Which to sprinkle today?

暗黒騎士ハイダークネス

Rice for Love


 6人での学園生活は唐突に終わりを告げた。


 ある日の放課後に4人の友達から同時に告白を受けた。


 1人の親友と喧嘩した。


 『6人いつも一緒』なんて理想は、こんな現実の前では脆く崩れ去った。


 俺の心がぐちゃぐちゃになって、どうしたらいいのかなんてわかんなくて、未だ答えが出せないままでいる。






 まぶしい光が瞼を照らす。


「うぅ・・・まぶしい・・・あと5分」


 いつも通りに母さんが布団を剥いで、起こしに来た。


「もーう、ライス君はいつもだらしないんだから!シャキッとして!」


 いつも通りの朝のはずだった。

 母さんが起こしに来るはずが聞こえてくるのは若い幼馴染の声。


「へ!?」


 驚いた俺は飛び起きた。


「きゃ!」


「ななな、なんで!?」


 飛び起きた先にいたのはやはり・・・幼馴染、、、いや、なんで!?


「もう昨日からお義母さんたちは旅行に行ってくるって、ライス君を起こすように頼まれちゃったんだよ。まぁ、これっていわゆる幼馴染による権利なんだよ。だから、約束破りじゃないよ~」


「あー-」


 記憶を掘り返してみると、たしか懸賞で当たった?温泉旅行だっけ、、か?

1週間くらい前にそんな感じのことを言っていたようななかったような?


「ん?まだ何か聞きたいことがあるの?」


 幼馴染のほうをガン見しているとそう問いかけられた。


「着替えるから出てけ!!!」




 リビングに降りたら、机の上には、レンジでチンのご飯に、肉じゃがに、インスタント味噌汁とふりかけ。


「勝手に人様のお台所で料理するわけいかないじゃない。

まだ結婚してないんだし、だけど、アピールはしたい!だから昨日のうちに私が作った肉じゃがです~」


 いや、母さんなら文句言わずに、俺になにやれあれやれとか、言ってきそうだけどな。


「・・・おいしい」


 よく味がしみた肉じゃがはおいしかった。


「ごちそうさまでした」


「お粗末様です。よ~し、洗い物しとこ」


「いいわ、そのぐらい俺がやるよ、食べさせてもらったし」


「じゃあ、一緒にやろ!」


「狭いわ!」


「いいのいいの、夫婦の共同作業だよ」


「夫婦じゃねぇよ」


「私を選んでくれたら、確定的な未来だよ」


 その言葉に何も言えなくなってしまう。


「・・・ごめん」


「いいんだよ、ライス君のそういう優柔不断なとこ好きだよ」


「それ欠点じゃん」


「違うよ。みんながみんな傷つかないように、答えが出せなくなって、今も辛そうにしてる。だから、私たちのほうこそ、ライス君に負担をかけてごめん」


「・・・」


「でも、諦めないから。あの子たちを振っても付き合いたいって言わせるくらいのいい女になるからね」


「・・・」


「じゃあ、先に学校行ってるね」




「・・・どうすりゃいいんだよ」


 誰もいなくなった部屋で1人うずくまる。






「おはよー」


 返事は帰ってこない。

 男子からは4大美人から告白を受けたうらやまクソ野郎と。

 女子からは未だに4人の関係を曖昧にしているクズ野郎と。


 きっと、そう思われてるんだろうな。


 4時限授業が終わっての昼飯。教室から逃げるように非常階段の隅で昼飯を食べる。


 6人が一緒だったときは楽しく中庭で食べてたんだよな。


「はぁ~」


「どうしたんだい?後輩君、浮かない顔をして」


「へ!?」


「したばっかりを向いていたら、私の綺麗な顔が見れないでしょ」


 突然目の前に4人のうちの1人、かおり先輩がやってきた。


「ゆかりちゃんから聞いたよ~今朝の肉じゃがを褒められたって、だから、ちょっと抜け駆けをした罰で、私たち3人が個別でお邪魔するよ」


「いや、」


「後輩君に拒否権なんてものはないで~す。美人4人からの告白を保留してる罰です。

 大丈夫、そこで答えを出せなんて言わないから、私たちが勝手にやってきて、久しぶりに2人っきりで話したいだけ。

 今はちょっと、いろいろ私たち以外が牽制しあってて、後輩君とあまりお話しできてないって、したいな~寂しいな~ってだけだから」


「いい、けど・・・」


 他愛のない話が続く。

 あのあとから、気まずくなって逃げていて、こんなに普通に会話することなんてなかった、、できなかった。

 またあの頃みたいに・・・。


「なら、よかった。

 あとそれと、もっと後輩君は自分に自信を持っていいと思うよ。でも、これだけは言っておくね。

 もうあの頃には戻れないんだ。私たちの時間は進みだしたんだよ。

 後輩君の優しさは美徳だよ。でも、恋愛じゃダメ、それは後輩君が今考えていることは優しいんじゃないんだよ。

 曖昧なままが一番ダメ、後輩君も私たちもずっとずっと深く傷ついちゃう・・・曖昧なままずっと放置されてたら、私何かしちゃうかも」


 考えを見透かされたかのように先輩は否定の言葉を口にする。


「そっか、ごめん、、、何もしないよね?」


「まだ何もしないよ~でも、いつかはちゃんとはっきりしてよね・・・ううん、違うね。君ならはっきりできるよ。後輩君、またね~」


 それは優しさじゃないか・・・。






放課後に屋上までやってこいとメールが送られてきた。



「ふぅー--はっきり宣言しとくわね。

 ライス、私があいつよりあんたがいいの!

 あんたのどうしようもないくらいの優しいところが好き。

 あんたの自分が傷ついても、憎まれ役をやる健気さが好き。

 あんたのちょっと抜けてるとこが好き。

 あんたの優しい目も、ちょっと逞しい身体も、子供っぽい甘口しか受け付けない味覚も、ぜん~ぶぜん~~~ぶ含めて大好き!!

 それと!あんたにフラれたからって、あいつとの関係も元には戻さない!以上!」


「あ、あぁ」


 俺が来るなり、襟をつかみ、強制的に目を合わせられる。


「私はあんたが好き!それじゃ!」


 ずっと目と目を合わせてそう宣言された後、にっこりと笑って、彼女は出て行った。

 言いたいだけ言って、出ていきやがったぞあいつ。

 ・・・もう元には戻れないか。

 そりゃ・・・そうだよな。





 帰り道、隣には最後の1人が横を歩いている。


「えへへ、帰り道は私の独占です」


「・・・」


「せんぱい~えへへ、先輩はわたし~のことをちゃ~んと思って悩んでくれてるのって~ことはわかって~ます」


「ゆかり先輩や、かおり先輩、あかりちゃんより、私は~先輩と出会ってからが短いと思います~でも、好きって、愛しているって気持ちは3人にも負けな~いです」


「フラれたとしても、先輩を~恨みませんよ~

 私は焦がれるような恋を知ってます~

 私は友達と争っても、手に入れたい恋を知ってます~

 でも、4人が同じ人を好きってことは誰かしか先輩を手に入れられないってことです~

 だから、先輩にわたし~はこう言いたいのです~

 先輩がフってできるその痛みはぜんぶぜ~んぶ私たちの傷です。

 ほかの誰でもない私たちの傷なんです。ほかの人が、ましてや、先輩が背負うなんて言って、背負っていい傷なんかじゃないんです。

 私たちはあの4人で告白した時から傷つける覚悟も自分が傷つかれる覚悟もしてるんです」


 だんだんと眠そうな目の奥が鋭くなって、いつもの緩い口調の彼女ではなくなってきている。


「女の子をか弱い存在だなんて、舐めないでくださいね~」


「だから、先輩、改めて言います。大好きです」


「わたし~はこっちなので、それじゃ~また明日~」


 分かれ道を行く彼女の後姿を見ながら、なにも言葉が出せないままでいる。





 家に帰っても、暗いまま。


 母さんたちもいないし、冷凍食品でも食べようか・・・な。


 そんなときに男友達からメールが届いた。



 あいつから愛想尽かされても仕方ねぇくらいバカだったよ

 喧嘩しても、お前がそばにいてくれて、そのおかげか、俺やっと気づけたんだ。

 大事なもんがすぐそこにあるって

 だからさ・・ありがとな、ライス


「・・・かつお」


 ただあいつら4人よりも、お前のほうが気楽だった。

 だから、喧嘩していても、殴られても、お前のほうが何も傷つけないで済むとお前に逃げていただけだ。

 そんな卑怯者に・・・『ありがとう』なんて送るなよ。





 もう食う気も起きず、一食くらい抜いても平気か、なんて考えていたころに玄関のドアが開いた。


・・・ゆか、いや、ちょっと待て、玄関には鍵をかけたよな?え?・・・まさかピッキング?強盗?

 いや、それよりも誰が玄関から入ってきたか、確認しなければいけないと立ち上がろうとすると、リビングのドアが開かれた。


「なんだ思いのほか、よさそうな顔になってるじゃねぇか、、いや、悪くなってるか?」


「ひろし叔父さん」


 ドアから現れたのは、母さんの弟のひろし叔父さんだった。


「よぉ~姉ちゃんからお前のことを雑に頼まれた、ひろし叔父さんだ」


「あー頼まれたって?なにを」


 記憶にある限りだと、料理が壊滅的に苦手だと、正月の酒の席で毎回言っているのを覚えている。


「まぁ・・・なんだ、姉貴からライスが元気ねぇから、世間話でもしにいけって・・まぁ、なんだ、外に寿司でも食いに行くか?出前でもいいぞ、それとも焼肉か?」


 自分で料理をするなんて選択肢を端から捨てた言葉の貫禄。


「なんで叔父さんが・・・?」


「なんだろうな・・・ほら、毎日顔合わせる家族よりも、なんか時々しか会わねぇ俺みたいな他人じゃないけど、近くもない、そんな都合のいい相談役だよ」


「ふふっ、自分で相談役なんて言うんだ」


「やっと笑った、暗いよりましだな、よ~し、腹減ったから食いに行くか」


「あ、ちょっと、そんな高くないとこでいいよ」


「大丈夫大丈夫、半分はお前のかあさん持ちだ、選び放題だ遠慮なんかするなよ」


 叔父さんと食事をして、悩みなんかを全部ではないけど、少しは打ち明けられて、心が軽くなった。



 きちんと自分の気持ちを相手にはっきり伝えよう。

 メールでも、電話でも・・・ちょっと面と向かって言うには、まだ自分には覚悟がないけど、それでも、勇気を出して選ぶんだ。

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