第8話 私は男なんだから生理が来るわけないじゃないですか
休み時間に陽子と愛理とあんなことがあったから教室にいるのはなんとなく気まずい。
それに愛理から漏れ出ている殺気というか怒気が煩わしい。
「……そんなに睨んじゃダメだよ愛理ちゃん」
「でも……」
「でもじゃないよ。睨むのは止めよう」
「……陽子がそういうなら」
陽子と愛理がなにを話しているのか分からないが、陽子がなにか言ってくれたおかげで真希に睨むという行為は収まった。
でも行為をしなくなっただけで、いまだに愛理の体から殺気と怒気はあふれ出ている。
「……はぁー」
別に教室でご飯を食べても良いが、また絡まれると厄介だ。
真希はため息を吐きながら仕方なく、お弁当を持って人のいなさそうなところに向かう。
学校で人がいないところなんてだいたい決まっている。
パッと思いつくところが、トイレか裏庭だがさすがにトイレでご飯を食べたいとは思わない。
よくボッチがトイレでご飯を食べているが衛生的に真希はダメである。
ということで告白以外なかなか人が来ない裏庭にやって来た真希はちょうど階段になっているところに座り、一人で昼食を食べ始める。
日も当たらず、少し肌寒いがそれさえ我慢できれば誰もいなくて静かで最高の場所だ。
「……静かな場所はやはり落ち着くな」
真希は一人の時間を確保することができ、リラックスする。
学校は地獄だ。
通学中や下校中は誰かしら隣には人がいるし、授業中も休み時間も教室にはクラスメイトがいる。当たり前なのだが。
みんなでいるのが苦にならない人は良いかもしれないが、一人でいる方が落ち着く真希にとって、学校で気が落ち着く時間がない。
だからそんな真希にとって裏庭は一人でいられる最高のスポットだった。
「やぁ、北野後輩。ここでランチかな?」
数秒前まで真希もそんなことを思っている時期もあった。
紗那が裏庭に来て話しかける前までは。
「……なんでこんなところにいるんですか」
「中庭に行く途中どこかに向かう北野後輩を見つけたからどこに行くの気になってついてきたんだ」
真希は嫌そうな表情を隠そうともせず鋭い視線を紗那に浴びせる。
紗那が言うには真希がどこに向かっているのか気になってついてきたらしい。
鬱陶しい先輩である。
「そうですか。ならもうどこに向かったのか分かったんですから、あっちへ行ってください」
紗那が真希についてきた理由がどこに向かっているのか気になったということなら、もう紗那の目的は達成されている。
目的が達成されているなら紗那がここにいる理由はない。
昼休みぐらい一人で静かに過ごしたい真希は邪険そうにあしらう。
「今日はいつもにも増して機嫌が悪いな。どうした?もしかして生理か」
「馬鹿ですかっ。私は男なんですから生理なんて来るわけないじゃないですか」
「そうだったそうだった、悪い悪い」
「~~、そういう鈴木先輩こそ生理なんですか」
「いやあたしはこの間終わったばかりだから生理じゃないぞ」
「ちっ」
「いや、なんで今あたしは舌打ちされたんだっ」
そもそも真希は男の娘なので、生理は来ない。
そんなこと紗那は分かっているはずである。
それでも言って来たのはきっと、場を和ませようと企てた紗那のジョークなのかもしれない。
それは謝る気のない謝罪を見ても明らかである。
だから、真希は紗那の気分を害そうと女の子が男の娘にあまり知られたくないだろう生理のことを聞いたらあっさり答えが返って来た。
まるで今日の朝食を答えるかのように。
目論見が外れた真希は思わず舌打ちをした。
さすがに紗那もなぜ舌打ちをされたか分からず困惑している。
「っていうか鈴木先輩も誰かとお昼を食べるならそっちへ行ってください。その人も待ってますから」
「そうだった、すっかり忘れてた。北野後輩が気になって清美と麗奈を待たせてるんだった」
お弁当を持っていることから真希の推測は正しかったらしい。
どうやら友達の清美や麗奈を待たせてわざわざ真希に会いに来たらしい。
お節介な先輩である。
「ちょっとー、いつまで話してるのー。早くご飯食べようよー」
「いつまで待たせる気ですか紗那は」
紗那の戻りが遅くて様子を見に来に二人がやって来る。
清美はお腹が空いて少しイライラしていて、麗奈は紗那に待たされて不機嫌そうだった。
ちなみに清美は、今日も制服を着崩して胸元が大きく開いていた。
「悪い悪い。待たせすぎたな」
「そうだよー。いつまで待たせるのよー。こっちはお腹ペコペコなのにー」
「昼休みは短いんですから、待たせないでください」
紗那は待たせていた二人に苦笑いを浮かべながら謝る。
清美は空腹で感情的にイラついていて、麗奈は冷静に怒っていた。
「せっかく清美も麗奈もここに来たから、今日はここで食べないか。中庭に移動するのも面倒だし」
「はぁっ?」
突然の紗那の提案に、真希は思わず真希にメンチを切る。
一人で昼休みを過ごしたいって言ったのに、この馬鹿には伝わらなかったのだろうか。
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