ラノベオタクの僕が、美少女ラノベ作家な先輩と同居することになった

ぼたもち

第1話

突然だが、これまでの人生。



朝起きたら隣に痴女が寝ていたという経験はあるだろうか。


「……んふぅ」


心地よさそうに寝返りうった痴女──静華朱音先輩。


ブランケットからはみ出た白い肌が、カーテンから僅かに盛れる光を反射して、綺麗に輝いている。


……何やってんだこの人。


「あ、後輩くん。おはよう」


すっかり寝ていると思い込んでいたが、どうやら既に起きていたらしい。

ブランケットが落ちないように細心の注意を払いながら、俺はむくりと起き上がる。


「……朱音先輩。いくらなんでも体を売りすぎでは?」

「私、君以外にこんなことしないよ?」

「してたら通報もんですからねぇ!……ほんと、朝っぱらから目に悪い……」

「思春期男子には少々刺激が強かったか……その証拠に……ほら。体は正直だよ」

「どこを見てそうほざいているのか知りませんが、全く反応してませんからね」

「え?でもさっきまで……」

「……それは生理現象です。生々しいこと言わないでください」


痴女こと朱音先輩は、俺をからかった後満足そうに微笑んで、再び布団の中に戻っていく。


「風邪引きますよ」

「下着は着てるからー」

「いやあんまし関係ないだろ……」


本当に……この人にはついていけない。


苦笑しながら、ため息をついて顔を上げると、カレンダーが目に入る。


6月──あぁ、そうか。意外と日は経ってるんだな……と、再びうつむく俺。


思い出してみれば、長くも短くもちょうど1か月前。


あの日の俺の不注意が、今こんな日々を過ごす事になった原因であって……。


あの日、静華朱音にさえ合わなければ、今日も今日とて快適な朝を過ごしていたはずなのに……。


なんで……なんで……




「なんで俺は、朝から痴女と過ごす日々を送ってるんだろう……」




いわく……このセクハラ先輩は、ネカフェ男子と同居したい……らしい。









─────────────────









5月も中盤に差し掛かってきた、とある日の夜。


俺は1人。仙台市国分町──まぁ世に言うところの夜の街を歩いていた。


宮本真太。高校2年生。


なんてことない平凡な……いや、そんなことは無いか。


ぼっち。陰キャ。コミュ障の三冠王。


友達は片手で数える程しか居ないし、クラスメイトからも可哀想な目で見られる日々を送る、悲しきクラスカースト最底辺……


いや、悲しい独白はこんなところにしておこう。俺の精神が壊れかねない……。


そんなことは置いておいて……俺が、こんな夜の街を歩いている理由は、とある場所を目指しているからに他ならない。


ギラギラと輝く看板と街灯。


その通りを抜けると、俺が目指していた場所はあった。


「ネカフェ到着……っと」


ネットカフェ──通常ネカフェ。

24時間営業で、ネット使い放題、宿泊も可能。


モーニングでは白米やパン、ポテトが食べ放題だったりで、もはや一種のホテルと言っても過言ではないかもしれない。


店内に入ると、カウンターには金髪の男が暇そうな顔でスマホを弄っていた。


「すいません。予約入れてる宮本です」

「……ん?あぁ、予約。少々お待ちくださー」


ダルそうにそう言って、カウンターの奥へと向かうチャラい店員。


しばらくすると、カードキーを持って、パタパタと俺の前へ戻ってくる。


「こちら鍵なんすけど、一応年齢確認させてもらっていいすか?ウチ、22時以降は18歳未満NGで……」

「あぁはい。学生証でいいですか?」

「えっと……あぁ、高三の人っすか」


同い年っすね!と、なぜか馴れ馴れしく接してくる店員。面倒臭い。


俺はなんて返せばいいのか分からずに、乾いた笑みを浮かべる。


「んじゃ、部屋番号12のカードキーっす。ごゆっくり」


チャラいとはいえ以外と接待はしっかりしてるな……と思いつつ……




俺は、『偽物の学生証』をさっさとポケットに突っ込んだ。




さっき言った通り、俺は高校二年生な訳だが、まぁ家庭の事情もあり、半年前。俺は家出を実行した。


結果泊まるとこなんてなくて、この店の定員はそこまで深堀してこない事をネットで知ってから、年齢詐称して住み着かせてもらってるのだが……。


ぶっちゃけ、学校にバレたらヤバいが、まぁ大丈夫だろう。そんなばったり、先生やら生徒やらに出会うことはないはずである。


そう思いつつ、若干の罪悪感を胸に、部屋番号12と書かれたカードキーを俺は一旦しまった。


先に、飯の時間だ。


イートインスペースに行くと、カウンターと、飲み放題のドリンクバーが設置されていた。


食べるメニューは決めている。


さっさとカウンターへ出向き、このネカフェでは最安値の、具なしカレーとサラダを注文。


さらにドリンクバーでメロンソーダを注いで、イートインスペースにどっしりと座り込んだ。


まずはゴクリとメロンソーダ……。


「……くぅぅぅぅ、五臓六腑に染み渡る……」


……それこそさっきのおっさんのような声を出してしまった気がするが、別になんてことは無い。


現在時刻は22時を回っているが、このネカフェを使用する人はほとんど居ないのだ。


まぁ……その、周りにそういうホテルは沢山ありますしね。


相当の物好きじゃなきゃ、そういう用途で使われないためか、俺はここに泊まって以来、イートインスペースで人にあったことは無い。


だから、おっさんのような声を出したところでバレないし、誰にも迷惑をかけていないのだ……!


「最高だ……最高の食事だ……」


むしゃむしゃとカレーをかき込む。


学校生活に疲れた俺を唯一癒してくれる、至福のひととき……。


俺は、こんな、傍から見れば異常な日々を、こよなく愛していた……。


今後もこんな日々が続くといいなぁ……。


平和な日々が続けば、友達なんていらないや……。


「俺は……ネカフェが……大好きだ……」

「ネカフェに告白してる人なんて初めて見たよ」

「そりゃ、ネカフェは人じゃな……え?」


突然の声に、俺は思わず顔を上げた。


視界に飛び込んできたのは……



「やぁ。後輩くん。こんな時間にネカフェで何してるのかな?」



「……静華……朱音?」


「うぉ。いきなり名前呼びなんて大胆だねぇ」


静華朱音。


黒い、肩までかかった髪。


クールさと子供っぽさを両立した整った顔つき。


そして、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる抜群のスタイル。


俺が通う瀬戸広高校で、絶対的な人気を誇る、完璧超人。


成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能。


化物中の化物。


瀬戸広高校?あぁ、静華朱音の、と他校の生徒からも言われるレベルの超有名人。


それこそが……静華朱音。

だから尚更分からない……


「な……なぜ、朱音先輩がこんなところに?」

「まぁ、援交かな?」

「えぇ!?」


ノータイムの返事に思わず驚愕するが……


「嘘だよ嘘〜!こんな簡単な嘘に引っかかるなんて……後輩くんの将来が心配だなぁ〜」

「な……」


オレオレ詐欺とか気をつけてね〜?と、馬鹿にしたように言ってから、


「ほんとは執筆。後輩くんも知ってるでしょ?私、小説書いてるの」


……知らないはずがない。

ラノベ界に彗星の如く現れた超新星、アカネ先生。


俺自身も彼女のファンで、その作品に魅了されている1人だ。


……だが。


だが、だ。



今そんなことはぶっちゃけどうだっていい。



まずいのだ。



大変、まずいことになった。


「で?何してるの?18歳未満は、この時間帯使っちゃダメ……っていうか、カウンター通ることも出来ないと思うんだけど」


ニヤリとした顔でこちらを見てくる、朱音先輩。


「いや……その……」

「学校側にバレたらどうなっちゃうのかな〜……一発KO?」

「……」


ニコニコしながら、腕をぶんっ!と振り上げる朱音先輩に、俺は思わず身震いする。


一発KO──すなわち、一発退学。


「うちの学校、結構そういうのには厳しいからね〜」


いくらなんでも退学はまずい。


なんのために今日まで無理して学校に通ってたのか……。


休み時間、誰と話すでもなく、一人で瞑想していたあの時間は?


昼休み。たった一人で弁当を食べ、虚しさに流したあの涙は?


授業中。評定を落とさないように必死に目を開け、取ってきたあのノートの数々は?


全てが、無駄になってしまう……!


「いや……その……ですね」


何とか言い訳を……と口を開くが……


「どんな理由があれど、この時間にいるのは違反なんだけどなぁ〜」


この繰り返し。


このまま繰り返し続けたら、呆れられてチクられる……。


そう悟って、俺は真実を伝えることにした。


「その……俺、家から追い出されて……帰る場所がなくてですね……」


さすがに家出なんて言ったら、帰ればいいじゃんで切られるので、若干の変更は仕方ない。


「ふーん……そうなの」


と、朱音先輩は急に声のトーンを落としてきた。


……なんかヤバいこと言ったか……?


冷や汗が流れ落ちる感覚が、嫌という程分か る。


しばらくの沈黙は、再び発されたハイトーンボイスで破られた。


「で?バラされたくないなら……それなりの対価がないとね?」


どこか取り作ったような笑みでそういう朱音先輩。


俺は、「くっ……」と苦悶の表情を浮かべる。


「例えば〜……何でも言う事聞くとか?」

「ド定番……。というか、そう言うのって男が女性にやるのが普通なのでは?」

「普通なんて気にしてる場合なの?」

「ぐぬぬ……」


悪魔のような顔で、そう言う朱音先輩。


「わ……分かりました。何でも言う事を聞きます。でも出来れば、死ぬとかそういうの意外で……」


さすがにリョナは行けない口だよ〜と、逆に怖い宣言をする朱音先輩は、


「まぁでも、対価を払うって認めたってわけだ」


そう言って、俺にぐっと近付く。


「……近っ」

「ピュアだなぁ……顔、真っ赤にしちゃってさ? ま、そんなことはいいや」

「……っ」


息を呑む。


バレた時点で腹は括っていた。


致し方ない……俺の不注意が生み出した惨劇。


今後、奴隷生活が始まってしまうかもしれない……。


「私が君にする最初のお願いは〜」


だがネカフェ。お前だけは俺を出迎えてくれよ。


奴隷生活に憔悴しきった俺を、寝させてくれる居場所に、なってくれよ……。


覚悟を決めて朱音先輩に目を向ける。


彼女はゆっくりと口を開き……


























「私の家にお泊まりしよっか」

「……は?」



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