真夜中の理想郷
おくとりょう
第1話 愛の暴走特急は終電でした。
突然ですが、私、失恋しました!
五年も付き合っていたのに。もうすぐ私の誕生日もあるのに。いつも「熟年の夫婦みたいだね」って言い合っていたのに。
……あ。あれは倦怠期ってことだったの?分かんねぇわ!私はあなたのこと好きだったんだもん!
大人だから甘えたりイチャイチャしたりは恥ずかしいけど。恋人だもん、好きなんだよ。大好きだったんだ。
どんなに仕事が辛くても、あなたを思えば、幸せだったし。誰に何と言われても、あなたが居れば、平気だった。
だけど……、こんなに好きなのに……。好きなのは、好きなのは、私だけだったってわけ?
『女同士じゃ、やっぱり結婚は無理だよ』
……。もう何度も読み返した文面をじっと見つめて、私は深く息を吐く。顔は涙と鼻水でべちょべちょなのに、喉は乾いてざらざらしていた。
……あぁ。これがすべて、ただの悪夢ならよかったのに。目を開ければ、少し垂れ目な彼女の瞳が、心配そうにこちらを見つめていて、優しく私に微笑むの。
「大丈夫。あたしはあなたの隣に居るよ」って。
だけど、『現実はこっちだ』って、イガイガと喉の痛みが主張する。暗い部屋でベッドに座る私の側に彼女は居ない。……あぁ、なんて。……なんて、この世界は生きづらい。
堪らなくなって、私はスマホをソファに投げた。……叩き壊す勇気はなかった。
彼女との思い出でいっぱいの部屋を見るのも苦しくて、私は明かりも付けずに、布団へ飛び込む。化粧でシーツが汚れるのも、化粧で肌が傷むのも、もう何とも思わなかった。
むしろ、もうぐちゃぐちゃにしてしまいたいたかった。
そのとき、スマホが鳴った。……彼女だ。
汚れた顔を乱暴に擦って、ソファの方へ手を伸ばす。暗い部屋に慣れた視界には、明るい画面が眩しかった。
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