第3話 第1の彼氏 ⅲ

「では、これで受付終わりになります。許可書は後日、こちらのご住所に郵送いたします。それまでは、先ほどお渡しした仮の許可書をお見せください。では…」

お客さんは一礼して、出口へ向かっていった。

あ、もう、お昼だな。

時計の針が11時57分を指していた。

今日は、朝は雨が降っていたから、みんな動きだすのが遅かったのか、昼前に窓口が埋まった。

チャイムが鳴るまで、受付書類の整理をしていると

「杏~。お昼行こ。今日、あんた当番じゃないでしょ。」

清香がやってきた。

「うーん。」

清香とは、私の保育園からの仲だ。彼女はすでに既婚者で2児のワーママだ。大学生の時、合コンで知り合った医科大の彼と、卒業間際にデキ婚をした。頭脳明晰で美人、幼い頃から、みんなに頼られて、そして、なぜか、いつも私の世話を焼いてくれる姉御肌。


「ねぇ!あんたさ、来週、出張でしょ。泊付きの」

「うん、そうなんだよね~。」

「気を付けなよ~」

「え~、なんで?」

「あんた、知らんの?一緒にいく、鷹取主任、新妻キラーなんだよ!今まで何人泣かせてきたと思ってんの!片手じゃ足りない、って話だよ」

ゲホッ、ゲホッ

思わずむせた。慌てて水を含んで、しっかり噛まずに流し込んだ。

「清香、あんたこそ、相変わらずの噂好きだね~。んなわけないじゃん。もし、仮に、鷹取主任がそうだとして、私を狙うと思う?」

ほんと、頼りになる清香だけど、たまに、こういう呆れた噂を信じるとこがある。

「杏、分かってないなぁ。あんたさ、自分が思ってる以上に、フェロモンぶちまけてるからね!気を付けな」

「清香のバーカ、もういいよ。それよりさ、お土産、なにがいい?」

「えとね、叔父さんはねー、甘い和菓子だね。つぶ餡の方が好みかなー。」

「橘部長!」「将生おじ、あ、部長!」

「はい、どーぞ。おごりね~。娘たちよ、午後からも勤務に励みたまえ」

そう高らかに笑って、コーヒーの入った紙カップを2つ、置いていったのは、わが市役所の敏腕、財務部部長、橘将生。であり、私の叔父。私の父の弟だ。

「清香、そろそろ、仕事に戻ろう」

「そうだね…」

橘部長に言われたからではないが、もう10分もすれば、午後からの勤務が始まる。混みあっている化粧室でササッと身形を整え、足早に席に戻った。

「杏、またね。お土産、考えとくわ。」

「うん、じゃあね。」

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