やる気は死んでいるもの

シヨゥ

第1話

「やる気はどうやって出すものかって?」

 後輩から質問を受けて作業の手を止める。

「そんなものどう頑張っても自分から出せるわけないだろ」

「えっ!?」

 文字通り目を丸くする後輩。

「やる気なんて作業をしている内に生まれて、そして死んでいくものだ」

「そうなんですか?」

「そうだよ。人間はだらけていたいんだからな」

「どうしてです?」

「いざという時に動けるようにって聞いたな。本当かどうかは知らんけど」

「へぇ~」

「だからやる気が出ないのが自然。安心しろ」

「でも先輩はバリバリやっているじゃないですかー……めっちゃやる気あふれてますよ」

「俺は単に早く作業を片付けて帰りたいだけだ。こんなくだらないことに人生をムダに使いたくないからな」

「くだらないって」

 苦笑いされた。

「本当にやりたいことをやってないんだからくだらないだろ」

 だから開き直ってやる。

「たしかに」

 これには納得せざるを得ないようだ。

「だからさ。そんなくだらないことにやる気なんて出せるわけないんだよ。やる気なく取り掛かってダラダラやる。なんか進みが良くなったなと感じた瞬間にやる気が生まれている。そんなもんなんだ」

「なるほど。分かりました」

 とは言うものの腑に落ちないようだった。

「でもどうにかなりませんかね」

 だからだろう会話は続く。

「最近作業が手につかないんですよね。どんどん帰りも遅くなっていて……」

 半泣きといった具合になってきた。演技なのかもしれないが少しかわいそうだ。

「そうだな……作業前にやる気を出す呪文として決まった言葉を実際に口に出してみるっていうのはどうだ」

 ない頭で浮かぶのはそれぐらいだった。

「呪文ですか」

「自己暗示の一種だな。これを言ったからにはやる気を出さなければならない。そう思い込ませるんだ」

「難しそうですね」

「難しいだろうな。でもハマればうまくいくと思うが」

「他に方法もないわけですし……とりあえずやってみます」

「そうか。まあほどほどにな」

「はい。作業中にありがとうございました」

 頭を下げると後輩は席へと戻っていく。しばらくすると後輩の席の方からお経を唱えるような声が聞こえてきた。さっそく実践しているようだ。

「俺も頑張らないと」

 まずは死んだやる気の蘇生から始めよう。これがまた時間がかかるのだ

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やる気は死んでいるもの シヨゥ @Shiyoxu

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