第49話:三大魔卿に圧勝する
〔ダーリン、こいつ誰?〕
〔魔族の中では最上位クラスだと分析します。あくまでも、魔族の中では……ですが〕
相手が三大魔卿でも、二人は落ち着いていた。
さすがは、SSSランクの呪い魔神と殺戮人形だな。
その冷めた視線は、まるでゴブリンを眺めているようだ。
「三大魔卿っていう、めっちゃ強い魔族だよ。魔王の次に強い3体の魔族がいるんだ。でも、なんで三大魔卿がここに……」
目の前にいるグリワ・メイモンは、他の魔族と同じようにでかい図体だ。
だが、その肉体に無駄な部分は一切ない。
まとっている空気も洗練されていて、なかなかの威圧感を感じた。
体からにじみ出ている魔力も、密度が詰まっている。
魔力の固まりで殴られただけで大怪我をしそうだ。
こいつと比べると、ルシファー・デビルやエビル・デーモンは大きいだけだったな。
『憎きレイク・アスカーブめ。俺が来たからにはもうお前の命はお終いだ。だが、やはり貴様も人間というわけか……恐ろしく小さき者よ。だが、俺は油断しないぞ』
グリワ・メイモンはやたらと怒鳴ったりせず淡々と話す。
自分は他の魔族とは違うと見せつけているかのようだった。
「お、お前たち! 絶対に気を抜くんじゃないよ! アタシたちが負けたらノーザンシティの終わりだよ!」
「「お、おう! お前ら、気合入れてけ!」」
ライブリーさんたち冒険者は、滝のような汗をかいている。
みんな必死に武器を構えているが、全身がぶるぶる震えていた。
魔族化ナメリックが出てきた時とは偉い違いだ。
『我らが三大魔卿のランクは……S⁺だ。それが何を意味するかわかるな?』
グリワ・メイモンの言葉を聞いた瞬間、冒険者たちがどよめく。
「エ……S⁺……だって……?」
「そ、そんなランクがあるのかよ……」
「もうおしまいだ……俺たちはここで死んじまうんだ……」
みんな、絶望の表情をしている。
一般的にはSランクを超える敵の襲来なんて無いだろう。
俺だってそんなランクの魔族やモンスターは初めてだった。
ミウたちにこそっと話しかける。
「S⁺なんてランクがあるんだなぁ」
〔別に大したことないわね。Sよりちょっと強いだけでしょ?〕
〔マスターの足元にも及ばないのは間違いありません〕
二人ともSSSランクだから、S⁺なんてもはや蝿同然だ。
ゴブリンやスライムを相手にするのと大して変わらないんだろう。
そんなことを思っていたら、ヤツからにじみ出てきた魔力が建物に触れた。
どんどん朽ち果てていく。
「あっ、コラ! 俺の仕事を増やすんじゃない!」
後で直さなきゃならんだろうが。
まったく、こいつらは本当に他人の迷惑を考えないヤツだな。
『この日のために、俺は選りすぐりの魔族アイテムを用意してきた。その目にありがたく刻んでおけ』
グリワ・メイモンは、ご丁寧にアイテムを見せてくれた。
<ワーゴッドの大刀>
ランク:S⁺
能力:相手を斬りつける度、魔力と体力を10%ずつ奪い取る
<聖魔の盾>
ランク:S⁺
能力:相手から受けた魔法攻撃を20倍にして跳ね返す
<精神分離のボーガン>
ランク:S⁺
能力:相手の精神を撃ち抜いて、数日間行動不能にする
<プレディクト・ランス>
ランク:S⁺
能力:相手の動きを予測し、自動的に急所を狙う
なるほど、どれもS⁺のアイテムというわけか。
確かに、能力もSランクよりずっと強そうだな。
しかし、ナメリックといい、こいつといい、どうしてやたらとアイテムを見せたがるのか。
「あのねぇ、俺たちは忙しいの。お前たち魔族に構っている暇はないってのに」
依頼が溜まってるんだからさぁ。
このままじゃ、いつまでものんびり暮らしができない。
『馬鹿にするなよ、小僧! 手始めにお前から葬り去ってくれよう! お前を倒せば、この世界を守る者は一人もいなくなる! 我ら魔族が人間界を支配するのだ!』
グリワ・メイモンは叫ぶと、4本の腕を巧みに使って攻撃してくる。
四方八方から、魔族アイテムが襲い掛かってくる! ……のだが、あいにくと俺には全ての軌道が見えた。
どこから何が飛んでくるのかわかっているので、避けるのは至極簡単なことだった。
「す、すげえ……レイクさん、全ての攻撃を躱しているぞ」
「相手が三大魔卿でも怯むどころか、果敢に挑んでいる……」
「あれこそ真の冒険者だ……」
みんなが固唾を飲んで見守る中、グリワ・メイモンの思惑がわかった。
こいつはボーガンで俺を行動不能にするつもりだ。
隙を伺っているのがバレバレだ。
バランスが崩れたフリをしてフェイントをかける。
思った通り、すぐに矢を放ってきた。
誰かに当たると危ないので、掴んで折ってやった。
『なっ……! ふ、ふん! 少しはやるようだな!』
確かに、こいつはスピードもパワーもそこら辺の魔族とは違う。
だが、それ以上に俺もパワーアップしているのだ。
――倒すのは簡単だが、どうしようかな。
攻撃が【怨念の鎧】にかすっただけでこいつは即死するので、倒さないようにするのが大変だった。
そもそも、三大魔卿が人間界に来るなんて滅多にないことだ。
できれば、何か情報を集めておきたいところだが……。
『な……なぜ、一発も当たらんのだ!』
「避けてるからだよ」
とりあえず、こいつを弱らせておこう。
攻撃をかいくぐりながら、グリワ・メイモンの懐に入り込む。
ちょうど腹が隙だらけだったので、みぞおちに殴打をお見舞いする。
「喰らえ! レイクパンチ!」
『ごっ…………!!』
思いっきりぶったら、グリワ・メイモンは吹っ飛んだ。
すごい勢いで岩壁に激突して崩れ落ちる。
全力で殴ると相手が木っ端みじんになるので、ほどほどに加減しておいた。
〔いえーい! ダーリンの勇姿はいつ見ても素晴らしいわ!〕
〔歴戦の猛者でも、あのような戦いはできないでしょう〕
「うおおおおお! グリワ・メイモンが吹っ飛ばされたぞ!」
「とんでもない一撃だ!」
「レイクさーん! そのままぶっ倒してください!」
ミウやクリッサ、冒険者たちが盛り上がる中、グリワ・メイモンは苦しそうに立ち上がった。
だが、今にも倒れそうで、口から血を流して息も荒い。
レイクパンチはめっちゃ効いたらしい。
「人間界を侵略しに来たと言ってたな。やっぱり魔王が動いているのか?」
グリワ・メイモンは黙ったまま答えようとしない。
『ゴホッ……話すわけないだろ! 魔族を甘く見るな!』
「あっ! ナメリック!」
グリワ・メイモンはひょいッと、近くに転がっていたナメリックを拾い上げる。
『こいつがどうなってもいいのか! このザコが殺されたくなければ、お前の命を捧げろ!』
なるほど、ちょうどいい人質というわけだ。
例によって、魔族は性格も最悪だな。
やがて、ナメリックが目を覚ました。
一瞬ぼんやりしていたが、すぐに状況を理解したようだ。
「うわあああ! なんだよ、なんだよ、なんだよ! 助けてくれー!」
ナメリックは涎をまき散らして泣いている。
涙以上に涎が出ているのが印象的だった。
魔族化したときの威勢はどこかに消えてしまっていた。
「まったく、人質を取るなんて汚いヤツだな」
〔あんなヤツほっときましょうよ。というか、両方とも殺してあげましょうか?〕
〔見捨てるのが最善の策だと思いますが?〕
二人の意見はさすがに辛辣すぎる。
仕方がないから助けるか……。
「よっ!」
いつもより少し強めに力を込めて走り出す。
周りの景色がグングン後ろに流れる。
身体能力666倍だからな。
あっという間に、グリワ・メイモンの前に来た。
『ど、どうしてそんなに速く動ける!? ク、クソッ、こうなったら……!』
「い、いやだー! まだ死にたくねえよー! 頼む! 助けて!」
グリワ・メイモンはナメリックの首を斬り落とそうとする。
ナメリックが殺される前に倒さないと。
――久しぶりに、こいつを使うか。
【悪霊の剣】をグリワ・メイモンの足にぶっ刺した。
いつぶりかの一撃だ。
サクッと気持ちよく刺さった。
『ピギャアアアアアアアアアア!!!』
いつものように、とんでもない悲鳴をあげてグリワ・メイモンは真っ二つになる。
【悪霊の剣】の能力は至ってシンプルだ。
斬りつけた相手を即死させるだけ。
久しぶりの獲物を倒して、【悪霊の剣】は嬉しそうにニチャア……と笑っていた。
グリワ・メイモンの亡骸は、地面に横たわっている。
ご自慢の魔族アイテムとやらも、すぅぅっと消えてしまった。
「「……え?」」
ライブリーさんもワイルさんも他の冒険者たちも、大きな口を開けていた。
唖然としてグリワ・メイモンの死体を見ている。
「とまぁ、こんな感じでいつも即死しちゃうんですよ」
「「…………うおおおおお!」」
ノーザンシティは割れんばかりの歓声で包まれた。
「レイクさん! アンタは最高の冒険者だよ!」
「まさか、あの三大魔卿さえも一撃だなんて!」
「こんな強い冒険者は見たことねぇ!」
わあああ! と冒険者たちが集まってくる。
〔ダーリンは本当にかっこよくて強いわねぇ。まぁ、いつも通りなんだけど〕
〔レイクっち、マジで強すぎ~〕
〔いいから、あんたは離れなさい。どさくさに紛れてるんじゃないわよ〕
「あ、いや、ちょっ、痛っ……」
ミウとクリッサが俺を引っぱり合う。
気を抜くと俺の体が真っ二つになりそうだ。
「レイク! よくやった! あんたはアタシらのメシアだよ!」
ライブリーさんにガシッと抱きしめられる。
「そんな大したことじゃありませんよ。ただ俺の使っているアイテムが強いだけで……」
「何言ってんだい! あんたのおかげで街が救われたよ!」
「うぐっ……い、痛いっす」
すごい力なので、背中がミシミシ鳴った。
これまた、気を抜くと背骨がへし折れそうだった。
「いやぁ、これも呪われた即死アイテムのおかげっすね。ハハハ」
ということで、三大魔卿もあっさり倒しちまった。
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