Chapter4-4 応戦
出雲大社横の駐車場に戻り、再び車に乗り込んだ。恵はカーナビを触らずに、そのままアクセルを踏んだ。
「おいおい、ナビはいらないのかよ」
「別に。道は知っているから」
さっきは平地部を走っていたが、今度は山の方を走っていく。
「山の方だが、大丈夫なのか?」
「この時間帯だと、国道は交通量が多くなるし、それに米子だとこっちの方が近いわ」
少し、陽が傾いているような気がする。木漏れ日が車内に差し込み、少し薄暗くなっていく。なんだか、力が抜けていく。少し、エアコンを効いていて暖かい。恵の運転は丁寧で、なんだか落ち着いてくる。
おれは、少しだけと思い、目を閉じた。
ドンッと身体が大きく揺れた。シートベルトに上半身が抑えられハッと目を覚ました刹那、カーナビが映し出す時刻は最後に見てから十分も経っていない。
「伏せて!」
恵の声が聞こえた瞬間、咄嗟におれは身体を低くした。昔、飛行機の安全ビデオで見た衝撃に備える姿勢みたいにした。
すると、バン! バン! と破裂音が重なる。足元しか見えないが、おれの少し上で、バリンとフロントガラスが撃ち抜かれる音がして、砂のような細かい粒子が首の裏に降ってきた。
「援護お願い」
「あいよ!」
「晴翔はここで待ってて」
「……わかった!」
銃声にかき消されないように、腹の底から大声を出した。
すぐに二人が降車し、車内から気配が消えた。すると、銃声もやんだ。恐る恐る、頭を上げた。向こう側に大きい銃を持ち、黒い戦闘服だろうか、特殊部隊が着そうな服装の人物が三人いた。
「うおおお!
スカーレットは赤い光を放ち、一瞬で魔法術士の姿になった。その瞬間、周辺の木々が燃えた。両手には初めて見たのと同じ赤い拳銃を握っており、早速何発か三人に向かって発砲する。
すると、右側の木の中から、更に二人、同じような姿が現れた。恵はスカーレットと違って、何も言わずに黄色い光が身を包み、すぐに魔法術士の姿になっていた。大鎌をまるで新体操のバトンのように華麗に操り、数の差をものともしない戦いぶりだった。
おれは、コートの内ポケットにしまった拳銃を確かめた。すぐに出せるように、使い方を確認する。セーフティを外して、スライドを手前に引いて、トリガーを引けば撃てる。
おれは、二人から視線をずらす。左右の茂みには人影はいなかった。すると。窓ガラスがパリンと音がした。
その方向を向いた瞬間、何者かがガラスを破った。まずい。拳銃を向けようとした刹那、首元を掴まれ、外に放り出された。
背中に衝撃が走る。視界の上部は空の代わりに土や落ち葉が広がっており、眼下には車が、そしてさっきガラスを割った人が迫る。
すぐに体制を立て直し、拳銃を構える。少し猫背気味の姿勢で、両手で銃を持つように構え、人差し指は銃口に添えた。セーフティはさっき解除して、スライドも一度引いたはずだ。
心臓の鼓動が早くなる。身体が酸素をまた求める。ちくしょう、なんでこんなに空気はうまいんだ。
胴体を狙うか。いや防弾チョッキを着込んでいるように見える。となれば頭を狙うしかない。銃口に添えた人差し指をトリガーにかけた。
本当に、撃っていいのか。おれはこの人を殺すのか。おれと違って、家族や仲間をいるだろう。
相手はおれが向けた銃口に気がついている。身を低くし、構えた。相手は何も持っていない様子だ。すまない。
おれには、その顛末を見る責任があるはずだ。引き金を引いた瞬間、バン! と音がした。光がほんの一瞬、銃口から走った。そして衝撃が後方にくる。踏ん張ったが、後ろの木に寄りかかってしまった。
しかし、銃口の先に相手はいなかった。そのまま後方の車のドアにわずかな穴を開けた。
いない、そう思った瞬間。左から衝撃来た。鈍い、横腹に突き刺さる。中ではない。蹴られたのか。
立ち上がろうとするが、下半身に力が入らない。
「なんだ、ガキか」
男の声だ。マスクをしているのか、顔はわからない。まだ右手に拳銃の感覚がある。それと頼りに、銃口を向けて、トリガーを引いた。衝撃が、もう一度伝わる。だが、なんの手応えもない。
直後、腹に重い一撃が加わる。喉の奥から、違和感がする。
「お前はこう考えたのだろう。頭に一撃加えて終わらせようと。しかしそれはハズレだ。だからと言って胴体は防弾チョッキでそこまでダメージは見込めそうにない」
男は拳銃を持ち出した。
「正解は、足だ」
そのまま、おれの左足の、太ももに銃口を向けた。逃げようにも、身体が言うことを聞かない。
直後、破裂音が鼓膜を支配した。銃口から吹き出る光は、朝日のような輝きで視界を奪った。
熱い。左足の感覚はなく、まるで熱した鉄板をそのまま押さえつけられたように熱い。
おれは、必死に奥歯を強く噛み込んだ。声を上げるな。出せば負けてしまう。だが、涙は出てこない。衝撃で神経が麻痺しているのか、顎に力を入れることに集中しているためなのか、目元は変わらなかった。
「ほう、耐えるか」
徐々に足先から感覚が戻っていく。妙に生暖かい。失禁をしたのか、いや右足はなんともない。全身から血の気が引けてくる。
身体は冷静だ、さっきよりも心拍数がなぜか落ち着いている。
「お前はまだ助かるぞ。まあ後遺症があるかもしれない」
そして、顎の下に冷たい感覚がする。鉄が当たるような感じだ。
「ロストバゲージを出せ。そうすれば命は助けてやる」
「……なんだ、それ?」
「しらを切るつもりか……いいだろう。あの世で悔やむんだな」
銃口に添えていた人差し指がトリガーにいく音がした。まるで、獲物を縛り上げた蛇が舌舐めずりするようだ。
「うおおおおおお! 晴翔から離れやがれ!」
瞬間、大声を上げて炎を纏ったスカーレットが突進してきた。男は横に吹っ飛び、すぐさま炎は赤い拳銃に収まり、男の方に銃口を向けた。
バン! バン! と破裂音が繰り返す。吐き出される薬莢が、地面に着く前に炎となり消えていった。
「大丈夫か、晴翔」
「左足の太ももを撃たれた」
スカーレットは、手のひらを広げて、炎を生み出した。
「荒療治だが、傷口を塞ぐ」
そして、太もものズボンがえぐれている箇所に手を当てた。
「がぁっ!」
痛い、と言うより熱い。まるで全身が炎そのものになったようだ。サウナに入っている時のように、どっと汗が噴き出す。
「四、五分じっとしてろ」
おれは、ふと倒れ込んだ男の方を見た。脳天に大穴が開いている。目は見開いて、生気がなくぐったりと倒れ込んでいる。さっきまで生きていた男は、ただの肉塊と化した。
「……殺したのか」
「奴らはオレたちを殺そうとした。それに晴翔を傷つけた敵だ」
おれは目を伏せた。彼にも、人生があっただろうに。自分を襲おうとした恐怖心より、悲しみが溢れてくる。
「泣くな。オレは晴翔が護れればそれでいい」
「なんでだよ! 今日のさっき会ったおれの為にこんなことができる⁉︎」
「子供の未来を護るのが、オレたち大人の役目だからだ」
「何も、殺すことはなかっただろ!」
「人に銃口を向けた瞬間、やつは撃たれる覚悟があったはずだ」
「なんで、そう言えるんだよ」
「オレも同じだからだ。汚れ仕事は任せな」
そう言うと、スカーレットは接近する武装した兵士に向かう。
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