第11話

別作ですが、可愛いキャラクターイラストを頂きました! よろしければ!

https://kakuyomu.jp/users/kitatu/news/16817330647770688637


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 氷の茶会を確認した俺は、次のイベントに備えて、教室の下見をしていた。


 これから起きるのは、アルとモユの出会いイベント。


 入学式後、一般生徒は学校終わりの放課後。主人公のアルは寮で勉強に勤しんでいたが、教室にペンを忘れていたことに気づく。取りに戻ると、教室でひとりくつろいでいたモユと出会う。そして返す返さないのやりとりでからかわれるという、ファンタジーにあるまじきベタなイベント。


 これから数日以内、ルート分岐イベントの一週間後までに起きる、ヒロインとの出会いイベントの一つである。


 それを見届けようとしてるのは、修正力の確認と、物語通りにことが進むかの確認のため。修正力については、教室にきた理由なんかで判断、そこに違和感がないようであれば、修正力なしでも物語通りに進行する、ということの判断材料になる。


 氷の茶会は、あらかじめ学園で定められていた行事であった。そのため、判断は難しかったが、今回は偶然出会うというシチュエーションで判断しやすい。物語というレールから外れていれば、モユが偶々教室で寛ぐ可能性も、アルがペンを忘れて取りに来る可能性も極めて低いからだ。


 そして下見の理由は、二人だけのやりとりを見るために隠れる場所を探したかったからである。


「隠れられそうでは、あるけれど……」


 ファンタジーっぽい木の机と椅子が並んでいて、その下には隠れられそう。


 だけど、高い天井から吊り下げられたシャンデリア、石壁の凹みに置かれた銀の燭台、教卓の後ろと廊下と逆側のガラス窓から差し込む陽光のせいで、室内は明るい。加えて、床に敷かれた正方形のタイルには影が映る。そのため、隠れてもバレる可能性がある。


「やっぱ、教室の外で張る必要があるか」


 この教室は曲がり角から一番近い。そこで待ち、二人が入るのを確認して、外からのぞけばいいか。


 なんて考えて、教室の扉を開けて出た瞬間。俺の胸に誰かの頭が当たった。


「あ、ごめ……」


 ぶつかった人物が誰かわかって固まる。


「こちらこそごめん、すぐ離れ……ぎゅー」


 俺の顔を見た瞬間、ちっちゃな身体に抱きつかれた。折れてしまいそうなほど華奢で、ふわふわと柔らかい。女の子特有の優しい甘さの匂いもするけれど、途中まで言いかけていたことのせいで、まったくときめかない。


「……あの、離れてくださいませんか?」


「ごめん、ぶつかられて、頭がくらくらするんだ。ちょっとよりかからせて」


「本当?」


「本当。あと10時間くらいでおさまる、けど5分で再発するから、一生一緒にいて」


 頭の病気なのは間違い無いけど、精神面の方だろう。と、馬鹿げた考えは捨て、無理やりひっぺがす。


「わぁ、ひどいなぁ、もう。ボクに対して、そんなに酷いことしたいんだぁ? 少しなら、いやじゃないけど?」


「そんなつもりはないよ」


「ちぇ」


 仕草と声でSっ気をそそらせてきたモユをあしらうと、可愛い舌打ちが返ってきた。何だか、すごく疲れた。


 と、疲れている場合では無い!


 まずいっ、このままアルがきてしまえば、イベントの確認ができない。それどころか、アルとの出会いイベントが消え、二人きりで出会うという、ハーレムルートのフラグが折れてしまう。


 そう思って、もしアルがここに来ないのならば、呼びに行かないといけないことに気づく。


 仮に修正力がないなら、ハーレムルート突入は必須。フラグを折れさせてはならないのだ。


 くそっ、修正力の確認だけでいっぱいいっぱいなのに! 同時進行しないといけないなんて!


 なんて愚痴を吐いてる暇はない。これからアルを探して教室まで誘導しなければならず、モユが滞在している間にだから、もはや時間はないのだ。


 軽く修正力の確認だけして、アルを探しに行かなければっ。


「モ、モユ。どうしてここに?」


「え、急に焦ってどうしたの、レインくん?」


「い、いいからさ」


 モユは小首をかしげたが、まあいいや、と答えた。


「学校に言われてお茶会してたんだけど、あんな気まずいところで呑気にお茶なんかしてらんないよ。それに帰り道も一緒になんのやだから、教室に来たっていうわけさ」


 自然だ。なら、修正力なしでも物語通りに進行する、ということの判断材料プラス1。


 というわけで。


「じゃあモユ、またね」


「え、やだけど」


「いや、また、ね? 入り口から退いてくれない?」


「あっ、足がもつれた」


 そう言って、また、ぎゅー、と抱きつかれる。


 くっ、こんなところで時間をとられている暇はない。


 適当なこと言って、撒かないと。


「こ、こんな、可愛い子に抱きつかれたら、恥ずかしくて死んじゃう」


 モユを引き剥がして、教室内に入れる。そして走り出す。


 曲がり角を曲がった時、遠くからこちらに向けて歩いてくるアルを見つける。


 反射的に逃げ、曲がり角を曲がり直すと、教室からモユの声が聞こえた。


「レインくんに可愛いって言ってもらえたぁ〜、喜びくるくるだんす〜」


 ……聞かなかったことにしよう。いや、ダメだ。アルの足止めをしないと。こんなお花畑キメてるモユに会わせては、フラグが折れてしまう。いや、それどうこう以前に、誰がお花畑キメてるやつをハーレムに入れる気になるのか。


「やあ、アル」


 曲がり角を曲がり曲がり直し、手をあげた。


「あ、やっぱレインさんだ」


「こんなところでどうしたのかな?」


「ちょっと教室に忘れ物しちゃって」


 忘れ物、やはり修正力があるのか?


 いや、今はそれどころじゃない。モユが普通の状態になるまで、時間を稼げ。


「そっかぁ、忘れ物と言えば、忘れるくらいのものなら大切なものじゃないって話があるよね?」


「はあ。それがどうしたのですか? それじゃあ取り行ってきますね」


「アルはどう思う?」


「さあ? 取りに行きますね」


「どう思うか、答えてよぉ」


「ええ〜、泣き付かないでください。そうですね……」


 それからずっと引き留め続け、苦しくなってきたので、アルを解放する。


「うん、じゃあまあ、また」


「はい、また」


 アルの背中を見届け、教室に入ったところであとをつける。


 もはや10分以上経った。流石に、大丈夫だろう。


「見た?」


「喜びくるくるダンス見ちゃいました……」


 教室の扉から顔だけ出す。固まっている二人を見て、俺は目を覆った。




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