第36話

「ふぅ……無事に終わりました……」


 大きな身長を持つ女性の操る馬車が人通りの無い小さな森の一本道を進んでいく。

 彼女は大きな仕事を終え、ほっと息を一つつき、帰路に着いているのだ。

 

「やぁ」

 

 そんな彼女の場所の前に一人の少年が立っていた。

 さっきまではいなかった存在。でも確実に少年はそこに立っていた。


「「ヒヒィ……」」

 

 彼女の操っていた馬……二頭の馬の頭がどこかへと消える。

 頭を失った馬はゆっくりと体を倒して、その生命に終わりを告げる。

 動力源である馬を失った馬車は当然のようにその動きを止めた。


「あっ!?あなたは……な、何を!?」

 

 彼女は信じられないという風な視線を少年の方へと送る。

 

「見たままだよ?あなたにはここで死んでもらう」


「な、何故!?な、何か今回の旅路で私が何か!?」


「別に。旅路はお前の知っている通りさ。平和そのものだったじゃないか。……さて、と。何故?と言ったっけ?……その理由は君が一番良く理解していると思うんだけど……ね?」


「なっ……何を言っているのかわかりま」


 彼女に向かって告げられる少年の言葉を理解することが出来ず、彼女はただただ困惑する。困惑することしか出来ない。

 

「すぐにわかる……なぁ」

 

 少年の口元が三日月のように割れる。

 禍々しい笑顔が刻み込まれる。

 

「……せ……ん。ァ?んだよ、テメェ……」

 

 彼女の纏っていた雰囲気も口調もガラリと変わり、少年の方を思いっきり睨みつける。


「君の前に立っているのが人類の強者。……で、あるのならば何が起こるのか、わかるんじゃないかな?」


「チッ……舐めた真似をしてくれやがるぜ……たかが人間風情が……」


 彼女の周りを強大な力が渦巻く。

 悪魔や天使なんて足元にも及ばない圧倒的な力が。


「何勘違いしていやがる……例え────とも人間風情に負けはしねぇよ」

 

 少年に向けて敵意を……笑顔のまま殺気をぶつけてくる少年へと抵抗の意思を見せる。

 絶対の力を少年の方へと向ける。


「無駄だよ。既に終わっているから」


 絶対的なまでの力を前にしても、少年は決して余裕を崩すことはなく……笑みを浮かべ続ける。



「世界魔法────」

 


 もはや何もかもが遅い。

 最初から何もかもが終わっていたのだ。 


「ァ……」


 地面が赤く染まっていく。

 ……染まっていく地。赤く染まっていく地は……黒く変色していく。

 おどおどしく……禍々しく。

 そして……地は元の緑を取り戻す。すべてを奪われて、失って。

 

「おやすみ……ゆっくりと眠ってろ」 

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