第8話 街中の露天風呂

   ◆



 脱衣所で汗をかいた後、俺らは揃って風呂場に入っていった。

 どうやら露天風呂だけじゃなく、内風呂やサウナまであるらしい。しかも檜風呂だ。いい香りが浴室内に充満している。



「おおっ、広いな!」

「初瀬くん。お風呂好きなんですか?」

「ああ。風呂はいいよな。心が洗われる気がするし」



 風呂は心の洗濯とはよく言ったものだ。

 体の力を抜いて、頭を空っぽにして、じっくり浸かる。それだけで日々の心労が癒される気がする。

 流石に家で入ると、水道代とかガス代とかが馬鹿にならないから、中々入る機会はないが。

 それにサウナも好きだ。いわゆる整うって感覚を一度覚えると、癖になる。

 端的に言って、風呂が好きってことだ。

 ただ、まあ……こんな美少女と一緒に風呂って経験はほとんどないから、ソワソワはするけどな。



「初瀬くん、どうしました?」

「い、いや、なんでもない」



 雪守から視線を逸らし、頬をかく。

 クラスメイトと一緒に風呂という非日常的なシチュエーションに、色々と爆発しそうだ。



「変な初瀬くん……ま、いいです。先に体を洗いましょうか。背中流してあげますよ」

「ありがとう」



 椅子に座ると、雪守が俺の後ろに立つ。

 体をシャワーで濡らしている間、雪守がボディーソープを泡立てている。

 鏡で雪守の姿が見える。誰かに背中を洗われるのは初めてだ。ちょっと緊張するな。



「それじゃ、洗っていきますね」

「お、お願いします」



 背中に泡を乗せられ、雪守の手で優しく洗われる。

 繊細なボディータッチと手の柔らかさ。それに美少女が甲斐甲斐しく俺の体を洗っている現状に、俺の中の欲望が首をもたげてきた。

 ばかやろう、何興奮してんだ俺はっ。俺は雪守に雇われている身。雪守が求めてきたら応えるが、俺から求めるのはダメだ。

 落ち着け俺。心頭滅却すれば火もまた涼しだ。



「よいしょっと」

「ちょっ!?」



 むにゅぅっ……。

 こ、この背中の感覚、まさかっ。

 俺の首に雪守の腕が回される。そして背中で形をむにむに変えるこれは、間違いなく雪守のお胸様様の感触だ。



「これ、一度やってみたかったんですよね。よいしょっ、よいしょっ」

「ぅぉっ……!?」



 な、何だこの感覚っ。こそばゆいというか、ゾワゾワするっ……!

 背中から伝わるお胸様の感覚が、全身を痺れさせてるみたいだっ。脳がとろけそう……!

 ゆっくり上下左右、更には円を描くようにこねくり回される。

 その度に俺の体がぴくぴく反応してしまい、自分ではコントロール出来ない。

 性感帯を触ってもないのに、この気持ちよさ。頭がおかしくなりそうだ。



「ふふ。初瀬くん、背中弱いんですね。弱点発見です」

「じゃ、弱点とか言うなっ」

「いつも私ばかり攻められてましたからね。今日は私が攻めまくります」

「日頃の恨みか」

「ここで会ったが百年目、です」

「それは違う。ひっ……!?」



 み、耳っ、耳舐め……!?

 逃げられないように腕でがっちり固定され、ゆっくり舐められる。

 なんつー舐め方すんだ、こいつっ。というかこんなこと、どこで覚えた!



「むぅ……初瀬くん、反応可愛すぎです」

「か、からかうな。可愛いって言われて喜ぶ男はいない」

「でも初瀬くんのここは凄く喜んでますよ」

「それは可愛いって言われたからじゃなくて……っ」

「ふふ。つまり私に攻められて喜んでるってことですよね?」



 しまった、墓穴掘った。

 いや、別に俺はマゾって訳じゃない。美少女に密着されて背中や耳を攻められたら、誰だってこうなるだろ。

 雪守は嬉しそうに全身を洗ってくる。が、大事な場所は決して触らない。なんか焦らされてるみたいだ。



「はい、洗い終えましたよ。お湯に浸かりましょうか」

「お、おう……」



 な、なんか疲れた。それに俺の中で欲望がぐつぐつ煮えたぎっている気がする。猿か、俺は。

 ……いやまあ、普通に猿か。毎週寝る間も惜しんでるし。

 泡を流して俺と雪守は露天風呂へと向かう。

 そこには、目を見張るような絶景が広がっていた。

 煌びやかに光る街並みを一望出来る。正に百万ドルの夜景と言っていい。



「凄いな、これは……」

「でしょ? 私、ここのお風呂が一番好きです。なんな解放された気分になって」

「わかる」



 確かにこれは凄い。枷が外れて自由になるような、そんな感じだ。



「あと、こんな街のど真ん中で全裸になるの、気持ちいいです」

「まさか雪守、そっちの性癖が……?」

「ち、違います! こういう非日常が好きってだけで、日頃からって訳じゃないですから!」



 そ、そうか、よかった。雪守にそういう性癖があって、もしかしたら今後付き合わされるのかと思った。

 そっと息を吐き、湯船に浸かる。

 じんわりと疲れが湯に溶けでる感覚……いいな、やっぱり。



「ふいぃ〜……」

「初瀬くん、おじいちゃんみたいです」

「この感覚を味わったら、こうもなるさ。雪守ももっと肩の力を抜けば、湯に浸かるだけでストレスが緩和されるんじゃないか?」

「あはは。それ、やってないとでも?」

「……だよな」



 入浴、マッサージ、瞑想、運動。色々とやってきたらしいが、それだけで緩和出来るほど、雪守の人間という立場は甘くないらしい。

 一般人には想像もつかない重圧と期待。

 そのせいで「あれをしたい」「これをしたい」「もっとしたい」という欲望となっている。



「やっぱり大変だな、雪守は」

「悪くはないですよ、雪守を生きるのは」

「いつか壊れたらどうすんだよ」

「壊れないですよ。あなたがいる限り」



 隣に座っていた雪守は立ち上がると、俺を跨いで座ってきた。

 準備万端という顔だ。まさかこのまま?



「風呂が汚れるだろ。ホテルに迷惑じゃ……」

「大丈夫です。雪守の名は伊達じゃありませんから。そんなことは考えず、初瀬くんは私の愛欲を満たしてくれたらいいのです」

「……声、抑えろよ」

「無理ですね。私たち相性良すぎて、我慢なんて出来ません」



 こいつめ。わかってるだけにタチが悪い。

 俺はそっとため息をつくと、雪守の腰へ手を回した。

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