第9話
自分には盗撮の才能がある。
この仮面さえあればほしい写真がすべて手に入る。
そう思うと興奮してなかなか眠ることができなかった。
何度も寝返りを打ち、薄目を開けて机の上に置いてある仮面に視線を向ける。
次に視線は壁に貼り付けられているリナのポスターへと移動した。
「リナ……。僕のリナ」
ぶつぶつと呟いている内に眠気が襲ってきて、恵一はようやく眠りについたのだった。
☆☆☆
「じゃあ、仕事に行ってくるから。なにかあったらすぐに連絡するのよ?」
「わかってる」
恵一は布団を頭までかぶって母親に返事をした。
今日は体調が優れないので学校を休むことにしたのだ。
そう伝えたときの両親の顔は蒼白で、すぐにでもかかりつけの病院へ電話しそうな勢いだった。
恵一はどうにかそれを止めて、1人で大丈夫だと説得した。
母親はパートを休もうとしていたが、それも断った。
出勤時間ギリギリまで渋っていた母親をどうにか送り出した恵一は大きく息を吐き出して、布団から顔を出した。
ベッドの中から母親の車が遠ざかっていく音を聞いた恵一はゆっくりと起き出した。
体調が悪いというのは嘘だった。
そういえば自分の両親ならすぐに学校を休ませてくれるとわかっていたからだ。
多少の申し訳なさを感じるが、それでも期待のほうが大きかった。
恵一はクローゼットを開けると昨日盗撮したときと同じ服を取り出し、それを自分の意思で身に着けた。
どんな犯罪でも地味で目立たない服のほうがいいに決まっている。
次に家の鍵とデジタルカメラをズボンのポケットに入れる。
スマホやサイフが使うつもりがないのでそのまま置いていく。
準備が終わった頃にはちょうどいい時間になっていたので、恵一は私服姿のまま学校へと向かったのだった。
☆☆☆
自分の通っている学校に侵入するのは簡単だった。
生徒用の入り口は遅刻してきた生徒のために開放されているし、来客用の入り口から入ることもできる。
遅刻した生徒は学校内に入ることができないなんてシステムにはなっていなかった。
恵一はただ先生たちの目をかいくぐって男子トイレまで隠れればいい。
そしてそこまで到達すると、個室に入って持ってきた仮面をつけるのだ。
そこまでできれば恵一はもうなにも心配する必要がなかった。
恵一が学校に到着したのはちょうど1時間目の授業が始まったときだった。
まだあと40分は誰も教室から出てこない。
堂々と正門から学校内へ入った恵一は、昇降口の一番近くにある男子トイレに侵入することに成功した。
毎日通っている学校なのに、こうして侵入するとまた違う景色に見えてくるから不思議だった。
個室に入った恵一は深呼吸をして仮面を取り出した。
相変わらず真っ白で無表情な仮面。
だけどこの仮面をつけると自分は最強になれる。
どんなリナの姿だって、誰にもバレずに自分のものにすることができるのだ。
自分の言葉も行動も奪われた機能の恐怖はいつの間にか消え去り、恵一の中には大きな期待だけが鎮座していた。
その期待は誰がどう押しのけようとしても、簡単にはいなくなってくれそうにない。
恵一は期待に身を任せ、仮面を自分の顔にはめたのだった。
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