第38話
工事現場から出ると満月が出ていた。
周囲に外灯がなくても十分に周りを確認することができた。
光平はゆっくりと歩いて人影を探す。
物音は少しもしない。
しかし足元は砂利がしかれているので、ここから逃げていたとずれば足音が聞こえているはずだ。
つまり、相手はまだこの工事現場にいる。
さっき聞こえてきたあの音は間違いなくカメラのシャッター音だった。
夜中にこんな場所を撮影しに来るのはオカルトマニアくらいなものだろう。
だけど光平の脳裏には全く別の人物の顔が浮かんできていた。
それは仮面を拾った恵一だった。
恵一の持つ能力は盗撮、つまり、カメラだ。
そして恵一はリナの隠し撮りをしていた。
リナはクルミの家に盗みに入っているから、あの放火が起こったときに恵一がリナを追いかけて、あの場所にいた可能性があるのだ。
そう考えて恵一は思わずフフッと笑みを浮かべた。
まさか、仮面を拾った人間がこの場所に集合するとは思わなかった。
「出ておいでよ、南部恵一くん」
暗闇の中声をかけると工事現場の横から物音が聞こえた。
素早い身のこなしでそちらへ向かうと、デジタルカメラを握り締めた恵一がその場にうずくまっていた。
地面には白い仮面が落ちている。
光平がそれを手に取ると、恵一が慌てたように立ち上がった。
「そ、それは……っ!」
「知ってる。俺だってつけてるんだから」
光平は自分の顔を指差して答えた。
そのときようやく恵一は相手の顔をマジマジと見つめた。
悲鳴を上げそうになった恵一の首を光平が掴む。
喉をグッと抑えると悲鳴は掻き消えていった。
「俺のこと覚えてる? 同じクラスの立石だよ」
そう行って手を離したが、恵一は口をパクパクさせるだけで声を上げなかった。
どうやら上手に声帯をつぶすことができたみたいだ。
「君は仮面は盗撮だっけ?」
質問すると恵一は目を見開いた。
どうして知っているのだと質問してきているが、わざわざ教えてやるつもりはなかった。
光平はそっと恵一の耳に自分の顔を近づけた。
そしてささやく。
「知ってる? 俺の仮面はね……殺人の仮面なんだよ」
光平の笑い声が、恵一の耳元にいつまでも聞こえてきていたのだった。
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