第11話 ……心が痛い……麗奈と違って胸が大きいから
「「「……」」」
「?どうしました先輩方。私、なにか変なこと言いましたか」
急に静かになった三人を見て真希は三人に恐る恐る質問をする。
先輩に対してなにか間違ったことを言ってしまったのではないか、それともなにか失礼なことを言ってしまったのではないかと不安になる。
「いや~、北野後輩って大人と言うかよく考えているんだな~というか脱帽したよ。ますます気に入ったよ」
「あたし全然北野の言ってること分からないけど凄いこと言ってるのは分かる。あたしそんな考え方できないもん」
「清美はせめて北野さんが言うことを理解できるぐらいには成長してください。高校三年生なんですから」
別に気に入られるために言ったわけではないのに、紗那に気に入られてしまった。
人は偏差値が二十離れていると会話が成立しなかったり、言っていることが分からないと言われているが清美はその例だろう。
そんな清美を見て麗奈はため息をこぼしている。
「……心が痛い……麗奈と違って胸が大きいから……」
清美は大仰に胸を押さえながら傷心アピールを行う。
麗奈に嫌味を言いながら。
「はぁっ」
麗奈は自分の胸の大きさを気にしているのか、鋭い眼光で清美を睨みつける。
「別に胸が小さくても胸が大きくても心の痛みは変わりません」
「でも~胸が大きい分痛みを感じる部分が多くなるんだよね~。麗奈は胸が小さくて分からないと思うけど」
麗奈の言う通り胸が大きくても小さくても、心の痛みの大きさは変わらないと思う。
だから清美の言い分は全く理解できない。
「別に好きで貧乳なわけではありませんし、貧乳が悪いことだとは思いません」
「別に悪いとは言ってないよー。なにムキになってるのープププ」
二人の会話を聞いていて分かったことだが、どうやら麗奈は自分が貧乳であることをコンプレックスだと感じているらしい。
別に男の娘の真希からすれば、胸が大きかろうと小さかろうとどちらでも良いと思う。
麗奈が胸の小ささをコンプレックスだと分かっているからこそ、清美は煽るのだろう。
馬鹿にされたお返しとして。
「全く、あの二人は……」
珍しいものを見たものだ。あの紗那が困り顔を浮かべているとは。
「いつも、あんな感じで言い合っているんですか」
「まぁー……いつも清美が麗奈に正論を言われると、悔し紛れに麗奈の胸のことを煽り返している。正直女の私からしても、胸の大きさなんてどっちでも良いと思うのだが、麗奈は自分の胸の小ささにコンプレックスを抱いているようでな。そうは思わないらしい」
真希は男の娘のため、胸の大きさで優劣をつけている女の子の心情が分からない。
女の子の間ではなぜか胸が大きい方が上で、胸が小さい方が下という格付けが行われている。
紗那も真希と同じらしく、胸の大きさで言い争っている二人を見て不思議がっている。
「北野は胸の大きい女の子と胸の小さな女の子、どっちが好き?」
不意に清美からキラーパスが飛んでくる。
あまりにも突拍子もない質問に真希は辟易する。
「北野さんにそんな質問するなんて、サイテーな質問ですね」
「さすがにあたしも北野後輩にそんなことを聞くのはサイテーだと思うぞ」
麗奈は清美に侮蔑の目を向け、紗那は呆れていた。
清美もまさか二人に責められるとは思っていなかったのか罰の悪い表情を浮かべている。
空気が少し重くなった。
もしこれが真希がいない時の会話だったら、どこか適当なところで笑い話になっていただろう。
それが後輩の真希を巻き込んだことによって、三人とも落としどころが分からず宙ぶらりんになっている状況だ。
「私は別に胸の大きさでその女の子を好きになったり嫌いになったりはしません。それよりも気兼ねなくいられる女の子を好きになると思います」
「「「……」」」
真希が真面目にどんな女の子を好きになるのか言っただけなのに、なぜか先輩女子三人はポカンとした表情を浮かべている。
「……なんというかなんというか、北野後輩は凄いな」
「……女子のあたしたちに向かって女の子のタイプを正直に言えるなんてある意味凄いよね」
「……北野さんって真面目で天然なんですかね」
先輩女子三人が、小声でヒソヒソ話し合っている。
さすがに露骨にヒソヒソ話をされると気にはなるが、真希に聞かれたくないことを話しているのは察することができるので、無理に聞くようなことはしなかった。
「つまり、北野後輩は気兼ねなくいられるあたしが好きということだな」
「いえ、違います。鈴木先輩は好きではありませんしただウザいだけです」
気兼ねなくいられる女の子を好きになるとは言ったが、紗那のことを好きとは言っていない。
そもそも誰かを好きになったことがない真希は好きという感情が分からなかった。
でも紗那がウザいことだけは分かるのでそれを伝える。
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