第12話


 イカれたメンバーを紹介するぜ!


「私みたいなものが、本当に本当に恐れ多いのですが、先祖代々務めていたもので、一応町長を務めております、ロンと申します」


 図体はでかいくせに過度の謙虚人間、町長のロン!


「昔は手のつけられない荒れた人間でしたが、今は、丸くなって、落ち着いてまあ、商人組合の長をさせてもらってます、ポンドと申します」


 商人組合の長、昔悪かった自慢のポンド!


「いやぁ〜、さーせん。街で遊んでたら遅れましたぁ〜。一応、警備とかそういう感じのやってるチークで〜す」


 遊び人、警備隊長チーク!


「あんの腐れ代官の代わりが、こ、こんな可愛い男の子……ハァ、ハァ、うへへ」


 綺麗な年齢的にギリお姉さん、裁判、徴税、政務担当、代官補佐でショタコンのカレン!


「……大丈夫でしょうか?」


 領主館の一室。円卓についた人の挨拶が終わると、ロレンツォ将軍に耳打ちされた。


「うん? ロレンツォ将軍、わざわざ耳打ちをしてきてどうしたんだ?」


 声を潜めてそう言うと、恐る恐ると言った様子で、ロレンツォ将軍は口を開いた。


「その、何と言いますか、まともな方がおられないようで」


「ククッ。何を言っているんだ、それがいいんじゃないか!」


 俺は、バン、と机に手をついて立ち上がった。


「貴方たちは素晴らしい! この領の宝だ! 俺は君たちと仕事ができることを、心の底から嬉しく思う!」


 そう言うと、カレン以外は目を丸くした。彼女だけは、「そ、そんなお言葉をいただけるなんて……」と頬を赤らめていた。


「まずは自己紹介をさせてもらう。俺の名はレイン・クウエスト。この国の元王子で現公爵だ。未だ幼い故、侮られて当然だと思うが、できれば領主として接してほしい。が、畏れ、というわけではない、むしろ気軽に接してくれ」


「わかりました! レイン様! 抱きついてもいいですか!?」


「後でならばいいですよ、カレンさん」


「な、名前を、しかも許可も……ぶひぃ」


 ショタコンから目を離すように、他の人に目を向ける。


 それなりの挨拶に、見直す、というよりは戸惑ってる感じだな。子供だと思ってた分、得体の知れない気味の悪さ、みたいなもんがあるのかも。まあ不満は感じてないようだし、これで何を言っても子供の戯言と流されないだろうから、よしとしよう。


「そして、この人はロレンツォ将軍。俺の後見人だ」


「ご紹介に預かりました。ロレンツォです」


 この人が、って感じの顔してる。まあ経歴が経歴だから、知ってない方がおかしいくらいだ。


「さて。自己紹介も済んだところで、早速、今後の会議を開きたいと思う」


 まず、町長に目を向ける。


「町長。資料を読んだが、ここミレニア。空き家が多いそうだな?」


「は、はい。昔から衰退し続けているので、その分人も減り、空き家は少なくないです」


「その空き家、全部なくす。具体的には、川と街道が交差する橋、そこを中心に四区画とする。そして、大通りに面した商家を除き、再開発のため、一区画を全て取り壊す。町長には、取り壊す区画の住民の移転を頼む」


「は、はいいい!?」


「何か問題がありますか? 資料通りなら、一区画の住民全てが空いた家に移転しても、まだ空き家はあまりあるでしょう?」


「そ、それはそうですが」


 町長が戸惑うのも仕方ない。とんでもないことを言っている自覚はある。だけど、空き家なんてもん、ほっといてもいいことはない。それに、公爵領には、資源等々何もないから、金になる何かをつくらないといけないんだ。


「住民からの反発など諸々、問題があることはわかっています。けれど、安心してください、町長。公爵家の今ある金全てを補償にあてるつもりです」


「……ですが、それでも、心情的に」


「そこは町長に任せます。貴方は謙虚な性格から、人々に慕われている。貴方の話なら、きっと聞いてもらえる」


「私なんかが、そんなことを」


「貴方にしかできないんだ。この町が過去の栄華を取り戻すためには、貴方の力が必要なんだ」


「……わ、わかりました! やってみましょう!」


 この言葉、自信のない人間に一番効くなあ。まあ、嘘じゃないし、いいだろう。


「次にポンドさん。貴方には、組合の長として商人全ての伝手を使い、この町の宣伝をしてもらいます」


「それはいいけど、何の宣伝だ?」


「何でもいいです」


「はあ?」


「なんかすげえことやるとか、今この町に来た方がいい、居を構えた方がいい、出資した方がいい、とか、兎に角、人を集めるための噂を流してください」


「う、嘘を流せと!?」


「はい」


 再開発するにも、商業を活性化するにも、何をするにも、人が必要だ。人は集まれば集まるほど、良くも悪くも金の匂いが濃くなる。人さえ集まっていれば、商人は勝手に集まってくれるし、産業も発展する。


 だから嘘で無理やりに人を集める。


「俺は王子。ロレンツォ将軍はこの国を代表する人物。要人二人が送られた公爵領に何もないはずがない。世間がそう思っているところに、噂を流して人を集める程度のこと、商人組合の長たる貴方ならば、できないことはないでしょう」


 真相はまだ民衆には広まっていない。ローレルが功績を立て、それを王家が喧伝した際に、発覚するだろう。


 だから、そのタイムラグを利用してやるのだ。


「え、私の名も使うのですか!?」


「何を言っているのですか、将軍。あなたの名、どころか、貴方には持てるパイプ全てを使って、噂を流してもらいますよ」


「え、ええ……」


 不満気にしているが、気にしないことにしよう。一方、ポンドは、と渋い顔をしているな。仕方ない。


「まだ自信がありませんか? ではこれでどうです?」


 俺は足元に置いていた袋から、大きな水晶を取り出した。


「こ、これは?」


 これは水晶の幽騎士のフロアにある、水晶だった。

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