第2話
ナスルーラアカデミア。
それが学園の正式名称で、連邦の次代を担う人材を育成する学舎だ。
毎年、各国25名の合格者のみが入学を許されるこの学園は、人材育成の目的の他に、4国間の親睦交流を目的に建造されているため、全寮制となっている。
寮内外問わず警備は万全なため、男子寮と女子寮は分けられておらず、出身国の派閥ができないよう、4階立ての各階、国、学年、性別等、均等に振り分けられて個室が与えられる。
3学年、300人収容できるだけあって、寮は馬鹿でかい。個室が並ぶ居住区に、巨大な学食、浴場は個室ではなく温泉を引いた集団浴場もある。他にも遊戯施設、体育館、グラウンド、プールなどがあり、広い新都の一角は全てこの寮、学園に関係する施設になっている。
しかも学園は各国が資金を出し合っているため、寮費も学費もタダ。その分、試験も厳しかったが、この楽園のような学園生活を送れるとなれば、気にならない。
そして今日は入学前日の入寮日。これからの生活に心ときめかせて新たな一歩を踏み出す時。
……普通は。
「帰りたい……」
寮前に仮設された受付の前でキラキラ顔の学生たちに混ざって並んでいる中、俺は一人消え入るような声を吐いた。
ついに、ついに、学園に入学してしまった。
入学を決めてから一年。できることもないので、英気を養う、ということで引きこもり、ぬるま湯につかっていたせいで風邪をひいたように体調が悪い。
寮は広い。だが今までみたいに国レベルで離れているわけではなく、エンカウントの可能性は非常に高い。
今だって、物陰からシリル、ローレル、フラン、モユの受付が終わり、寮内に消えていくのを確認してから列に並ばなければ、確実にエンカウントしていただろう。
会いたくないなあ……。
とは思う。だが今はそれでもいいけれど、のちのことを考えるとそういうわけにはいかない。
まず俺に課せられたのは、ヒロインズの記憶の確認。
そこから、修正力の存在の有無の確認をしなければ、退学等が間に合わず、物語の流れに沿うよう濡れ衣を着せられることになる。
よって、危急に調べなければいけない問題だが、記憶があればあるで、命の危機と言って差し支えないので、二の足を踏む。
個人的には記憶がない方が色々と対策を立てやすいから、そっちでお願いしたいんだけど。
「えぇえええ!? ラーイさんだよね!?」
聞き覚えのある声に振り返る。
主人公のお出まし。修正力の働く人物。
俺は記憶があることを瞬時に理解した。
「久しぶり、アル」
「は、はい。うわぁ、元からだけど、すごく格好良くなってますね」
「そういうアルこそ格好よ……ではないな」
男の子というより女の子に近い、それも美少女に近い顔立ちは変わらず。グレーがかっている黒髪も、女性らしい丸みを帯びたふわっと柔らかそうなショートカットで以前と変わらず。心に絡んだ鎖が自然と綻ぶような雰囲気に、物語に出てくる主役のよう、と感じていたが事実その通りの主役の魅力も変わらず。
あえて違いを言うのなら、声は少し低くなったかな。あと長い睫毛と黒目大きな瞳に可愛らしさを感じていたが、今は大人っぽい雰囲気が少しあり、あどけなさが強い美人って感じ。
対面しているせいか、ゲームよりそんな感じがする。男にそんな印象を抱くのはどうかと思うけど。
「え、まあ、そりゃそうですよ。じゃなくて! どうしてここに!?」
「そりゃ入学するからだよ。あ、あと、俺の名前はラーイじゃないから」
「ええ!?」
「レイン・ミレニアだからよろしく」
「え、ええ!? レイン・ミレニアって、クウエストの王子で公爵の!?」
「あ、次俺の番だ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
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