推し(生)活
葵流星
推し(生)活
今日、推しが死んだ…。
正確には、中の人が死んだ。
事務所からの発表により、急逝したという…。
確かに、彼女は健康的な生活というよりは、エナジードリンクとか、カップ麵とか…まあ、女性的と言うよりはかなりずぼらな生活だと彼女自身は言っていた…。
俺は、そんな時折…どこか死んでいきそうな声の彼女が好きだった…。
彼女は、いわゆるバーチャルyoutuberで、モーションキャプチャー越しにとか、そんな感じで主にゲーム実況を行っていた。
俺、自身はそんな彼女のリスナーの1人で、たまに投げ銭するくらいに…まあ、彼女にのめり込んでいた。
ガチ恋禁止!と、彼女は言っていたので、俺のようなリスナー達は…特に困ることもなく普通に中の人とは別に、彼女自身を見ていた。
そんなわけで、俺の『推し活』は、唐突に終わった…。
それこそ、ゴシップや不祥事ということではなく、お別れ会もなく…それっきりだった…。
俺は、彼女を忘れることにしたが…やはり、彼女をすんなりと忘れるには難しく、オフ会を開くことにした。
かつて…いやっ、彼女を好きだった同志として…。
参加してくれたのは、俺を含めて8人で、これまでの出来事を振り返って、その後もオフ会は開催した。
そして、それから…一か月後。
彼女を忘れた俺は、オフ会であった佐々木という人物からとある話を聞いた。
彼は、彼女の積極的なファンというよりは、運営側…ようは彼女のマネージャーが彼の友人であり、件の彼女にもあったという…。
私は、彼からなぜその話を?っと、聞いたら…俺のことを信用できる人だと見込んでのことだった。
内容は、彼女の死のことで、彼女は机に突っ伏した状態でマネージャーと管理人により、発見され救急車で搬送された。
搬送された時には、もう手遅れで死因は心筋梗塞だった…。
だが、話の本題は別で…彼は、彼女が配信しているのを見たという…。
彼は、そのことを佐々木に話し、そして、俺にもそのことを伝えたということだった…。
佐々木は、ショックによる幻覚だと思うと言い…不謹慎だとは言ったが、彼はどこか虚ろ気に、目の下にくまが出ており、佐々木自身もどこか思うところはあるのだろう…。
それから、数日後…彼も配信を見れたと連絡がきた。
代理の人なのかと聞いたが、本人だと言う…。
俺は、その話しが馬鹿馬鹿しく思えて…別の配信者に乗り換えていた。
そんな、ある日…俺は、その配信者のライブを見るためにいつもとは違う時間に…かつての彼女の配信時間に、パソコンを起動した。
そこには、紛れもなく彼女が居た。
そして、普通にゲーム配信をしており、チャットには知っているアカウント名が、コメントを打っていた。
俺は、それが昔の配信されたアーカイブだと思ったら、日付は今日のものだった。
そして、俺はそのまま…投げ銭をした。
『お久しぶりです。元気だったんですね。安心しました。事務所とは何かあったんですか?』
俺は、そうコメントをつけて送ると…。
「投げ銭ありがとうございます。ヤマタノシオさん、お久しぶりですね。私は、元気でしたよ…でも、ヤマタノシオさんの方こそ、どこ行ってたんですか?他の方の配信には、顔を出していたようですが?ふふっ…お帰りなさい。」
彼女の発言に沸くコメント欄、やはりリアルタイムなのか…俺は、ページの更新ボタンを押したが、読み込まない。
それどころか、身体が動かなかった…。
「最後まで、見て行ってくださいね…。」
俺は、その後…彼女の配信を最後まで見て、佐々木に連絡した。
数日後、俺は佐々木にこの事を伝えた。
彼のマネージャーは、数日間…それも、彼女の配信間隔で配信時間中は拘束されたのだと。
そして、その配信を見た後、彼はそれ以降、見ることはなくなったという。
佐々木も同様で、配信されたことは覚えていても内容は鮮明に思い出せなかった…。
マネージャーが言うには、彼女は、連れて行きたかったのだという…。
ようするに、それは視聴者の魂であり、視聴時間分の魂を持っていきたかったのだと…そう、彼女から聞いたと言った。
だが、それは中の人ではなく、彼女のアバターの魂…中の人が配信していた分の魂が、俺の魂を連れて行ったのだと言った。
それは、埴輪や兵馬俑のように、彼女自身が持っていきたかった熱量なのだろうか…彼女は生霊となってしまったのか、それとも、ちゃんとお別れを言えなかったから…それ以上にもっとみんなと楽しみたかったのかもしれないと…そう結論付けた。
オフ会もその後、開催することはなく、俺は佐々木とは交流をしていたが、他のリスナーからもそう言ったことは聞かなかった…。
たぶん、みんな…何かの見間違いか疲れているんだろうと…。
彼女は、これで寂しくはなくなったのかもしれない…。
推し(生)活 葵流星 @AoiRyusei
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