旅立ちの日には、串焼きキャベツを

五色ひいらぎ

詰問の野菜くず

「だからやってねえ。何回言えばわかるんだよ」


 褐色の瞳で私を見据え、目の前の青年は言い放ちました。

 堂々たる態度です。何も知らない者なら、彼の無実を信じてしまいそうです。

 ですが無駄ですよ。この私――毒見人レナート相手にはったりは通用しないと、そろそろ学習してはいかがですか。


「衛兵の証言はあるのですよ」


 私は、青年――王宮厨房の若き料理長ラウルを、負けじとにらみ返しました。

 広くはない私の部屋には他に誰もおらず、互いに机を挟んで座っています。


「ここ半月ほど、厨房通用口からよく外出していますね。二、三日に一度、手に大きな麻袋を持って。通用口の警備担当は、皆目撃しているとのこと」

「王宮に籠ってちゃ料理のアイデアも出ねえ。それとも宮廷料理人は一生、息が詰まりそうな石壁の中で過ごさなきゃなんねえのかよ」


 茶色の癖毛をかき上げつつ、ラウルは私を睨んできます。常人なら気圧される迫力です。

 ……本当に、どこまでも人を食った男ですね。出会った時からそうでしたが。


「自白と、証拠による訴追とでは罪の重さが異なります。重罪を望みますか、ラウル」

「状況証拠だけで訴追は無理だろ、レナート」


 ラウルは腕を組み、ふんと一つ鼻を鳴らしました。しかたありませんね。


「わかりました。今をもって、自白による酌量の余地はなくなります」


 私は、机の下に隠してあった麻袋を掲げました。牝鶏めんどり程度なら入れられそうな袋は、中身が詰まっているせいかずっしりと重いです。


「メイドに調査を依頼したところ、あなたの部屋からこれが見つかりました」


 ラウルの眉がぴくりと動いたのを確かめ、私は袋の口紐を解きました。

 ブロッコリーの芯、人参の付け根、かぶの葉……詰まった野菜くずを一つつまみ、目の前の料理長に示します。


「持ち出していたのはこれですね?」

「どうせ捨てるもんだろ」


 ラウルの眼光はなお鈍りません。ですが、やや語気が弱まりました。


「王宮に『捨てる』ものなどありません。ぼろ布は紙の原料として、汚物は堆肥のもととして……そして食物のくずは飼料として払い下げられています。二か月近くも城にいて、引き渡しの様子も見ていないのですか?」


 そこで一旦言葉を切り、私はラウルを見ました。

 若き料理長は、なおも腕を組んで胸を張っています。しかし気迫はすっかり失われていました。


「横領の罪は軽くありませんよ」

「……あんた、俺をどうしたい」


 さきほどまでとは打って変わった低い声で、ラウルは言いました。


「なんだかんだ言って、あんたは裁判官でも取調官でもねえ。ただの毒見人だ。しかも今は俺と二人きり……表沙汰にしたいわけじゃねえんだろ。狙いは何だ」


 私は目を細め、眉間に力を籠めました。


「知りたいだけです。なぜあなたはこの愚行を冒すのか。なぜ料理長の地位をあえて危険に晒すのか」


 にらみつければ、そこではじめて、ラウルは目を逸らしました。

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