推しへの愛はゲームの強制力を超えるのか?

@mia

第1話

 私の推しは、乙女ゲーム「光あふれる場所で恋をする」略して「ひか恋」の攻略対象の一人、天才魔法使いギルバート様なの。

 愛はあるが、アルバイトをしていない高校生の身では課金といってもわずかな額しかできない。

 日々ギル様の幸せを願い、その存在に感謝することしかできないのが少し寂しい。

 友だちの様に絵がうまければイラスト・マンガ投稿サイトに投稿できるが、私の絵は人様に見せられない。

 その友だちは私の誕生日に、ギル様のイラストをくれる優しい人だ。

 ちなみに、彼女の推しは王立騎士団団長の息子アルバート様。

 話をしていると楽しいし彼女のことは大好きだが、一つだけ「ひか恋」に対して考えが違うことがある。

 私はギル様とゲームのヒロインが結ばれるのを嬉しく思うが、彼女はそれが嫌なのでアル様のお相手がオリジナルヒロインのマンガを描いている。

 そのマンガではギル様のお相手はゲームヒロインなので、ゲームのギル様ルートでしか見られない幸せそうな微笑みのギル様が多く描かれていて、読んでいて私も幸せになれる。



 そんな私だが、今「ひか恋」の世界にいる。

 どうしてこうなったのか、全然分からないがここにいる。

 攻略対象やヒロインと同じ学園に通う男爵令嬢になっている。

 ギル様、アル様、第一王子、宰相の息子、大商会の息子、ヒロインは同じクラスで、私は隣のクラスだ。

 他にも攻略対象はいるが、同じ学年ではないので気にしない。というよりもギル様以外目に入らない。

 私は休み時間になると、ギル様鑑賞に励む。

 自分に魔法をかける。

 隠密と身体強化(目と耳)の魔法だ。

 誰にも見咎められないように、離れていてもギル様の表情を見逃さず、声を聞き逃さないように。

 ギル様鑑賞がバレないようにと日々使い込んでいたら、隠密の魔法がうまく使えるようになり、自分がいた痕跡も残さないようになった。これも愛の力なのか。


 日々ギル様鑑賞に忙しい私だが、他にもやることがある。

 この世界は誰ルートなのか確認すること、ギル様ルートか否か。

 中庭で昼食とったり、図書室で勉強したり、休みに街で買い物したり、ヒロインは特定の人ではなくまんべんなく行っているので分からない。

 ルート確定イベントはまだ始まっていないはず。

 ギル様のルート確定イベントは、魔法を使えなくなったギル様がヒロインとともに原因を追究し、パワーアップした魔法を使えるようになるというものだ。

 魔法が使えなくなり苦悩するギル様を見るのはつらいが、ギル様の幸せのためにぜひギル様ルートに進んでほしい。

 あの幸せそうな微笑みをリアルで見たい。


 今日は休みだが図書室で勉強するという名目で学園に来ている。

 本当の目的はギル様のクラスの特別授業だ。

 優秀なクラスは休みもなくて大変だと思うが、授業を受けるギル様という貴重な鑑賞タイムなのだ。

 そう考えたのは私だけではなかったらしく、数人の生徒が来ていた。

 でも、一番気合が入っているのは私よ。

 また、自分に隠密と身体強化の魔法をかける。

 真剣に授業を聞くギル様、先生の言う冗談にちょっと笑うギル様、質問に答えるギル様、たっぷりと堪能して一時間目の授業が終わる。

 授業が終わってもまだ何か書いているギル様。

 休み時間になったのだから、ヒロインと絡んでほしい。

 ヒロインを見ると、他の攻略対象達と話をしている。

 それは珍しくもない光景だけれど、違和感がある。

 なんだろう?

 ……。

 あっ。王子がいない。

 会話に聞き耳を立てると、王子が休むことをみんな知らなかったらしい。

 ……。

 …………。

 王子暗殺未遂事件。第一王子ルートだ!

 ここは第一王子ルートの世界だ。

 落ち着いて私。

 確か第二王子派が雇った人たちにさらわれて、森の中に放置されるのよね。魔法を掛けられ、深く眠ったままで。

 王子に直接手を掛けて殺そうとした訳ではないが、森に棲む獣に襲わせるのも結構エグイ。

 ヒロインが攻略対象に渡したお守りのおかげで獣に襲われないで済むが、王子の側近が意識取り戻して捜索が進むまで数日は放置されたままのはず。

 お守り?

 あれ、ギル様お守りもらっていたっけ?

 まさか見逃した?

 いやいや、これからよ、これから。

 違う。今考えるのは王子ルートのことよ。

 森の避難小屋よりも奥に王子が放置されているはず。

 ゲームしているときは、目印のある場所に放置して本当に第二王子を王太子にしたいのか疑問に思ったが、目印が無いと王子を見つけられない。

 ヒロインが王子を見つけられずに王子ルート終了。なんてことになったら、炎上するわ。

 毎度おなじみの隠密と身体強化を使い、森の避難小屋まで来た。

 残りの授業のギル様鑑賞を断腸の思いであきらめ、ここまで来た。

 結構な距離があったので、身体強化しても疲れた。

 この小屋には、食料や水、毛布、獣に襲われたときに使う剣や盾などが置いてある。

 水を一本頂き、飲みながら考える。


 王子に私が持ってきた睡眠魔法を解く薬を飲ませる

   ↓

 王子は助けた私に感謝する

   ↓

 王子とヒロインの仲が深まるきっかけがなくなる

   ↓

 王子ルート消滅


 ふふふ、これでいきましょう。


 王子に薬を飲ませても何の変化もない。

 一度学園に戻り、授業や昼食のギル様鑑賞してまた森に来ても問題なかったと思うくらい何の変化もない。 

 薬が効かない。高級な薬なのに。

 これがゲームの強制力なの?

 まさか、ヒロインの魔法でしか目覚めない仕様?

 王子ルート潰せると思ったのに。

 どうしよう。

 ギル様の幸せが……。


 考えに考えて王子を避難小屋から遠く離れた場所に移動させた私は、避難小屋に戻り剣を持ち出し王子の元へ戻る。

 王子の服のポケットに入っていたお守りを取り出す。


「ごめんなさい」


 私は剣を王子の心臓に突き刺した。

 これで王子ルートは潰れた。

 お守りも取ったし、獣が血の匂いを嗅ぎつけ寄って来る前に帰ろう。

 剣を処分すれば第二王子派の計画通りに終わる。


 学園に戻ったときには特別授業は終わっており、ギル様はいなかった。

 今頃みんなで王子を探しているのだろう。

 ギル様の席を見つめながら誰ルートになったのだろうと考えていた。

 誰ルートでも関係ないか。

 私がギル様ルートにしてみせる。

 ギル様の幸せのために。

 

 


 

 

 

 


 

 


 


 

 

 

 

 

 


 


 

 


 



 

 



 


 


 

 









 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

推しへの愛はゲームの強制力を超えるのか? @mia

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ