第4話
手元には恵一が購入した彼女たちのグッズのプロマイド写真がある。
「えっ!?」
恵一は端で掴んでいた卵焼きを危うく落としてしまいそうになった。
目を丸くして母親を見つめる。
「同じクラスに大田君っていう男の子がいるでしょう? そのお母さんに聞いたことがあるわ」
恵一はキックボクシングをしている大田の姿を脳裏に思い浮かべた。
同じクラスだけれど1度も会話したことはない。
いつの間に母親同士がそこまで仲良くなったのか疑問だった、それよりも問題は他にあった。
「長沢リナが同じ高校って本当!?」
恵一は身を乗り出して聞く。
「えぇ。大田さんとこの子供と幼馴染なんですって。可愛くて、清楚系な子ね」
リナの写真を見ていて母親が言う。
大田の幼馴染!
まさかの展開だった。
あのがさつそうな大田とリナが幼馴染。
しかもリナは同じ高校に通っている。
情報量が多すぎて恵一の頭はパンクしそうだ。
「なんだ、同じ学校なのに知らなかったのか」
父親に聞かれて恵一はうなだれるようにしてうなづいた。
学校へ行っても友達らしい友達はいない。
情報源はどこにもないのだ。
リナがそんなに近くにいたと知って下唇をかみ締めた。
もっと早くしていれば、リナに近づくことができたかもしれない。
いや、今からでも遅くはないかもしれない。
なにせ恵一とリナは同い年だ。
学校生活はまだ2年以上残っている。
途端に恵一の目が輝き始めた。
可能性はまだある。
高校3年間で必ずリナと仲良くなる。
その時から恵一はリナの一番のファンになったのだった。
☆☆☆
2年生にあがってからリナと同じB組になれたことは本当に奇跡だと感じた。
何度も話しかけようとしたし、イベントも見に行った。
だけどリナと恵一との関係は縮まることなく、今もこうしてこそこそと盗撮を続けている。
それなのに……。
恵一は右斜め前の大田の後頭部をにらみつけた。
まさかこいつまで同じクラスになるとは思っていなかった。
しかも恵一が見る限り大田さんはリナのことが好きだ。
だからこそさっきみたいに大田には盗撮がバレてしまいそうになったりする。
あいつは要注意人物だ。
「ねぇ、この学校の噂って知ってる?」
後ろの席からそんな声が聞こえてきて恵一は我に返った。
気がつくとすでにホームルームは終わっていて、休憩時間に入っている。
振り向くと女子生徒が3人固まって騒いでいた。
「噂ってどんな?」
「誰と誰が付き合ってるとか、そういうやつ?」
「そういうんじゃないよ。どっちかと言えば学校の七不思議みたいな話」
そう言われて他の2人は一瞬黙り込む。
そして同時に笑い声をあげていた。
「七不思議って小学校とかにあるやつでしょう?」
「どこの学校にでもあるんだよ。この学校にも」
「なによその七不思議って」
2人は笑いながらも、話を聞く体勢に入っている。
恵一はなにげなくその噂話に耳を傾けた。
「どんな犯罪でも、プロ級にこなせるようになる仮面があるって話」
それは恵一の想像も、そして聞いていた女子2人の想像も優に超えていくものだった。
さっきまで聞こえてきていた笑い声はパタリとやんで変わりに困惑している空気が恵一にまで伝わってきた。
「その仮面はね放課後の屋上に突如出現するんだって。でも必ずってわけじゃない。仮面を必要としている人の前にだけ現れるの」
「な、なにそれ。プロ級の犯罪者になれるってこと?」
「まぁ、そういうことだよね。ね、面白いでしょう?」
「そうだね。普通の七不思議とは随分違うけど、面白いかな。でも屋上の鍵は閉められてるはずだから、誰も出られないよ。やっぱり噂は噂だね」
これでこの話は終わりとばかりに手が叩かれる。
それに伴って彼女たちの話題は切り替わっていった。
けれど恵一の頭の中にはプロ級の犯罪者になれるという仮面のことで頭が一杯になっていたのだった。
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