第4話 友達

「はぁはぁ……なんとか着いた……」


「……そうね」


 俺と姫野は学校の玄関で息を整えていた。

 凛音ちゃんは俺たちとは学年が違って玄関が別のところにあり、さっき別れた。

 別れるのにも暴れたりして色々と大変だったが……。


 まあ、それは置いておいて、とりあえず着いた。

 本鈴が鳴ったとはいえ、結構すぐに着いたし、遅刻扱いにはならないだろう。


「じゃあ、私は先に入ってるから」


「ああ、うん……」


「ああ、それと。教室では私があなたに告白したとかはあんまり言いふらさないで欲しいのだけれど……」


「恥ずかしいのか?」


「べ、別にそんなわけないでしょ! ただ単に面倒なことになりたくないだけよ!」


 急に顔が赤くなる。


「そ、そう……」


「勘違いとかはしないでよね!」

 

 怒って、そのまま階段を上り、去っていく。


「なんなんだよ、ホント……」


 俺も上履きを履き替え、教室に向かった。

 久々に遅れたせいか周りをみると誰もいないのが不思議に感じる。

 やがて、ドアの前に来る。

 前は通れなかったが、今は誰もいなかった。

 

「よし、入るぞ……」


 勇気を決して、中に入る。

 入った瞬間、姫野と目が合うが、すぐに目をそらされる。


「おお、相川か。早く席に着け」


「はい、すいません先生」


「遅刻ギリギリだが、まあいいとするか……」


 担任の先生に怒られる。

 まだ、授業は始まっていなかった。

 なんとかセーフらしい。よかった。


 俺は言われた通りに席に着き、授業の準備を始める。

 すると。


「おい、颯太。お前が遅刻とか珍しいな」


「大樹」


 隣の席から小声で話しかけられる。


「何かあったのか?」


「……ちょっとな」


「なんだよちょっとって。ヤバいことか?」


 こいつは俺の唯一の友達。熊谷大樹くまがいだいきだ。

 一年の時から今まで同じクラスでいつの間にか仲良くなっていた。

 いつも学校ではこいつとつるんでいる。

 ちなみに結構学校内ではモテていて、彼女もいる。


「うーん、ヤバいっていえばヤバいのかな……」


 告白されたんだとか言えないしな……。


「なるほど。お前のその反応……女関係だな!」


「な、なに言ってんだよ!?」


「そう言えば、確か噂で今日の朝、あの二大美女の冷徹の姫と甘えん坊の澤宮さんが一人の男性を取り合ってたって聞いたんだけど、まさか……」


「違うよ!? 全然違うよ!?」


「うるさいぞ。相川!!」


「す、すいません……」


 大きな声を出したせいで、先生に二度目の説教を食らわされる。

 さっきは甘かったけどこっちは本気で怒ってる。

 ちょっと怖い……。


「ぷぷぷ……」


 隣を向けば大樹は笑っていた。

 口を手で押さえて、爆笑している。


 こ、こいつ!


「いやーまさか。颯太の方に彼女が出来るとはなぁ……」


「付き合ってないから! 変な勘違いはするな!」


「わかったよ。まあ、颯太なんかにあの二大美女が好きになるわけないし当たり前といえば当たり前か……」


「おい、それはそれで失礼だろうが」


 全く、こいつというやつは。

 なんで、こう勘が鋭いときと鋭くない時で差が激しいんだ。


「まあ、もしあの冷徹の姫が彼女になったらと思うと色々とそそるけどな……」


「変な妄想はやめろ」


「だってよ、まずあのルックスだぜ。ヤバいだろ」


「確かに……」


 今更ながらよく見てみると真面目に黒板をみながら勉強していた。

 きちんとしているその姿は非常に魅力的だ。

 なんで俺が告白されたのか、本当にわからない。


「それにさ、あの冷徹さだぜ。ヤバいだろ」


「……よくわからん」


「まあ、お前のようなガキにはわからんよ。あの冷徹さの良さはな」


 自慢そうにそう語る。


「てか、お前彼女いるんじゃなかったのか?」


「ああ、いるけど。それがどうかしたのか?」


「そんなこと言ってると彼女さんに怒られたりとかは……」


「しないよ。だって可愛いとは思うけど愛してるのはあいつだけだから」


 そういうと前の席の人に向かって笑顔で手を振る。

 彼女さんのようだ。

 その彼女さんも手を振り返す。


「ああ……」


 なんとも幸せそうな雰囲気に圧倒される。

 なんでこいつがモテるのか少しだけ分かった気がした瞬間だった。





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