私のなりたかったもの
OFF=SET
第1話
アイドルになることは幼い頃からの夢だった――――
「
高校最後の年、受験のラストスパートを控えるクラスメートとは別に、私はアイドルオーディションに力を注いでいた。
片っ端からオーディションに応募しては、面接へ行く、そんな日々が続いていた。
ある日、一つの事務所が私を受け入れてくれた。頑張れば夢は叶うんだ、飛び上がりそうな気持ちを抑えながら、駅のホームで並んでいた。
「玲子オーディションどうだったの?」
友人の
「うん、卒業するまでまだ仮だけど、とりあえず受かったかな」
「え? 凄いじゃん! じゃあ玲子、四月からアイドルじゃん!」
蘭の声は周りに聞こえる程に大きく、電話を耳から離す。
「声が大きいよ、蘭。周りに迷惑だよ」
「サインしてよね、サイン!」
「もう、気が早いよ、ま、でもぉ? 書いてあげてもいいかなぁ?」
「あはは」と、声をあげて私達は笑った。
翌朝、いつものように制服に袖を通す。
「玲子ー、
「えー?」
一階から母の声が聞こえる。隣に住む
「よっ、玲子」
玄関には幸利が笑顔で手を振っていた。「行ってきます」と、ドアを開けて母親に言うと、幸利を退かせて靴を履く。
「何? 急に、あんたとは別れるって言ったよね?」
「いや、別れたっても、ほんの一ヶ月しか付き合ってないじゃん、それに幼なじみだし? 一緒に登校してやろっかなって」
「魔が差したとはいえ一生の不覚だわ、私、オーディション受かったんだから、男子と一緒に登校なんて撮られたらおしまいだし」
「撮られたらって、気が早くねぇ?」
「うるさい! アイドルは私の夢なの、こんなことで終わらせるわけにいかないの!」
幸利の肩を押し退けて家を出た。
「玲子、こっちこっちー!」
教室へ着くと、蘭と紀子が手招きしていた。
「アイドルやるんだって?」
「凄いじゃん!」
私はノートを広げると、自分の名前をサイン風に書いてみた、三人は「おー」と、声をあげる、昨晩練習したかいがあったってなもんだ。
「でもこのアイドルってちょっと変わっててさ、毎月、人気投票結果で生き残りが決まっていくらしいの」
「生き残りって、なんか最下位が脱退でもするの?」
「そうなんだよね、期間生として、メディアには出られなくなって、地下のステージで人気上げないと再度採用生に戻れない仕組みになってるの」
「そうなんだ……」
「でも玲子なら大丈夫だよ、可愛いし、それに私達がついてるし」
「そうだよね」
「そうだよ」
総勢八人のメンバーが、毎月人気によって入れ替わるという過酷な生き残りバトルのようなユニットだ、私はその中の一人、レギュラー八人入り出来たことはいいのだが、やはり不安はつきまとう。
なんとか生き残る戦術を考えなければ――――
◆◆◆
桜が舞う卒業式、山ほどのサインを蘭と紀子に渡した。
「私、残り続けられるかな?
「私達に任せなさい、SNSで玲子のこと広めるし、幼馴染みの幸利も玲子の推し活するって言ってたし」
不安の中でも夢であったアイドルになることには間違いないのだ、友達との会話は不思議と勇気付けられた。
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