一章 魔法少女と時とめと
一魔 我が家の天使はお嫁さん
とある宇宙の、とある惑星の、とある国の、とある地域、
街道を歩けば温泉の香り、商店街に行けば温泉卵の看板、そんなバリバリ観光地のこの場所に、俺は住んでいた。
そう、住んでいた。この街に住んでいたはずなのだ。この街のそこそこ良質な賃貸アパートの一角に、俺は一人暮らしをしていたはずなのだ。
そのはずなのに、今ではなぜか、
アレヤコレヤという間に、俺は丸め込まれ、家事をする
それがもちろん、犯罪でないことだけは明言しておこう。
だから、というより、これからのために、一度振り返ることとしたい。自らの愚行を。
「ねえ、
「今日はそういう話をする気分じゃないから、明日にしてくれ」
「え~! もう、疲れてるのはわかるけど、話ぐらい聞いてよね」
余計な邪魔が入ったが、振り返るとしよう。我が愚行を。
☆★☆★☆
「あ~、疲れた。肩いてぇ」
そうぼやきながら、ぼんやりとした意識で電車の中を見渡す。今日も今日とて、なかなかのレベルで上司にしごかれた。辛いし、怠い。体が悲鳴をあげるのに、もう時間もかかるまい。
それでも、今やってる仕事に、少しやりがいを感じてしまってるのは、また厄介である。
それにしても、こうして電車に揺られてると、まあ眠くなる。立っているから、寝るわけにもいかないのだけど、座っていたら寝ているだろう。
別に、混んでるというわけではない。それどころか、時間も遅いからか、そこそこ空いている。
今立ってる場所の近くには空席もあって、眠いならそこに座って寝てしまえと、悪魔が
けれど、それでも俺は座ることはない。
一度犯した過ちを、なんども繰り返さないために。あの日もこんな感じの疲れだった。
そのときは、丁度いいからと座り、まあ寝た。
きっと、勘のいいやからにはすぐわかっただろうが、寝過ごし、気づけば終点。
帰りは電車がなく、タクシーに乗り換えて、家に帰った。
そして、元から心許ない財布の中は、もはや見るも無惨な姿になられていたのだ。それはもう、眠気が一発で吹っ飛ぶほどの効果があった。
そう、あの日の恐怖を振り返ってると、電車は降りる駅へと着いた。
そこから、温泉の香りを楽しみながら数分歩き、我が家こと、アパートの一室へとたどり着く。
そして、カバンの中から鍵を取り出し、鍵穴に差し込むが、そこで違和感を覚える。
スカッとするこの感覚、鍵がかかってなかったのだ。思わず表札を確認してしまったが、紛うことなき我が家の表札。鍵についてる番号とも一致してる。
アパートの二階に住んでるから、空き巣に入られることはないと思ってたが、その可能性も現実味をおびてくる。
もちろん、単に俺がバカで、鍵を閉めずに会社へ向かってしまったことも考えられるから、一概に空き巣に入られたとも言えないが。
「すぅ、はぁ。まじか~」
そうボヤかずにはいられなかった。鍵を閉め忘れたにしろ、空き巣に入られたのにしろ、心臓に悪い。目覚ましとしては、最高だが……。
そして、固い
部屋の中は真暗。少し安心するとともに、ここが俺の部屋だという事実の信憑性が高まる。
そして、電気をつけ、部屋の全貌が明らかなった瞬間、俺は絶句した。
空き巣に入られたことがわかったからではない。
普段俺が使ってるベッドには、一人の
美しく神々しい、まるで光を放っているのかと思ってしまうその長い白髪と、まだ少し幼さの残る愛らしい顔とのギャップに、思わず俺はこう溢していた。
「綺麗」
そんな幻想的かつ逃避的思考から現実へと引き戻された俺は、事態の、現状のあまりのヤバさに背筋が寒くなる。そして、額には一筋の汗が。
とりあえず、俺は誘拐はしていない。
前日、もしくは、前々日までに、女子高生が
ま、まあ、ニュースはそんなに早く報道はされないだろうが、ここ数年誘拐事件は知らない。
よく考えたら、ニュースなんて滅多に見ないから知らない。当てにならない現実に、思わず頭は痛くなる。
でも、地域の噂では誘拐されという話は聞いてない。
毎日帰ってきてるし、鍵を閉めてることが基本なわけだし、ここが知らず知らずのうちに誘拐犯のアジトにされたということもないだろう。
それじゃ、こいつは誰なんだ。
なぜここにいる。なぜここで寝てる。
わからないし、わかりたくない。
クソッ、人がこんなにも慌ててるのに、すやすやと気持ちよさそうに寝息をたててる綺麗な彼女を見ると、無性に腹立たしくなる。
そんな安心そうな顔して、このまま襲ってしまうか? 犯してもよくね?
…………。
もちろん、冗談かつ、気を紛らわす息抜きみたいなもので、そんな気は一切ない。
大体、現状は無実なわけだし、わざわざ罪を犯すようなアホなことをしようだなんて、考えるわけがない。
けど、少しでもそのことを思うと、気になってしまうのと、そういう邪かつ営むの数々を妄想して暴走しだすのが男というもの。
大体、こんなに無防備な女子高生が目の前にいるのに、ムラムラしないというのは些かムチャな話という気もする。
据え膳食わぬは男の恥。
この言葉を盾と武器にできれば、俺は特攻したことだろう。
そんな、暴走寸前かつアホな妄想を現実にせんとする俺は、一瞬で冷静と平静を手に入れた。
彼女が眠気まなこの目をこすりながら、とろんとした表情で、ゆるんとしたその豊かなたわわを揺らし、少しあくびをして起き上がったから。
「えっと、君、誰?」
俺がそう質問するのは当然で、そこになにも卑しさなんてないはずなのに、なぜか質問する側というシチュエーションから、あらゆる想像をしてエロさを感じてしまう。
けど、彼女はそんなのお構いなしに、こう答えた。
「あなたのお嫁さんの、
まだ眠気の取り切れない彼女は、かわいさ眠気たっぷりにそう言ったのだ。そう言ってのけたのだ。
俺のお嫁さんだと。俺のお嫁さんであると。
その衝撃の事実に、俺は襲いかかっていた。自らの理性を捨てて。
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