プリンセス・オブ・カグヤ
朽木 昴
プロローグ
私の名は月姫神楽耶、今年から舞星高校に通う高校一年生。遠く離れたこの地で、ひとり暮らしをする普通の女子高生よ。
頭脳明晰、運動神経抜群、おまけに自他ともに認める絶世の美女であるこの私が、なぜ、この遠く離れた辺境の学校に通わなければならないのか。
その理由は──。
「そこのオジョーサン、学校なんてつまならないもの、サボって僕とドライブに行きませんかー?」
毎度のことだが、歩く度にナンパされるのだ。今日もこれで十件目のナンパ。しかも、お世辞にもカッコイイとは思えない男など、私が相手にするわけなく……。
「自分の顔を見たことあるのかしら? いいえ、鏡すらその姿を拒絶してるのね。哀れ、哀れすぎるわよ。ですから……私の前から今すぐ消え去りなさい!」
「ひ、ひぃぃぃぃ。す、すみませんでしたー」
この調子が学校まで続いたら遅刻は決定的ね。『ナンパされて遅刻しました』なんて言い訳が通るのかしら。中学のときもそうでしたけど、ホント、めんどくさいわね。
「そこのお嬢さん、舞星高校に行かれるのですか? もしよろしかったら……」
また、ですか……。こんなド田舎では美女なんていないのかしらね。でも、私と比べてしまったら、すべてがゴミと同じですけれど。
「ええ、私は歩いて高校まで向かうつもり。ですから……」
黒塗りの車から顔を出す男子生徒。控えめに言ってイケメンかしら。金髪で少しチャラそうですけど。どのみち、この男だって所詮は私のオモチャになるんですけどね。
だって、私にはこの不思議な力があるのですから。
この……魔性の力がね。
「今から歩いては遅刻してしまいますよ。僕の車ならギリギリ間に合うと思うんですけど」
「そう、分かりましたわ。それでは、乗せてもらいましょうか。その代わりに……アナタと同じ空気は吸いたくないの。ですから、アナタは走って高校まで来てくださいね?」
この男はすでに、魔性の力で傀儡にしてるのよ。便利な力だけど、その代償で勝手に言い寄って来るのが邪魔なのよね。
「でもそれだと、僕が遅刻してしまうんですけどっ。はっ、これは、ツンデレというやつですね。仕方ありません、か弱い女性のため、この僕は敢えてイバラの道を行きましょう」
「だ、誰がツンデレよっ、誰がっ!」
「恥ずかしがらなくていいんですよ。さっ、僕は降りますので、お嬢さんは……って、名前聞いてもいいですか?」
なんなのこの男は……。マイペースというより、なんで私の魔性が効いてないのよ。おかしい、おかしすぎます、こんなの絶対におかしすぎますからっ。
「名前なんて教えるわけありませんわ。だって、愚民に教えでもしたら、この『月姫神楽耶』の名が穢れるもの」
「へぇ〜、月姫神楽耶さんって名前なんですか。僕は神城龍二、龍二って呼んでください」
「……わざと、わざとですからねっ。決して墓穴を掘ったわけじゃ、ないんだからっ」
「面白い人ですね、では、車の中へどうぞ。僕は走って学校まで行きますので」
龍二なる男の代わりに私は車へと乗り込んだ。その男は……龍二は、車の後ろから猛スピードで走り出す。
だけど、人のスピードが車に勝てるはずもなく、龍二はあっという間に姿を消した。
消したはずなのに……。
「神城、龍二、か。不思議な人ね、同じ高校ならまた会える、かな。って、ち、違う、私はあんな男なんて……」
熱くなった顔はきっと車内の温度が高いせい。そう言い聞かせ、到着までの五分間を静かにしていた。あの男が頭から離れずに……。
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