二刀流
進藤 進
第一章 カクテル光線
当然ながら、この小説はフィクションです。
大好きな、大谷選手に捧げます。
「代打、吉岡!」
金髪のイケメン監督、新庄の高い声がグラウンドに響いた。
「8番キャッチャー、近藤に代わり、吉岡。8番キャッチャー、吉岡・・・」
審判の確認後、エコーの効いたウグイス嬢の声が球場に流れていく。
グローブをはめた両手で、バットのグリップを握りしめた男はチラリと目線を上に向けた。
青空に照明塔が太陽光を反射させている。
「とうとう、一度も・・・」
男のつぶやきは、閑散とする球場の観客へは、届かなかった。
男にとっての憧れ。
ナイターでの、まぶしいカクテル光線。
すなわち、一軍での試合のことである。
男は今日、チームを去る。
引退するのだ。
数えるほどしかない、試合経験。
しかも、二軍のみの経験であった。
デーゲームのみの体験は男の顔を黒く、日焼けさせていた。
ゴツゴツした岩のような造りは、おせじにもハンサムとは言えない。
身長195㎝、体重130㎏。
まるで、相撲取りのような体格。
格闘技ならいざ知らず、野球には少し、重すぎた。
大半は筋肉とはいえ、バッティングセンスの乏しさとも相まって得点は期待されていない。
かといって、守備も動きはどうしても鈍くなり、結局、一度も一軍には上がれなかった。
それでも、男の表情は満足そうであった。
「十年・・・か」
タメ息のような言の葉が、遠くなった過去を呼び戻す。
男の最後の打席に向かう、数十メートルの間に次々とシーンが浮かんでくるのだった。
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