第52話 ただの幼馴染なので

 昨日はあまり眠ることができなかった。

 ずっと早苗のことを考えていたからだ。


 早苗が好き。


 この気持ちに嘘偽りはない。


 しかし、昨日は何度早苗に『好き』と伝えても茜の好きは伝わらなかった。


 それがもどかしかった。


 そして和解することもできずに、密樹と出かける日を迎えてしまった。


「……眠い」


 ずっと早苗のことを考えていたせいで茜は寝不足だった。


 そのせいか、朝から頭が重い。


 しかし、今日は密樹と出かける日である。


 二度寝する暇はない。


 茜は重い体を起こし、お出かけする用意を始める。


 もう一度言うが、昨日喧嘩しようとも、早苗に嫌いと言われても、茜は早苗のことが好きである。


 早苗は幼馴染であり、親友でもあり、一番の理解者である。

 早苗が隣にいてくれるから、親が家にいなくても寂しくなかったし、毎日が楽しかった。


 これから先も早苗とはずっと一緒にいられると思っていた。


 だけど違った。


 昨日、生まれて初めて早苗に『嫌い』と言われてしまった。


 心が引き裂かれるぐらいショックだった。


 もちろん、茜も早苗と喧嘩したことぐらいはある。


 でも『嫌い』とは一度も言われたことがなかった。


 どこで間違えてしまったのだろう。


 いつお互いの気持ちはすれ違ってしまったのだろう。


 昨日の夜、何度自問してもその答えは出なかった。


「あたし……早苗のことが好きなのに……早苗に嫌われっちゃった。……どうして……分からないよ。あたしは……早苗のことが好きなのに。……このままの好きじゃダメなの。……あたしと早苗の好きはどうして違うの」


 昨日の早苗のことを思い出すたびに何度も涙が出る。

 昨日ハグした早苗の温もりが恋しい。


 いつもスキンシップをしてくるのは早苗からだった。


 茜はそれが嬉しくて、逆に早苗に甘えていた。


 早苗が茜に抱き着くと安心するのと同じように、茜もまた早苗に抱きつかれていて安心していた。


 しかし、今日は密樹と出かける日だということを思い出した茜は涙を拭い準備を進める。


 黒のノースリーブとデニムを履き、密樹と待ち合わせの場所に向かう。


 今日は久しぶりの晴れということもあり、余計に暑く感じる。


 もちろん、露出している部分は日焼け止めを塗っているので日焼け対策も完璧である。


「お待たせしまた」

「いや、大丈夫だ。私も今来たところだから。今日の神崎さん、私服姿だから新鮮で、に、似合ってると思う」

「あ、ありがとうございます。飯島先輩も似合ってますよ。飯島先輩のスカート姿、初めて見たので新鮮です」

「ありがとう。私も神崎さんのパンツ姿は新鮮だと思う。いつもスカート姿しか見たことがないからな」


 茜が着くよりも先に密樹がいたので、先輩を待たせてしまった茜は謝罪も含め頭を下げる。


 密樹は茜が気を使わないように、今来たところだと言ってくれる。


 本当に優しい先輩である。


 お互い、私服姿は初めてなのでその新鮮さを感じ、お互い褒め合って照れ合う。


 今日の密樹は白のキャミソールに水色のミニスカートとかなりガーリーなファッションで決めてきた。


 しかも黒のニーハイソックスも履いてきて、密樹の絶対領域が眩しい。


「神崎さんはパンツ派なのかい」

「う~ん。スカートもパンツもどっちも履きますけど、パンツの方が多いですかね。飯島先輩はスカート派なんですか」

「どっちも好きだが、気合いを入れる日はスカートが多いかな。……いや、今のなし。忘れてくれ」

「あっ、はい……」


 お互い私服ではスカートとパンツ、どっちがメインで履くのか聞いていると密樹が自ら墓穴を掘った。


 今日の密樹はかなり気合いを入れてコーディネートして来たらしい。

 先輩だけどちょっと可愛いと思ったのは茜だけの秘密だ。


 その後、電車に乗って遊園地へと向かう。


「神崎さんは遊園地とかよく遊びに行ったりするの」

「そうですね、長期休暇の時とかは行きますね。早苗と二人で行く時もありますし、友達を誘って遊びに行く時もあります」

「そうか……武田さんと二人で遊園地に行ったりするんだな」

「べ、別に深い意味はないですからね。ただの幼馴染なので」


 遊園地で遊ぶのかと密樹に聞かれた茜は正直に答えると、密樹は暗い表情を浮かべる。


 言った後、早苗と一緒に行ったことにショックを受けていると気づいた茜は慌ててそのフォローを行う。


 その時、早苗のことを思い出した茜は昨日のことも思い出し、気分が沈んでしまう。


 それとなぜか早苗のことを思い出すだけでドキドキしてしまう。

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