彼女の推しは、俺の弟
はちこ
第1話
俺の彼女は園子。絶賛、推し活中の女の子だ。推しのためなら、どんな苦労もいとわない。推し活の活は「活動」の活であり、「活力」の活でもある。
毎日、活き活きと推しの素晴らしさについて語っている。俺はそんな推しのすばらしさを雄弁に語る園子が好きだ。何かに夢中になっている人ほど、魅力的な人はいないだろう。
年は同い年だが、高校卒業と同時に入社した園子は社会人としては先輩だ。目配り、気配りの出来る彼女は、他の社員からも評判が良く、俺にとっての憧れでもあった。入社後、同じ部署になった俺は、彼女の働き方を見ながら、たくさん学ばせてもらった。今もずっといろいろなことを吸収させてもらっている。
そんな憧れが恋にかわるのに、時間がかかるはずもなく、気づけば園子にどっぷり片思い。そして、先日、勇気を振り絞って告白。見事、彼氏の座を射止めた幸運の持ち主が俺だ。
そして、その俺には一つだけ園子に秘密にしていることがある。それは、彼女の推しが、俺の弟ということだ。嘘みたいなほんとの話。俺もびっくり。初デートで弟のライブに連れていかれた。弟は芸人をしている。そう、園子の推しは芸人の俺の弟。
弟はまだブレイクしてない、知る人ぞ知るってやつ。でも、ようやくSNSなんかで、話題になったりし始めた。園子はいつから弟のことを応援しているのか、怖くて聞けないけど。デートの行先を聞かされて、俺はすぐに弟に連絡した。とりあえず、他人のふりで、と。
園子が推しについて熱く語る時、俺もうれしくて、少し恥ずかしい。身内を誉められまくる経験、なかなかできるもんじゃない。でも、園子が誉めれば誉めるほど、推しに対する愛を語れば語るほど、俺は不安にもなる。もし、俺の弟が推しだと分かったら、俺はどうなってしまうのか。
怖くて考えたくない、だから、しばらくはこのままで。
私の彼氏は恵太。絶賛、推し活中の私を推し活中だ。推しである、私のためなら、どんな苦労もいとわない。推し活の活は「活動」の活であり、「活力」の活でもある。
毎日、活き活きと推しの素晴らしさについて語る私の話に、熱心に耳を傾けている。私は、推しの素晴らしさを雄弁に語る私を全部受け止めてくれる恵太が好きだ。誰かをまるごと受け止めてくれる人ほど、素敵な人はいないだろう。
年は同い年だが、大卒で入社した恵太は社会人としては後輩だ。入社後、同じ部署に配属された新人の彼。いつも一生懸命で、見聞きしたこと全てを吸収しようと頑張っている彼は、他の社員からも評判がよく、私はひそかに好意を抱いていた。
そんな好意が恋にかわるのに、時間がかかるはずもなく、気づけば恵太をいつも目で追っていた。そんな彼からの突然の告白。断る理由は見つからず、見事、彼女の座に収まった私はとてつもない、幸運の持ち主だ。
そして、そんな私には一つだけ恵太に秘密にしていることがある。それは、私の推しが彼の弟だと、”知っている”ことだ。嘘みたいなほんとの話。私もびっくり。
きっかけは些細なこと。私は彼の弟がコンビを組んだ初期のころから追っかけている。彼のSNSだってフォローしてる。恵太は知っているだろうか、弟のInstagramに、自分が映り込んでいることを。
恵太が入社してきたとき、私は本当にびっくりした。推しの兄が自分の会社に入社してくるなんて、夢かと思った。いや、むしろ夢であってほしいと思った。推しは手が届かないところにいるから推しであり、憧れであり、全力で応援するのだ。
断っておきますが、私は決してやましい気持ちがあって恵太に近づいたわけではない。本当に恵太が好き。推し活してる私ごと、受け止めてくれる彼が心底好きなのだ。
今、一番の不安は、推しの兄だからという理由で、私が恵太と付き合っていると思われること。だから、しばらくはこのままで。
彼女の推しは、俺の弟 はちこ @8-co
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます