ほしいのは共感

シヨゥ

第1話

「ほしいのは同情じゃなくて共感なんだよね」

 とりとめもない会話の果てに彼女はポツリとそう言った。

「共感?」

 投げ掛けるような言葉でもなかった。それでも気になった。だから水を向ける。

「……そう。共感」

 彼女はしまったという顔をしたあとそう肯定した。

「『大変だったね』とか言われても体験していない癖にって、思ってしまうんだよね。それで抱きしめられてもちょっとモヤる」

「そうなんだ」

「そう。それよりも『同じ体験をしたら同じことを思うと思う』って言ってもらったほうが嬉しいかなって」

「たしかにな。分かっていないくせに何を言っているんだ、って思うこと多いもんな」

「そうそうそういうこと。だから、私は君のことが好きなんだ」

 話の流れでまた告白されてしまった。

「なんで?」

「自然と共感してくれるから」

「そうなのか?」

「そうなの! あー恥ずかしい。らしくないらしくない。構造を説明するなんてらしくない」

 そう言って彼女は赤くなった顔を手で扇ぐ。

「それ僕としては嬉しいぞ」

「私は嫌なの!」

 そう言ってそっぽを向く。その姿がかわいくて抱きしめる。

「なんで?」

 と聞かれたので、

「ありがとうのハグ」

 と答える。

「モヤる?」

 と聞けば胸に押し付けられた顔を左右に振られた。

「顔を見せたくないからしばらくこのままがいい」

「はいはい」

 とりとめもない会話。それも楽しい。しかしながらこんなむず痒い時間もいいものだ。そう思う。だから彼女には本音をもっとうっかりこぼしてほしい。そう思うのだった。

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ほしいのは共感 シヨゥ @Shiyoxu

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