第11話

「ふむ……」

 

 僕は落ち込んでいるマルジェリアを眺めながら、ワインを口に含む。

 実に美味である。


「……ちょっと待って?」

 

 マルジェリアが壊れたる機械のようにゆっくりと顔を持ち上げて、僕の方を見てくる。


「あなたが……飲んでいるのって……」


「あぁ。ワインセラーに置いてあった一番高いやつだな。実に美味である」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!」

 

 それを聞いてマルジェリアが悲鳴をあげる。


「500年寝かしていたのにッ!た、た、た、楽しみにとっておいていたのにッ!!!」


「ふんっ」


 そんなマルジェリアを見て僕は鼻で笑う。……実に滑稽な話である。ざまみろってやつだね。


「あぁ……わ、私のワイン……ちょっと!?な、なんで!?何で飲んでいるのよ!?」


「好きにして良いと言っただろう?」

 

「わ、私はあなたが安心出来るように対私用の仕掛けを作って良い!って言っただけで



「うむ。これも罠よ。マルジェリアの殺すためのな」

 

 僕は適当にテーブルの上に置いてあったナイフを投げる。


「……え?」

 

 僕の投げたナイフは普通にマルジェリアの結界によって阻まれる。


「はい。暗殺は失敗。ワインで気を引いて殺す作戦だったんだが……失敗だ」

 

 僕はどこまでも白々しく告げる。


「だが、これでワインは罠、仕掛けの一つになったな。……ふむ。実に美味だぞ?」

 

 僕はワインを回し、笑顔で告げる。


「ぐぬぬぬぬぬ!」

 

 それに対してマルジェリアは歯を食いしばり、拳を震わせながら僕のことを睨みつけていた……流石に怒らせすぎたかもしれない。


「後ろ」


 僕は顎で後ろを示す。


「へ?」

 

「誰かの気配がするなぁ。……すねた自分を母親が追いかけてきて、優しくしてくることを期待していた甘えん坊の気配がするなぁ」


「へ?」

 

 マルジェリアは慌てて後ろを振り返る。

 後ろにあるのは扉。そして、後ろの扉は硬く閉じられている


「あ……」

 

 だが、優秀な感知能力であれば容易に扉の近くにいるラザリアの気配を読み取ることが出来る。

 僕があらかじめメインルームから他の部屋への感知がしにくくなるような仕掛けを仕掛けてある。

 マルジェリアはそれにまんまと引っかかり、ラザリアの気配に気付けなかったのだろう。


「ごめんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!」

 

 マルジェリアが慌てて立ち上がり、扉の方に向かっていく。

 あいつもまぁまぁの親ばかだな。


「ふむ……デザートは何にしようか。……ミリアもここに呼びつけようかな」


 僕はそんなことを呟きながら、料理を口に運んだ。

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