第32話 殺人の仮面

薄暗いコンクリートの部屋の中、一台のテレビがついていてその明かりだけで室内は照らし出されていた。



『昨夜の火事で四条家グループの四条正孝さんと四条直美さんの遺体が発見されました。また、同じ敷地内からもう1人の遺体が発見されており、こちらは長沢リナさん17歳だと判明しました』



ニュース番組がクルミの家のニュースを垂れ流す。



クルミはそれを見て、勝手口で見かけた人物がリナであると気がついた。



でもどうしてリナがあそこにいたのか、どうやって室内に入り込んだのかはわからないままだ。



本人に直接聞きたかったが、リナはすでに死んでしまった。



「長沢さんは、泥棒に入ったみたいだね」



静かな声が聞こえてきてクルミは体をビクリとはねさせた。



すぐにでも逃げ出したい衝動に狩られたけれど、体はロープで拘束されていて少しも動くことができなかった。



口もガムテープでふさがれていて、出てくる声はうめき声だけになっている。



「南部恵一くんは盗撮の仮面、アイドルだった長沢さんを撮影するため。長沢リナさんは泥棒の仮面、家が貧しかったから。四条クルミさんは放火の仮面、自由になりたかったから。知ってる? 仮面はひとつじゃなかったんだよ」



クルミを拘束した男は楽しげな口調で説明する。



クルミはその顔に見覚えがあった。



2年生にあがって最初の一週間だけ学校に来ていた立石光平という名前のクラスメートだ。



随分長く休んでいるからとっくに学校をやめているのだと思っていた。



だけどこうしてクルミの目の前に現れ、あの仮面についても知っているということは、まだ学校にいたのかもしれない。



保健室登校などをしていたとすれば、クルミが知らなくても仕方ないことだった。



「長沢さんは四条さんの家に盗みに入って、そのまま焼け死んだんだね」



光平はクルミの前にしゃがみこんでそう言った。



クルミは大きく目を見開く。



闇の中で見た白い肌は光平のものではなく、光平の仮面の表面だったということに思い至ったのだ。



光平が言うように仮面はひとつではなかった。



そして、光平も仮面の所有者なのだ。



では、光平は一体なんの犯罪者になりたいのか……。



「さて、そろそろ始めようかな」



光平はそう呟くと、後ろ手に持っていた仮面を顔につけたのだった。

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