩恵を持ち帰る者たち、『探索者』という存在が現れるようになる。
どういう理屈かは知らないけれど、ダンジョンの中では、魔物を倒すことでレベルアップするという、これまたゲーム的なシステムが採用されていた。
浅層部であれば、銃器も通用するけど、ダンジョンは先に進めば進むほどに魔物は強くなり、携行型の銃器が通じない魔物も出てくる。ただ、ある程度レベルアップを経た者というのは、正に人外であり、五十口径の弾丸が通じないような魔物を、素手で殴り殺すこともできるんだってさ。化け物だね。
ただし、ダンジョンでどれだけレベルアップしても、ダンジョンを出て一定範囲を超えるとその恩恵は消える。つまり人外から常人に戻るらしい。……このシステムが無ければ、力こそ正義なマッドでマックス的な世界になっていてもおかしくはない。
ワケがわからないけど、そんな霊和な日本で僕は井ノ崎真として生きていくことになったんだ。
現代日本での僕の一生の方が、井ノ崎真が見ていた夢なのかも知れない。
もしかすると、この世界を舞台にしたゲームがあって、そのゲームの世界に僕が転移というか転生したのかも知れない。
仮にそうだとしても、僕はそんなゲームをプレイしたことはない。
そんな覚えはまったくない。
それとも、僕は漫画やアニメの登場人物で、突発的に自我を持ったとか、誰かが操っているとか?
色々と想像はするけど、全くヒントもなしで何も解らない。神様的な存在に出会った覚えもないし……一体、僕にどうしろと?
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