第9話


 あれからそれぞれが各自の席について、それぞれのコミュニティでやんややんや。そのあと、先生が入ってきて、挨拶ののち入学式に向かった。


 入学式が行われる歌劇場の外は祝いの花束が溢れかえり、花見ができそうなほど。だが、それを許さない数大勢の警備兵いて、入ってみると中にも、大勢の兵士が詰めている。ただそれでも悠々と300人の学生が入れるのだから、どれだけ広いかわかるというものだ。


 そんな会場は騒めいている。期待を胸に、というそわそわとは別のそわそわ。次期元首候補を目にしようと、各国重鎮や、様々な分野における有力者が貴賓として参加しているので、見られて落ち着かないそわつき。


 全員が着席し終え、ざわめきがなくなると入学式が始まった。


 舞台の上で話す学長から、端に設置された椅子に座る、元首候補の四人に目を向ける。


 朝は、すごく、すごく大変だった。今後もあれが続くとなると、よくない。精神衛生上だけでなく、ミレニアを護るという観点においてもよくない。


 誰とも仲良くなれないと言った時に、殺す、と即答されたことを思い出す。


 このままだったら、勝った一人以外から殺されてしまう……。


 ぶるりと震える。


 やはり、アルのハーレム計画は必須。ハーレムルートへ入らなければ。


 が、その前に、朝立てた目標を成し遂げなければ。


 幸いというべきか、今後の学生生活に支障がないようヒロインたちと普通に過ごせる関係を築くこと、という目標は達成された。不本意だが、俺がトロフィーとなることによって、ヒロインたちは活動にも本気で取り組まなければいけないため、俺にかまけて支障が出ることはなくなる。


 だとしたら残り二つ。


 まずは修正力の確認だ。


「それでは、新入生代表の四名から挨拶をお願いします」


 色々な催しが行われたあとに、四人の挨拶の番になった。まず最初に立ち上がったのは、モユ。呼ばれた名前はモユ・サドラー。実は、名前が変わって、王家入りしていることは噂で聞いていた。記憶があっても修正力が死んでいないかもしれない、と疑っている要因の一つだ。


「なあ、アル」


 俺は隣に座っているアルに声をかけた。


「どうしたんですか、レインさん?」


「アルはモユ・サドラーって知ってる?」


「そりゃ知っていますよ。もしかして僕のことを馬鹿にしてたりします?」


「違うよ。詳しくないから、聞きたいなって思って」


「本当ですか? ならお話ししますけど、モユ・サドラーは、モジュー家を国一裕福にした少女です。王家入りしてからも、湊町の整備、発展によって対外貿易を盛んにし、王女兼商会頭。見た目の良さもあってため息がでそうですね」


 俺の知っている情報と一致。ゲームとの情報ともほぼ一致。


 だけどこれに修正力が生きていると言い切れないのは時間の関係である。


 モユがモジュー領を仕切ってから、俺がレガリオで記憶を取り戻すまで時間がある。その間に、全ての構想が出来上がっていたのならば、修正力なしでもこういう結果になるのは当然なのだ。


 だから、どちらも確定することはできない。


 なんて考えていると、拍手と歓声、隣のアルの可愛い「わぁ〜」という声が上がる。


「レインさん、モユさんの演説凄かったですね!」


「聞いてなかった」


「ええ……」


「おっ、次はシリルか。アル、シリルについても教えてくれない?」


「ええ……」


 と言うもののアルは説明してくれた。


「シリル・デインヒル。王子より王子らしい王女ですね。文武両道の優れた人で、飢饉を防いだ慧眼を持ち、そしてそのことをきっかけに農業政策に乗り出し、収穫量を五割上げた功績がある方です。元首の政策も農業重視、食糧増産みたいです」


 どうやらそのようになっているらしい。


 農業政策に舵切ったのも修正力の影響か、とは思うが、モユ同様の理由で確定はできない。


「わぁ〜。シリルさんも素晴らしい挨拶でしたね!」


「聞いてなかった」


「ええ……」


「ローレルについてお願い」


「いや、妹のことは僕よりわかってないとまずいですよ」


「詳しくないんだ」


「レインさんがフランに怒られてる理由が分かった気がする」


 とは言うものの、説明してくれる。


「ローレル・クウエスト。ミレニアの王女で救国の英雄の娘」


「救国の英雄? 誰それ?」


「大侵攻を貴方と共に防いだロレンツォ将軍です」


「ろれんつぉ〜?」


「親しいとそんな感想になるのかもしれませんね」


 とにかく、とアルは続ける。


「ローレルさんは、それだけで名声が高いのに加え、個人の武も今世一との噂があります。なんでも、単独で高難度ダンジョンを攻略したとか」


「ダンジョンを?」


「はい。知らないんですか? 水晶の迷宮って言うんですけど」


 水晶の迷宮を攻略、なんてものはゲームにはなかった。修正力の影響と断定、はこれまたできない。大侵攻を防いだ、という功績がない分、何か別の功績を立てたいと思うのは当然だからだ。


 むむぅ、判断が難しすぎる。


 どれも自然な成り行きなのだ。父が大侵攻で功績をあげた俺を元首候補から外すような、そんな無理やり感がない。


 修正力があるかないかは、これから起こるイベントを見ながら、そこに無理やり感があるかないか、それで判断するしかないか。


 なら、入学式や個人の情報はもういい。次は氷の茶会だ。それを観察しよう。


「ローレルさんも凄かったなあ! あ、次はフランですよ! フランはですねえ!」


「ああ、もういいや」


「レインさん、いつか殺されますよ?」

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