第9話 ハンバーガー



「では皆さん、昨日の予行演習どおりで行きましょう! 心配はいりません! 全責任は私にありますからのびのびと楽しんで調理しましょうね」


男爵家、早朝、厨房でスタッフに挨拶する小春はキレイに洗濯したコック服に転移したときポケットに入れていた国際コンクールの金メダルをピンで左胸に留めた。


「小春料理長、その胸のメダルは何でしょうか?」


男爵家の料理人の一人が尋ねた。


「あ、これは以前、料理コンクールで世界一になったときに頂いたものです」


「おぉぉぉぉおおおおお!」


厨房が男性の声でどよめいた。


「オィ、どえらい人が来たぞ!」


「あぁ、俺はあの方のそばに張り付いて技を盗んでやる!」


「ずるいぞお前!」


あちこちからヒソヒソと驚きと憧れの声が聞こえてきた。




「では、料理長、挨拶の言葉をおねがいします」


男爵家の料理長に挨拶をうながした


「え~、今日は小春料理長の邪魔にならないように、そして技をしっかりと盗むように!気を張って仕事しろ!」


「ハイっ!」



「あの小春料理長、うちの料理長と小春料理長と呼ぶ時に、紛らわしくなりそうなんですが」


「あぁ、そうですね、では、私のことはシェフと呼んで下さい」


「しえふ~ですか?」


「はい私の故郷では『料理長』の別の呼び方を『シェフ』と言います」


「わかりましたシェフ!」


下ごしらえが始まる、ブイヨンやソースに使うフォンを煮詰めたり野菜の鮮度確認、皿が欠けてないか、数は間違えてないか。などなどやることが沢山ある。



「ふぅ、料理長、このへんでお昼休憩にしませんか?」


《みんな初めての作業ばかりできっと疲れたよね》


「そうですね、おぃお前ら賄いの用意だ」


「あ、私が作ります、せっかくですので噴水亭では出してない料理を作りましょう、予算無制限なので」


そう言って小春は料理長にウィンクした、何を勘違いしたのか料理長は耳まで真っ赤になった。



「おおぉ! やったー! 世界一の料理を食べられるぞ!」


「みんなも少し手伝ってね下さいね」


「ハイ喜んで!」


《どこの居酒屋だよw》



本日、噴水亭から手伝いに来てもらったのはノーラとルディ


「ルディ、フォカッチャを人数分お願いね、ノーラはオーブンの温度調整おねがい」


「ん」


「はい、わかりました」


「あの、俺手伝います!」


「俺も手伝わせて下さい!」


男爵家の料理人たちがルディの後ろをゾロゾロとついていった。


「それでは料理長さんお肉を包丁で細かく叩いて下さい」


「はい、あ! ハンバーグですか?」


「似てるけど、ちょっと違います」


少し残念そうな料理長さん



「えっと、あなたは保冷庫から葉野菜を持ってきて洗ってもらえるかな?」


「はい喜んで!」



「じゃぁ君はボールに卵の黄身を10個割って小さな泡が立つまで混ぜてくれる? ボールは綺麗に洗って水分を拭き取ってね」


「はい喜んで!」


《何なの、この「はい喜んで!」って吹き出しちゃうよ~》



「えっと葉野菜は洗ったら太めの千切り、って分かるかしら」


「はい、わかります」


「じゃぁ十枚分おねがいします」


《はい喜んで! 来るよ~》


「はい!」


《あれ? 決まりごとじゃないんだ、 期待したのに》




「黄身の人は、菜種油とビネガーを用意しておいて」


「わかりました」


「料理長、お肉はそのくらいで大丈夫です、味付けは私がやりますね」


「はい喜んで!」


「ブッハッ! ごめんなさい、ちょっと胡椒がwww」


《料理長が言うと吹き出しちゃうよ~》




「小春、オーブン準備できた」


ノーラも気合が入ってる。


「ルディ、そっちはどう?」


「はい、準備出来てます」


「じゃぁ、この味付けしたミンチを、あ、ミンチってのは細かくした肉をまとめたものです、これを卵くらいの大きさにして、こうやって」


パンッパンッと両手のひらでキャッチボールするようにして空気を抜く。


「おぉぉぉおお!」


一同感動


「皆んなも自分の分を作ってみてね~」


「ハイッ! 喜んで~っ!」


《大合唱だよ》


「そしたら、料理長さん整形したお肉を焼いて下さいな」


「わかりました」


「ルディもフォカッチャ焼いてね大きさは手のひらくらいでお願いね」


「はい分かりました」


「あ、俺がやります」


「いいですよ、入れるだけだから」


仕事を取られそうで焦るルディ




「そろそろ良いかなぁ?」


「肉焼けました」


「フォカッチャも準備出来ました」


「葉野菜も大丈夫です」


「えっとマヨネーズは?っと、うん、美味しい、有難うね」


「黄身だけ使うんですね、白身はどうしましょう」


「白身はデザートで使うから保冷庫に入れておいて下さい」


「君の黄身は君だけのもの」


ノーラがオヤジギャグをつぶやく。


「では、皆さん私を真似して下さ~い、まずはフォカッチャの上にお肉を載せます、次に晩餐会で使うソースを少しかけます、葉野菜を載せます、マヨネーズ載せます、フォカッチャで蓋をします、はい、これでハンバーガーの完成で~す!どうぞ召し上がれ~♪」


「おぉぉぉ~~!」


「ハンバーグと名前が似てますね」


「そうですね、ハンバーグが入ってるからかな?」




「う! 美味い!」


「これは! 美味いです! 料理長!」


料理番の一人が料理長に駆け寄った。


「うん、確かに美味いな! それに簡単に出来るし、片手でも食べられるから忙しいときに最適の賄いだな」


「今度、賄い俺に作らせて下さい!」


「おぃ! ずるいぞ! 俺も作らせろ!」


「今日みたいに皆んなで作ればいいだろう」


「それもそうですね」


厨房はハンバーガーで大盛りあがり。


「皆さん、ハンバーガーのいいところはもう一つあります、さて何でしょう?」


「・・・何個でも食べられる!」


「残念、違います」


「自分好みの味付けができる!」


「おぉそうだよな」


「ん~、惜しいです、正解は中に挟む具を変えると無限に種類が広がるところです!」


「おぉぉぉ~~! すごいなぁ!」


「さすが世界一の考えることは違う!」


《私が発明したわけじゃないんだけどね》


「さすがです! シェフ!」


料理長さんの目がウルウル


「泣くほどですかぁ? 料理長さん」


「いえ、こいつらがこんなに楽しそうに料理してるところ見るのが初めてなんです、ウッウッ」


「それは良かったです、これからたまに賄いでハンバーガーやるといいかもですね♪」


「はい、ありがとうございます。」


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