第50話 仕入れ
小春たちがリーアンから帰ってきてひと月ほど経ったある日
「これもかぁ~」
小春はキャルト(人参)を手に取りため息をついた。
「ちょっと出てくるね」
そう言ってグラン・プリマを出て向かった先は市場。
《ん~、どこ同じようなものだなぁ、早急に手を打たないと》
市場の八百屋の店先に並ぶ野菜を見て回ったが質がかなり落ちている。ここ一ヶ月ほど野菜の質がどれも落ちているのだった。原因は天候不順もあるがテレスで飲食店が増え需要に供給が追いつかず、質の悪いものまで流通し始めたことにあった。
質の良いものは殆どお貴族様とその息がかかった店に納品されていた。
《仕入れ単価上がると値上げしなきゃいけない、けどそれ以前に入手できるのか、が問題だわ》
「やっぱりアレしかないか」
小春は王宮へ向かった。
「こんにちは~」
「小春様、いらっしゃいませ、ただいま陛下へお取次ぎいたします」
そういって小春はいつもの中庭のガゼボへ案内された。
「おお小春や、今日はどうしたのじゃ?」
「また、相談だよ」
「フォッフォッフォッ」
内容を聞く前からご機嫌である
「して、どんな相談じゃ?」
「お祖父ちゃん、今、野菜が不足してるの知ってる?」
陛下が執事に目配せをした。
「待っておれ、担当のものを呼ぶでな」
「あ、それと別件なんだけど、わたしこの前、リーアンに行ってきたのね。それで帝と食材の輸入取引契約をしてきたけど問題なかったかな?」
「個人取引なら問題ない、量は制限させてもらうぞ」
「うん、わかった」
「陛下、こちらを」
なにやら書類に目を通している。
「そうじゃな、去年と比べると少し収穫は減っているようじゃが、それほど影響しておるのか?」
「えっとね、量は問題ないんだけど、質のいいものが全部お貴族様関係に流れてるみたいで、市場やお貴族様の息がかかってないお店には質の悪いものしか出回ってないの。」
「ふむ、それは困ったの、いくら儂でも『野菜を買うな』とは言えんからの」
「うんわかってる、それでプリマ・グループ専用の農場を作りたいの」
「ほう、また面白そうなことを始めるのじゃな?」
「別に面白いわけじゃないけど、契約農家を作っても良いか聞きたくて来たの。農家ってそれぞれの領主が管理してるんでしょ?」
「うむ、そうじゃな」
陛下はあごひげをつまみながら考えた。
「それなら、あそこを使うがよい、ほらお前が作った工場があったじゃろ、なんと言ったかの?」
「セントラルキッチン?」
「そうじゃ、あの辺りは全部、王室の直轄領じゃから、自由に使ってよいぞ。農家なども斡旋してやろう」
「ほんと? 結構、大きな面積使うと思うけど大丈夫?」
「構わん、構わん、可愛い孫の頼みじゃ、フォッフォッフォッ」
「ありがとう! お祖父ちゃん♪」
小春は陛下に頬にチュッとキスをして王宮を出た。
3ヶ月後
―――― 王室直轄領にて ――――
「こんにちは~~」
小春は農家や畜産家などを周って挨拶していた。農家が七軒、畜産家が四軒それに果物農家が二軒だった。
「やあ、小春ちゃん」
「今日はいい天気ですね、土の具合はどうですか?」
「あぁ、ここの土は良い、放牧してあったんじゃろうな、よく肥えとるでよ」
「良かった~」
「もう何種類か種まきしておるでよ」
「そっかぁ、楽しみだね」
「しかし、ほんとに小春ちゃんとこで全部買い取ってもらえるのかい?」
「もちろん! そのかわり」
「わかっとるでよ、最高の野菜つくるでな」
「頼りにしてます」
そう言って、全ての農家を周って挨拶をした。
この頃になると小春は馬に乗るようになっていた。小春の小さな体では
そうして3ヶ月後最初の作物が収穫された。肥料に魚粉や貝殻を焼いて砕いたものを使うよう提案し、収穫された野菜はどれも立派で味も良かった。
いや、良すぎたのである。
「おじさん、こんにちは~」
「お~ 小春ちゃん、丁度いいときに来なさった」
「どうしたの?」
「またやられたんじゃ」
「畑荒らし?」
「隣の爺さん所もやられたそうでな」
「ん~、困ったわね、番犬とかは?」
「犬もおるが、全部の畑はまかなえんでな」
「そっかぁ」
小春はしばらく考えて
「わかった、私に任せて、なんとかするから」
そう言って馬にまたがり
―――― グラン・プリマの一階にて ――――
「ゲイル~! ちょっといい?」
警備隊長のゲイルを呼んだ。
「どうしたっスか?」
「警備隊って今何人いるの?」
「グラン・プリマ担当が六人、1号店が4人、2号店が2人、交代のヤツ入れて36人っすね」
「契約農家を作ったのは知ってるよね?」
「はい」
「最近、畑荒らしが頻発してるの。それで警備隊の人数を増やして農場の警備もお願いしたいんだけど出来そう?」
「問題ないっす、農場の警備となると住み込みになると思うから、寝床が欲しいっすね」
「その辺は任せておいて、快適な寮をつくるから、それで何人くらい必要かな?」
「そうっすね、現場見てみないと分から無いっすけど、最低でも100人は必要っすね」
「うん、分かった、寮はすぐに用意するね、それから番犬とか必要ならゲイルの裁量で飼っていいからね。」
「うっす」
寮は半月で完成した、警備隊は一週間で120名が集まった、週休2日で給料も破格なため騎士団を抜けてきた者も多かった、農場警備は敷地が広いため全員が騎兵となり、小春が抱える警備隊は装備も馬もすべて一級品で私設軍隊なみであった。
警備隊が農場を警備するようになり畑荒らしは無くなった。
野菜、果物、肉、乳など全てが、どの国のものより素晴らしいものが収穫されるようになり、いくつかの貴族も真似して契約農家を抱えたが資金不足で長続きしなかった。
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