Yukaさんと例の話し
お茶
前編
「おじゃまします。」
靴を脱いで部屋に上がる。
部屋はきれいに整頓されていた。白い床壁に青色のカーテン、二人掛けソファーなど青色を基調に小鳥のモチーフなどで可愛らしくまとまっている。
「いらっしゃい。来てくれてありがとうね。狭いところだけど、そこ座って?」
Yukaさんは儚げに微笑んだ。
「青色、お好きなんですね?」
「ええ、主人が。うふふ、お客さんが来るのは久しぶりだから緊張するわぁ。
いまコーヒー淹れるからゆっくりしてね、茶露ちゃん。」
そう言ってYukaさんは部屋の隅にあるキッチンの方へ歩いていった。
(私も友達いなかったから、親戚以外の家に遊びに行くなんて・・・
初?初めてじゃないか?)
私は石のように座ったままキョロキョロと部屋を見回した。
この音楽はどこから聴こえるのだろうと思ったが、隣の部屋でレコードが回っている。
そのまま視線を泳がせると、ふと鏡に映る自分が目に入る。新調した眼鏡は見慣れてきた。
台所でひとりごとのように「食器は同じ所に戻して欲しいなー。」などと言っているYukaさんとは、SNS『チャッター』で知り合って実際に会うのはこれが2回目だ。
Yukaさんは『チャッター』から数ヶ月離れることもあり利用頻度は高くないが、私がUPしたカフェの写真にコメントをくれて、割と近くに住んでいることがわかり「会いましょう!」と言われた。
初めてそのカフェで会った時も色々な話をしたが、お互いに本名は知らない。
今日はYukaさんに「話したいことがあるので家に来て欲しい。」と言われたのだ。
話すだけなら前と同じもしくは他のカフェでもいいと思うのだが、事情があるのかもしれないし一度会っただけのYukaさんに意見する気にもならないので了解した。
「お待たせ。」
Yukaさんが折れそうな細い手でコーヒーカップをテーブルに置いてくれる。
「あのカフェで買った豆なのよ。」
「それは間違いないですね。」
私たちはコーヒーの温かい香りを吸い込み、一息ついた。
「そうだ、牛乳があるからカフェラテにしようかな?」
Yukaさんはまた立ち上がって冷蔵庫を開けに行く。
「あっ」
「Yukaさん、どうしました?」
Yukaさんは冷蔵庫から《ビール6缶の包装材》を取り出した。
「もう、コレだけ冷やしてどうするのかしらね。」
冗談っぽく言いながら包装材を折り畳んで紙袋に押し込む、その表情は穏やかに微笑んでいた。
「ふふ、Yukaさん『チャッター』でもそうですけど、カフェで話した時もご主人の話しばっかりでしたね。」
「そうね、なぜか茶露ちゃんの前では無理して笑ったり気を遣わなくていい気がして・・・。」
Yukaさんはコーヒーカップに牛乳を注ぎながら言った。
「えっそうですか?」
ジワジワと嬉しい気持ちで胸がいっぱいになる。
「それで、Yukaさん、例の話しって…?」
「うん、実は…」
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