エピローグ


 星が散々に煌く夜空に上るのは、美味しい肉から上がる煙。


 笑顔が溢れ、歓喜の声があちらこちらで聞こえる。


 しばらくの間、幸せでいっぱいの広場を遠巻きに眺めていたが、俺は背を向けた。


「いいのですか、このまま去っても?」


「成功は見届けたし、今後二度と会うことはないだろうしね」


「そうですか」


「それにまあ、ロレンツォもここに来るのに苦労しただろ?」


「ええ、一刻も早く帰らねばなりません」


「なら、帰ろう。俺も一刻も早く帰って、感謝を告げないとな」


「そうですね。皆も喜ぶでしょう」


 馬車に乗って王都を背にする。


 これで俺のすべきことは終わった。修正力からも逃れられた。


 あとは物語に関わらないようにすればいいだけだ。


 大きな歓声が上がって、振り向いた。


 空には大輪の花。どんどん、と打ち上げられるそれは、ゲームクリア、と祝福するようだった。









 ***













 氷の茶会。


 入学してすぐ、元首候補の四人が一堂に会するイベントだ。


 主義主張が異なるライバルのヒロインたちは、当然敵視しているため、刺々しい空気の中で茶会をする。


 それが氷の茶会というイベント。


 俺は中庭の茂みに隠れて、それを震えて眺めていた。


『貴方たちは、ラーイ、じゃなくてレインの何なの?』


『笑ってても、青筋隠しきれてないなぁ〜、そんな人に教えたら酷いことされそうだから、ボク言えないなぁ〜』


『モユさん、それは暗に仲が良いって自慢してるのかな?』


『ええ〜、シリルにはそう見えたかい? 仲が良いって見えたかい?』


『相変わらず、嫌なやつだな』


『何が相変わらずなのかわかんないよ、ローレルさん。ま、ボクとレイン君は、そういうことだから、変なこと考えないほうがいいよ』


『そんなっ……う、うぅ。私はきしゅまでしたのにっ』


『は? シリルさん、ボクにもう一度、言ってみて?』


『そ、そんにゃの言えるわけにゃいだろ!』


『え、ちょ、ほんとう? 他の二人は……』


『……』


『近いことは』


『う、嘘。散々からかったボクが、このからかい好きな性格のボクが、一番遅れていて、一番うぶで、一番生娘? ……う、うぅ、ひぐぅ』


 何だ、何を話しているんだ、全く聞こえないけど震えが止まらない。


「ラ……じゃなくてレインさん、どうして僕まで盗み見させるんですか?」


 呆れたようなアルに答える。


「いざというときの盾だ」


「よくわからないし酷い……けど、フランの様子見てたら仕方ないか。なんか約束を無視したとかどうので、カチ切れてましたし」


 ぶるり、と震え、顔から血の気が引いていくのを感じる。


『お兄様は私のだ』


『いや、私のだから』


『何言ってるんだい? ボクから取れるとでも?』


『レイン君は諦めないから』


 空気がより剣呑となる。これ以上4人を視界に留め続けては『ふぇえ、女の子怖い、しょわあ……』と精神に限界を迎えそうなので、こっそり立ち去ることにする。


「アル、一生のお願い。俺が去るまで残って、バレたら出て行って気を引いて」


「ええ……。はあ、わかりましたよ」


「ありがとう! 持つべきは男友達だ!」


 俺はアルに心の中で土下座をして、その場から去った。




 ***



 ありがとう! 持つべきは男友達だ!


 ……か。


 レインさんに一人残された僕は、自分の身体を見下ろす。


 まあたしかに、男子制服を着てるし、声も低めだし、凹凸も小さいけど。


「僕、女の子なんだけどなぁ……」


 そんな呟きは誰にも届かなかった。



 ————————————————————————————————————


 ということで、一部終わりです。


 次の更新は恐らく、一週間後〜になります。

 その間、二部のプロットを立て、急いで書いて雑になった分の修正をしていると思います。


 一部の感想は、近況ノートにくだされば返信いたします。


 また、更新再開までの時間に、他作を読んでくだされば嬉しいです。特に、こえけん応募作はすぐに完結予定なので、是非お読みください。


 よろしければ今後も本作をお願いいたします。


 あと、アマギフ欲しさにtwitter登録しましたので、フォローもらえればフォロバします。更新予告とかもすると思います。


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