よもつへぐい〜現世に戻れないのは黄泉の料理が美味すぎるせい!
火星七乙
1
「今までお疲れ様でした! 黄泉の国へようこそ! まずはゆっくり休んでくださいね〜!」
人の、特に日本での生死に対する価値観形成は失敗していると思う。
命は大事だ、失えばどんな大金持ちでも買い戻せない。
人は誰だって、自分の人生の主人公。
人生は一度きりなんだから、何か一つでもやり遂げよう。
矛盾してるって、普通に。
キツいって、真面目に。
実際には子孫や経験や財産や徳や人脈を増やしてより豊かに生きることが求められる経済国で生きなきゃいけないんだから無理がある。
ここにいつか確実に失う財産があります。タイムリミットが来たならば、オールリセット。二度とそれを使うことも愛でることも手に取ることもできません。というか、あなたの自我、消滅します。あなたが退場した後に、あなたが何かを得た形跡が場に残ることもありますが、百年くらい経てば残滓も大抵薄れて空気中の微粒の分子同然です。あなた由来の遺伝子も、もう少し世代を重ねれば跡形もないですよ。
じゃあ、何のために?
まあ、超高解像度のオープンワールドゲームと思えば、どうせならやってみてもいいかなって気になるよ。完全な無よりはずっといい。でもそれはやってて面白いゲームならって話。少なくともトータルで苦痛より快楽が勝らなきゃやらない。
何者にもなれないどころか人より得意なことなんて生まれてこのかた一つもない、誰にも好かれないどころか間や距離感が分からず鼻摘者で余り物、美形な訳でもないし、持病もある。それから、恋人もいません。
たとえば、トータルで苦痛が勝る
「どうされました〜? あ、混乱しちゃいますよね? 大丈夫ですよ〜! 何も怖いことはありません、ここはなんと……黄泉の国です!」
その点、宗教国家の方がまだ生死の価値観に整合性がある。
天国とか地獄とか輪廻転生みたいなものがあるなら、どんな命だって今世を一生懸命やる意味がある。より善い人間として徳を積んで罪を減らせば、その功績は次のステージに反映されて、消えることはない。
けど、そこは日本生まれ毒親付き一般家庭育ち、信じるものは科学です。熱心な無宗教信者ですので改宗には至りません。
死後の世界はないし、この
そうして死への想いがつもりにつもり、そのうち死ぬつもりで、でも何をするわけでもなく、ただ死にてえ、と眠りに落ちて目が覚めて、
「あのう、そろそろ後ろの方がつかえてきたな〜、なんて……」
それで、なんだっけ?
「あ、はい。黄泉の国です」
あるんかい、死後の世界。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます