それが私の生き方だから

紗音。

呪文は恋の始まり

 朝六時、部屋に鳴り響こうとする目覚ましを静かに止める。

 私・荒牧あらまきニ歌ふうかはすっと起き上がり、ベットから静かに出る。パジャマから制服に着替えて、部屋を出て洗面所へ向かう。

 洗面所に着いたら顔を洗い、ボサボサの髪をかす。右、左と髪を結び、眼鏡をかける。鏡に映る自分を見て、気合を入れた。今日も完璧だと。


 台所に向かい、朝ご飯の準備を始める。野菜を洗って水切りをしている間に、フライパンに火をつける。温まったらベーコンを引き、卵を上に落とす。半熟程度になったら、お皿に移動させ、次の目玉焼きの準備を始める。

 目玉焼きの準備が終わったら、野菜を切り、野菜を皿に盛りつける。レタスにオニオン、トマトだけの至って普通のサラダだ。

 食パンの準備だけを行い、自分の食パンをトーストし始める。昨日に準備していた味噌汁を温め直して、温まったら自分の汁椀に入れる。

 牛乳をコップに入れて、準備は完了だ。


 朝七時、階段をドスドスと音を立てて人が下りてくる。

「はよー」

 あくびをしながら、私に声をかけてくる女。この人は私の姉の一音かずねだ。

「おはよう。そろそろ学校に行くから後は任せた」

「はいはーい」

 そう言うと、私は食べ終えた皿を流しに持っていき、水に浸けたのだ。そして、リビングに前日に準備していたブレザーを着て、カバンを持つ。さっさと玄関に向かい、革靴を履いていた。

「はぁ……にいねえ、おはよう」

 弟の完史かんじが目をこすりながら階段を下りてきた。

「完史、おはよう。今日も一日、気合を入れて頑張るわよ」

 私はそう言ってニッと笑うと、完史は寝惚ねぼまなこな顔で満面の笑みを浮かべた。

「おぉー!!きあいまんたんだぁー!!」


 昼休み、給食を食べ終えた私は、静かに小説を読んでいた。

「やー読んでるねぇ⁇」

 小説を読んでいる私の前に、クラスメイトの佐久間さくまが声をかけてきた。

「えぇ。佐久間のオススメは間違いないわね」

 そう言いながら、私は小説を読み続けた。

 彼女は茶髪に化粧の濃い顔をしている。先生達が職員室で問題児扱いをしていたが、彼女は明るく人懐っこい性格だ。お洒落が世界一大事だと言うが、そのお洒落のせいで先生達に目を付けられているのだ。

 そんな彼女とは対照的に、私は成績優秀かつ授業態度が真面目なのだ。時折、先生に

 彼女と関わらない方がよいと忠告を受けるが、彼女といることで私の評価が落ちるのであれば、勝手に落ちればいいと思う。

「ねぇー⁇なら、今度一緒に推し活しようよー。一緒にやろ⁇コ・ス・プ・レ」

 そう言うと、佐久間は私の手から小説を奪い取り、にこにこと太陽のように笑うのだ。

 この小説は彼女から借りたものだ。

 彼女との出会いは、私が図書館から歴史書を借りて教室で読んでいた時だ。突然、彼女から私に声をかけてきたのだ。何故、歴史書を読んでいるのかと聞かれたのだ。


 私は、小学四年生の頃に自分の人生とは何の意味があるのかと思っていた。それまでは真面目ではあったものの、完璧主義ではなかった。運動は苦手だし、勉強も好きではなかった。

 そんな時、私はいつも読まない物語を読んだのだ。それは平家物語だ。社会の授業中に先生が平家物語について話をしたのだ。興味を持った私は図書室へ行き、本を探したのだ。図書室にあったのは訳されたものだったので、私でも読むことができた。

 私と言う存在が無意味に感じていたが、歴史の中にもいたのだ。どんなに努力をしても報われない。そんな存在の人がいると知ったのだ。

 それから私はいろんな歴史の本を読んだ。翻訳されたものだけでなく、原文も読みたくなった私は必死に調べながら読むようになった。


 そして、私は一つの結論に至ったのだ。

 どうせ無意味であるなら、他人にとって完璧な人間として記憶に残りたいと。未来の歴史に残らないとしても、今の自分を誇れる人になりたいと思ったからだ。


 そして、私は努力に努力を重ねて、苦手だった運動も普通の人よりできるようになった。そして中学に入学して、天才少女として学年で一目置かれる存在となったのだ。

 そして、二年生になった時に佐久間と同じクラスになったのだ。

 最初は話すこともなく、接点は皆無だった。お互いに興味は無かったので、それで問題なかったのだ。

 だが、ある日の早朝に佐久間と私は出会ったのだ。私は日課のランニング途中で、佐久間は朝帰りの途中だった。そこで少し話をした時に、佐久間から私はロボットか何かだと思っていて、近づき辛いと思っていたと話をされた。

 そこから佐久間は、私によく話しかけてくるようになった。そして、私がいつも読んでいる歴史書に興味を持ち、どんな話かと聞いてきたのだ。

 話をすると、彼女は目をキラキラさせながら私の手を掴んだのだ。彼女も歴史が好きなのだと言う。私とは違う視点で、彼女は乙女ゲーの歴史的人物を好んでいたのだ。

 それから、ノベライズ化された作品を私に貸してくれたのだ。

 歴史書と異なった世界に、私もドハマりしてしまい今に至るのだ。


「明後日のイベントだっけ⁇私は見に行くだけでいいかな」

 そう言うと、佐久間は残念そうにしていたが私はにこりと笑った。コスプレをするまでの情熱はないが、楽しむ佐久間を見るのは好きだ。

「うん!!もし、コスプレしたかったらすぐに言ってね!!」


 放課後、私は職員室から出てきた。

「失礼しました」

 そう言い終わると扉を閉めて、教室に向かった。

「……あっ、荒巻さん!!」

 後ろから声をかけてくる人がいた。振り返ると、ショートヘアーの女の子がいた。確か、隣のクラスの陸上部の子だった気がする。名前は確か……

「えっと、山谷さん⁇」

 そう言うと、相手は驚いた顔をしていた。

「えっ⁉覚えてくれているんですか!!⁇」

 何故かわからないが、感激されているようだ。私は頭をかしげながら彼女に聞いた。

「で、何か用ですか⁇」

「あっ、……あの!!佐久間と関わるのは良くないと思います!!荒巻さんみたいな人があんなのに関わっているとみんな怖がって関われませんし……」

 すべてを聞き終えて、私は大きくため息をついた。いつもそうだ。先生も生徒も皆、私に理想を押し付けてくる。

「ごめんなさい。私はこのままでいいので」

 そう言って、私は彼女を無視して教室へ戻った。教室に戻ると、佐久間が私を待っていた。そして、私のカバンを手渡してきたのだ。

「はい、帰ろっか!!」

 明るく笑う彼女につられて、私も笑った。


 朝六時、いつもより早く起きて朝ごはんの準備を終えた私は、久しぶりにお出かけ用の私服を着た。

 誰も起きてこないよう、静かに玄関へ向かった。そして、お気に入りのブーツを履いて玄関に手をかけた。

「……にい姉⁇」

 階段の方から声が聞こえてきた。振り返ると、完史が寝惚けながら階段を下りてきたのだ。

「……完史、おはよう」

「おはよう……にいねえ、おでかけ⁇」

 完史の言葉に、私はにこりと笑った。

「うん、今日も気合入れて頑張るわ!!」

「うん!!がんばれー!!!!」

 完史に見送られながら、私は家を出た。

 そして、佐久間との待ち合わせ場所に向かった。駅に着くと、コスプレをした佐久間が立っていた。私に気付くと、笑顔で手を振ってきた。

「おっはよー!!」

「おはよう。佐久間、似合ってるね」

 そう言うと、佐久間は照れてお礼を言ってきた。今日の彼女は、乙女ゲーのキャラと同じ服装にメイクをしていた。彼女は先生や他の生徒からすれば問題児かもしれない。だが、私にとって彼女は完璧なのだ。自分らしく、自分として生きている彼女は誰よりも輝いて見えるのだ。


「よっし!!今日も推し活がんばるぞー!!!!」

 そして、私達は駅へ向かって行ったのだ。

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それが私の生き方だから 紗音。 @Shaon_Saboh

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