休日の朝には家族四人でサンドイッチを作る
佐倉涼@10/30もふペコ料理人発売
第1話
金曜の夜、七歳の息子と三歳の娘は決まってこう言う。
「ねえお母さん、明日の朝ごはんはサンドイッチがいい」
「サンドイッチ、たべたーい!!」
だから私はにこりとして答えるのだ。
「いいわよ」
結婚九年、家族四人暮らし、共働き。息子は学童で娘は保育園。平日は忙しくて朝は早いし帰りは夕方だ。
だから家族でゆっくりと朝ごはんが食べられる休日の朝を、皆が楽しみにしている。
起きるのは八時。少しゆっくりと起きた土曜の朝から、息子は元気だ。
「お母さん、おはよう! サンドイッチ作ろう!!」
「おはよう、はいはい。……お父さんと杏も起きて」
「うーん」
「あと五分……」
寝ぼけた返事が返ってくる。三歳の娘は息子に比べて起きるのが遅い。ここは旦那に任せよう。
「お母さーん、早く早く!」
「はいはい」
苦笑しつつも元気いっぱいな息子と先に起きて準備を始めた。
朝の支度を整えたらサンドイッチ作り。
次々に材料を用意する。
耳が切り落とされたサンドイッチ用の食パン、バター、ベーコン、レタス、トマト、卵三個、牛乳、いちごジャム、クリームチーズ、ツナ缶に玉ねぎ、マヨネーズ。
「何すればいい!?」
「卵割ってかき回して、焼いてね」
「わかった!」
張り切る息子に指示をすると、卵をコンコン叩いて割り入れる。牛乳と砂糖を入れてあげると、泡立て器でぐるぐると混ぜ始めた。
横目で見つつこちらも作業に取り掛かる。まずはBLTサンド。
ベーコンのパックを開けると熱したフライパンにそっと四枚並べて乗せる。薄いベーコンはあっという間に焼けるのでさっと裏返した。じゅうじゅう音を立てて焼けると香ばしい香りがキッチン中に漂ってくる。
「おかーさぁん、おはようー」
「おはよう。あなたも」
「はよう」
あくびをしながら少し遅れて旦那と娘がやってきた。ベーコンのいい香りに目をパチパチさせる娘は、抱っこされていたパパの腕からスルスルと降りてキッチンに近づいてくる。
「あんも、手伝う!」
「じゃ、杏はお父さんと一緒にジャムサンドを作ってね」
「うん!」
元気いっぱいに返事をした娘はいちごジャムを受け取るとキッチンから見えるダイニングテーブルへと移動し、椅子によじ登った。
向かいにパパが座り、二人でジャムサンドを作り出す。
小さくても一人前な娘は立派にお手伝いができる。たどたどしい手つきでいちごジャムをすくってパンに塗り、その上にクリームチーズを乗せる。挟めば完成、簡単だ。
「お母さん、卵焼いていい?」
「ええ、お願い」
ベーコンを取り出したフライパンをさっとキッチンペーパーで拭き、息子に場所を譲った。息子はフライパンにバターを落とすと、バターが溶けきったタイミングで卵を注ぐ。もう七歳ともなるとフライパン使いもお手の物だった。
真剣にフライパンを見つめる息子を片目に、自分の作業を進めて行く。
ちぎったレタス、輪切りにしたトマトの上に今しがた焼いたベーコンを乗せるとマヨネーズをかけていく。
上にパンを乗せ、厚めのお皿を一枚、上に乗せてぎゅっと体重をかけた。
切った時に崩れないよう形を少々整えておくための小技だ。
しばらくしてからそっと手を離し、そのまま置いておく。
「あっ、卵ひっくり返そうとしたら崩れちゃった。クソォ」
「全然大丈夫よ、挟めばわからない」
「うん」
フライ返しを持った息子が「しまった」という表情をしたので、フォローする。このくらいならば全く問題ない。じっくり火を通した厚焼きふわふわの卵焼きは我が家特製のほんのり甘みのある味わいで、バターを塗ったパンに挟むと抜群に美味しい。
「おかーさぁん、サンドイッチもっと作る」
「ちょっと待っててね」
娘に声をかけられて、手早く次の準備をした。みじん切りにした玉ねぎと油漬けツナを器にあけ、マヨネーズをたっぷりと。それから胡椒をパパッとふりかけ、カウンター越しに旦那へと差し出す。
「はい、よく混ぜてからパンに塗ってね」
「はぁい!」
「母さん、これ切ってくれる?」
「了解」
旦那に差し出されたいちごジャムサンドを受け取って、三角形に切った。それからなじませておいたBLTサンドも切る。断面が見えるように盛り付けると、横で卵サンドを作っていた息子の「出来た!」という声が聞こえてくる。
「どれどれ……あら、美味しそう!」
「へへへー」
満足そうな顔をする息子が作った厚焼き卵サンドは、黄色い断面が見事でとても美味しそうに出来ている。
「初めて作った時から比べると成長したわねえ」
「まあね! 俺もう、小学生だからね!」
胸を張ってそう答える息子の姿が誇らしい。本当に大きくなったなぁと思いながら、娘の「できたー!」の声でそちらに意識を持って行かれた。
「はいこれ!」
「あら、上手」
こちらは少し具のツナマヨがはみ出していたけれど、上出来だ。嬉しそうに持って来たお皿を受け取って頭を撫でると、とても嬉しそうにはにかんだ。
受け取ったサンドイッチを切って盛り付ける。
「よし、完成!」
「わぁい!」
「腹減ったー!!」
娘と息子の歓声を聞きながら ダイニングテーブルにお皿を並べる。
私が作ったBLTサンド。
息子が作った厚焼きの甘いタマゴサンド。
娘と旦那が作ったいちごジャムとクリームチーズのサンドと、ツナマヨサンド。
どれもこれも美味しそうで、どれから食べるか迷ってしまう。
四人で座り、手と手を合わせる。
「「「「いただきまーす!」」」」
土曜日の朝、少し遅くに食べるこのサンドイッチは我が家の一番のご馳走だ。
休日の朝には家族四人でサンドイッチを作る 佐倉涼@10/30もふペコ料理人発売 @sakura_ryou
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