B面で恋をして

コウキシャウト

第1話「はじまり」

B面、今ならカップリングと言えば分かり易いかな。それぞれシングルレコード、シングルCDの1番の売りがA面なら、B面は言わばおまけ的な曲ってわけ。でも意外と侮れなくて、ガロ「学生街の喫茶店」、欧陽菲菲「ラヴ・イズ・オーヴァー」、松田聖子「SWEET MEMORIES」といったヒット曲は元々B面だった曲。洋楽で言えばビートルズの「イエスタデイ」なんかは日本ではB面として発売されたし、エルトン・ジョン「ユア・ソング」もB面だった。実はB面がA面候補だった・・という話もよく聞くし、表裏一体とも言えるね。さて、今回はB面にまつわるちょっとした話だ。


僕、柴山雅人は、若き音楽評論家・・と言えば大袈裟だけど、それに近い存在として主に昭和歌謡をメインにSNSや雑誌、テレビやラジオ等を中心に活動している。今日はラジオ局K-WAVEの生放送の特番「あなたが選ぶ思い出の一曲」のゲストの一人として呼ばれており、様々な著名な方やメッセージが来る中時刻は夜19時半、遂に自分のターンが回ってきたわけだ。


「さて時刻は19時30分を回りました。次のゲストは若き音楽評論家として活動している柴山雅人さんを迎え、柴山さんの思い出の一曲について伺っていこうと思います!本日は宜しくお願い致します」


K-WAVEの人気女性DJの蒲池秀美さんの通りの良い声がラジオブースの空間に溶けていく。


「こちらこそ宜しくお願い致します、、」


まだメディアへの出演に完全に慣れていない僕はやや声を震わして返事する。この緊張感は、ラジオブースの窓向こうの副調整室に居る強面の吉田ディレクターの存在も関係しているのだが。


「さて、柴山さん、早速なんですが今回の番組のテーマである思い出の一曲についてお伺いしたいのですが、宜しいでしょうか?」


「はい、今回僕柴山雅人が選ぶ思い出の一曲は、滝沢百合さんのクワイエット・ララバイという曲です!」


「申し訳ございません、この方は存じ上げない歌手の方と曲なんですが、いつ頃活動していた方なんでしょうか」


少しだけ蒲池さんが戸惑いながら質問する。


「はい、80年代中盤頃に活動していたらしい女性アイドルの方で、たった一枚のシングルしか発売していないのですが、そのシングルのB面の曲がこれなんです」


「なるほど、柴山さんの年齢を考えると、リアルタイムではない後追いで知って、それが思い出の曲となっているわけですね。特に昭和歌謡にお詳しい柴山さんならではのチョイス。早速、細かなエピソードや思い出について語って頂けますでしょうか?」


「はい、それは・・・」






それは、今から数年前、大学進学で地方から上京してきた頃にさかのぼる。ネクラではないと思うが、かといってネアカでもない僕は、東京という大都会と一人暮らしに慣れるのに精一杯で、大学での友達作りのタイミングを逃した。クリスタル・キングのあの曲が、マッチするかもしれない。特に入りたいサークルも無く、時間が有る時は大学や住んでるアパート、最寄りの駅周辺を散歩して孤独を謳歌していたわけだ。今は若い人の間でも昭和歌謡は一部で人気だけど、この頃はそんな風潮なんて全く無く、今大学生活を送れていたら趣味を共有出来る友達も出来てもっと充実していたのかな、なんてつい想像してしまう。


最寄りの駅の周りは下町風情のある商店街となっており、大学からの帰りはそこで買い物をしながらどんな店が有るのかあれこれチェックするのも日課となっていた。地方ではスーパーマーケットに集約され、すっかり幻に近い存在にもなりかけていた八百屋に魚屋肉屋、あるいは文房具店に床屋、そして地元では見かけない名前のコンビニ含めとても新鮮だった。


そんな商店街の一角に、その店は有った。店内や外のやや薄汚れた窓には日焼けした一昔前の歌手のポスターが貼られており、それがこの店がどれ程長い間営まれてきたかを物語っている。店の前にはワゴンセールで売られている中古CDが多く並び、開かれたままの状態の店のドアは一種の敷居の低さ及び入り易さが伴うものだった。

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